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第35話 真実を語る悪


「よいか、悪魔や妖は不変なる魂を持っておる。それを潰すだけでよいのじゃ。簡単であろう」


 バルザックに教授する合間にもエイジスは蠢きながら


「ウネウネするでないわ。  喝  ! 」


 柊忍の一喝によりエイジスは竦みあがるようにピタッっと動きを止めた。全身ではない。一箇所だけ今もピクピクと動いている。


「喝?レイラさんが言ってた『か〜つですわ』ってやつか。本来はここまでの力を秘めているのか……」


「バルザック某には機会があれば教えてやろう。ワシが男に教えるなど珍しいぞ」

「…………」


「なんじゃ乙女?いいたい事があれば申してみよ」

「…………ありませんので早く済ませて下さい」


「また触るのも億劫じゃのう。シノブの身体じゃしええじゃろ」


 柊忍がエイジスの鱗を突き破り肉を引き千切り取り出すのは怪しく動く臓の1種。滴る血液に狂気的な笑みを浮かべバルザックに手渡した。


「これが彼奴の魂じゃ。潰せ」


 言われるがままに臓器を握りしめるが、

「ぐ…………硬……」

「力なぞ要らん。消滅させる意志。この地より更に獄へと落とす意志さえあればあとは貴様の魂が事を成す」



 バルザックは心を無にして臓器を握り潰した。呆気ないほど、豆腐でも潰したかのような脆さ。



 エイジスの身体中から鱗が剥がれ落ち、最初に会った時と同じ、女性のエイジスが姿を現した。表情は穏やかでヨロヨロどバルザックに近づいて来る。


 バルザックは多少警戒したがそれも束の間。誰の目にもわかるほどエイジスに敵意はなく、そっとバルザックの頬に触れた。


『坊やがワタシを解放させてくれたのね……ありがとう。長かった……500年は本当に長かった』

「え……解放?何を言ってるんだ。僕は悪魔を……」


「坊やからすれば滅ぼした。ワタシからしたら解放してくれた恩人よ。その恩人に1つだけ忠告させて……《インユリア》アイツを信じちゃダメ。加護なんて名前だけの呪いよ。強くして強くして絶望させる呪い」


 その忠告に対してバルザックは顔をしかめた。人間が魔物に対抗できる手段の1つ。それが呪いと宣うのは彼女が人間の敵、悪魔だからに他ならない。


「セスは……最後なんて言ってたかしら?」


 エイジスはレイラを抱いているメイデンに目を向ける。セスはメイデンが滅ぼした悪魔の名前。その最後の言葉。それを知っているのは悪魔を滅ぼした彼女だけ。


「…………覚えてません」

「乙女!正直に言わんか!彼奴の最後の望みじゃ!」


「――感謝を口にしていました。内容を覚えていないのは本当です」


「そう……そうよね。皆後悔してる。私達はみんな後悔してる。……坊やには漫然と幸福を教授する人間(たにん)に代わってワタシが謝るわ。ごめんなさい。」



 エイジスの身体が崩れ始めた。最後を悟ったエイジスは穏やかな顔でバルザックの耳に口を近づけ


「――――――」

「な……そんなわけ……嘘だ!」


「本当よ。私達はみんなそうやって悪魔になった。私達の願いは1つだった!元は人間を救いたかった!その結果がコレよ!だから………


  坊やも早く殺される事を祈ってるわ  」



…………

…………………………


「メイデンは知っていたの?……その……悪魔を殺したらどうなるかを」

「……知ってましたよ」


「なんで言わなかった!?なんで公表しなかった!?」


「言えば信じましたか?信じたとして周りには関係無い事であり、私達にも関係ないではありませんか。未来のことを不安に思えるなんて今まで余程楽をして生きていたんですね」


 バルザックは頭を抑えるようにうつ伏いた。エイジスが嘘をついた可能性に期待したが、メイデンの態度を見る限りは真実かも分からない。



 エイジスが最後に放った言葉(のろい)



「坊やが次に与えられる生は悪魔よ。人々に疎まれ蔑まれ、寿命なんて救いもなく殺されるまで乏しめられる。早く解放されたいのなら……悪魔を殺せる人間を育てなさい。他の悪魔のように」








「あ!戻ってきた!」


 重い足取りでアルフィーの町に戻るとタウロスが焦ったように駆け寄り


「メイデン!ちょっと聞きたいんだけどあそこに居るのが悪魔かどうかわかるかな?」


 タウロスが見張り詰め所へと案内するとそこには両腕を亡くし鼻を削がれ、憔悴した表情で天井を見上げながらブツブツと呟くシルクハットの優男の姿。


「オレは……ブイ……オレは……悪魔……覚えている。なにを……覚えていない……オレは……ブイ――」



「……エイジスって悪魔と一緒にいたからそれも悪魔なんじゃないの?でもなんでこんなにズタボロなの?」



「悪魔だったのか……良かった……てか、悪魔ってその辺にいるの?」


 タウロスはホッと胸を撫で下ろした。その姿はまるで自分に罪がないとわかり安堵したかのように。


「これは……誰がやったんですか?悪魔相手にこんなことが出来るのはまともではありませんよ」


 メイデンの問いに見張りの兵士達の視線が一斉にタウロスに集まった。


「ち……違う!違う!具合が悪そうだったから触ったら腕がもげたんだよ!鼻が削げ落ちたんだよ!俺は何もやってない!」

「タウロス兄様は悪魔特効を持っていたんですね。感服致しました」


……………………

………………

………



 タウロスが町の入り口でそわそわしている。訳はレイラの心配。同伴したのがバルザックならば早くても今日には戻って来るはず……仕事が手につかず今や遅しと二人の帰りを待ち続けている。シノブとメイデンが跡を追けたことは安心材料の1つだが、


そこに


「ちょ〜っと失礼。ジル.ローレスを殺したいんだけど居場所知らない?」

 シルクハットの優男が気軽にタウロスに語りかけた。


「なんだお前?ジルさんの知り合い?それにまずは許可証をみせて」

「……お前ジル.ローレスの知り合いか?だったら取るべき行動は1つだけだ〜」


 優男は軽くタウロスの肩に触れ。肩から半身にかけて


   呆気なくすり潰した


「ガ!?あ嗚呼ガガガァァァ!!」

「叫ぶな叫ぶな。もうすぐ死ぬからこれだけ覚えとけ。ジル.ローレスと関わったのがお前が死んだ理由。恨むのならジル.ローレスを恨んでね〜」



 見張りの兵士が異変に気付き駆け寄りると……タウロスは死に絶えていた。


  


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