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第34話  全力えんぎ


 老馬がレイラとバルザックを乗せてメイデンの元へとやってきた。メイデンは安心した表情でレイラを抱えて地面に優しく寝かせた。


「メイデン.カーター!君は悪魔を殺せるんだろ!?頼むよ。このままじゃヒイラギのお兄さんも危ない。僕も……あと1分もすれば魔力が戻るから一緒に――」


「でしたら1分後に帰りましょうか」

「……なんでアンタは悪魔を殺せるのになにもしないんだ。世界中の人間がお前を憎んでいる。力がありながらなにもしないお前を!」


 バルザックは歯を噛みメイデンを睨みつける。11年前に悪魔を滅ぼした存在は以後二度と悪魔を殺さなかった。その理由すらも説明せず世界中を渡り歩き、カーター家の養子になり冒険者ですらなくなった。


 それに対して世界中が失望した。特に悪魔が多いこの国の人間の期待をメイデンは裏切り続けていた。


「他人に期待などせずに自分でやればいいじゃないですか。私はシノブさんと散歩していたら偶然お嬢様を発見しただけですよ。そもそも今回に限っては手出し出来ませんし」

「なんだよその理由……自分でできないから言ってるんだよ!」


 メイデンは大きくため息を吐ききる。人間の醜悪さに易癖とするように、


「ハァ……アレが死んだら後日あの悪魔だけは私が殺します。それでいいですか?」

「アレって……ヒイラギのお兄さん!?無理だよ!君以外に悪魔を殺せる存在なんて――」



「アレが無理なら私も殺せません。それとヒイラギ様の名誉の為に言っておきますがアレはヒイラギ様ではありませんので誤解なさらぬように」


 バルザックは遠くにいる柊忍とエイジスに目を向けた。二人ともこちらにまるで関心がない。柊忍は光閃を紙一重で躱しながら胸へと一撃をなんとか当てているがエイジスは余裕の笑みを一切崩さない。


 柊忍の攻撃はまるで通用していなかった。



「そろそろ動けますよね?私は帰りますよ。お嬢様が寝ているとはいっても……アレは不愉快なだけですから」


 メイデンはレイラを背負い老馬を引きながら踵を


「乙女!貴様はワシに背を向ける気か!この痴れ者が!」

「……ッチ。さっさと成仏すればいいのに」


 遠くから放たれた柊忍の怒号。大地が震える現実を錯覚と思い込みその場で正座してエイジスと柊忍を視界におさめた。


「……バルザック様は見ないほうがいいですよ。本当に不愉快ですから。時間の無駄です。セミの抜け殻でも眺めていたほうが余程有意義です」

「聴こえておるぞ!貴様は本当に口が悪いのう!」


「乙女?それに……僕だけでもヒイラギのお兄さんを助けないと」


 バルザックは自身の傷を確認しながら立ち上がった。なんの役に立つかわからない。それでもいないよりは遥かにマシ。


「今アレに近づけば……貴方は子供だから殺されませんが……先程漢と認められましたね。間違いなく殺されますよ」


 メイデンの瞳は酷く冷めていた。

 そしてバルザックも薄々感じていた。エイジスと対峙しても感じなかった悪寒。


 自分は死なない。しかし今近づけば……死ぬ。


ーーーー


 もう数十。柊忍の掌底がエイジスの胸に当てている。次第に息も上がり始め右手をダラリと落とした。


「あらァ?もうお終い?なにがしたかったォ?」

「もしやお主……心臓が逆位置じゃな?ワシとした事が見事に計られたわ!」


 柊忍が大地を蹴りエイジスの胸へと掌を当てる。


「……それは効かないしもう飽きたわ。貴方は絶望なんてしないのよね。終わらせましょう」


「ハァ、ハァ……まだじゃ!ワシの技はお主に通じるはずじゃ!心音拳が完全に入れば貴様なぞ……」


 エイジスが支配石を丸呑みにした。失われた腕が姿を取り戻す。皮膚に鱗を纏い爪は歪に生え、


「なん……じゃと…………!?」


 柊忍がの表情が染まっていく。


「アハハハハァ!それよ!その感情が欲しかったの!絶望に染まった表情。とても素敵よォ!とてもとてもトテモ!」


 エイジスの全身が膨れ上がり全身が鱗。背にはヒレ。二足歩行の爬虫類へと変態させた。


「馬鹿な……それが貴様の……本性なのか?……シノブ……どう言う事じゃ!?」


 その問いによって柊忍の絶望は完成する。だからこそエイジスは嘘偽りなく答える。絶望の底へと叩き落とす為に


「そうよ!これがドミナートル……支配石で得たワタシの力。ワタシだけの力。ワタシの本来の姿!貴方はじっくり痛ぶる真似はしない!今すぐ死んで――しま――い」


 最後まで喋る事なくエイジスの首が落ちる。柊忍の右手からは赤緑の血液が滴っている。


 心底不快そうに纏わりついた血液を払い


「痛恨じゃ。貴様が女じゃと思うておったから胸を触っておったのに業腹極まりない!」


 首だけのエイジスが柊忍を見つめ口から、物言わぬ10本の指全てから


それよりも疾く、柊忍はエイジスの全てを踏み潰した。



「その玩具をまだ使う気か?光を飛ばすのなら光と同程度には速くこんか!ワシはあくびを噛み殺すのに必死じゃったぞ!この虫けらが!」


 首のないエイジスはモゾモゾと蠢き本来の形を取り戻そうと動く。それに対して柊忍が貫手を放った。掴まれ強引に引き千切られた臓器はピクリとも動いていない。


「幻魔で斬る価値すらない汚物が。ワシはもう貴様に触れたくもないぞ。…………バルザック某!ワシの前に来い!」


 バルザックは身体をビクリとさせてゆっくりと近づく。柊忍は手加減していのだと悟った。手加減して手加減して。ギリギリの戦いを演出して。



 戦いと称して


 エイジスの  女性の胸を触っていただけ。



「さて、バルザック某よ。お主は退魔を欲していたな。ワシが直々に伝授してやろう。それとも……

漢の浪漫  柊流 心音拳がよいかのう?」


「…………いや。退魔でお願いします」


「漢と思っていたがまだまだ小童じゃの。尤も……誰も教わりたがらなかった哀れな技じゃからのカッカッカッ!」


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