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第33話  求めた声

 

 エイジスの持った石から照射される光。範囲は広くない。しかしその速度がわから――その僅かの思考の合間にバルザックは消滅させられる。


 その都度。



「…………ふう」

「30回目ねェ〜。坊やは肉体復元に対する魔力効率が余程優れているのねェ。」


 身体を喪うたびに瞬時に回復させる。僕の魔法は回復に特化している。加護も直接攻撃に関係したものは与えられなかった。


 そもそも僕は戦闘なんかてんでダメだ。相手が人間ならある程度はやれても……コイツは多分


「……お姉さんは、悪魔なの?」


 間を取るために言葉を投げかける。むこうは散々喋っている。答える可能性は高く


 なにより


「そうよォ。ワタシは名をエイジス。死にゆく者に自己紹介はしない主義なんだけどォ……機嫌がいいから特別よォ」


 自ら機嫌が良いと言いつつエイジスは片手で石を見つめ不機嫌に舌を鳴らした。


「間違いなく本物の支配石なのに……ない」

「支配石?その石はなんなんだ?」



「ん〜……答えてあげてもいいけどォ。先に質問に答えなさい。どうやってニーチェから支配石を奪ったの?ブイも『冒険者ギルドで見つけたって』言ってたから興味あるのよ」


 奪った?それにニーチェってあの馬鹿か?とりあえず時間稼ぎだけはできるな。


「それはニーチェって女に渡された物って言ってたよ」

「ニーチェが渡した?あのニーチェが?嘘は嫌いよォ。大方寝てる隙に掠め盗ったんでしょう?良く生きていられるわねェ」


「……知り合いが記憶喪失の可能性があるって言ってた。だからじゃないかな?」


 話は通じている。不意打ちをする可能性も危惧にいれつつも、今優先するべき事は


 絶対に悟らせない。僕が守るべき人の存在を。


「ブイも何処かおかしいって言ってたわね…………もういいわ。貴方達はお家に帰りなさい。ワタシはこの石を持てれば良かっただけェ。これをニーチェから盗んだだけでも立派……偉業よ」


 見逃される?その石の効果を聞くか?アレはレイラさんの物だ。取られたままでいいのか……いや、命には代えられない。僕と違ってレイラさんが怪我したら……怪我なら一瞬で治してみせる。


 でも一瞬よりも速くレイラさんの身体が死んだのなら



「なるほどォ〜。やっぱりやめたわァ!」


 エイジスは石をレイラさんに向けて光を集め始めた。


「!?ヤバい――」

「やっぱりそうねェ!坊やの希望はその娘。坊やの絶望はその娘の死!アハハハァ!」


「 チェンジフィールド 」


 ーーーー


 レイラの居た場所から煙が立ち昇る。天高く昇ろうとする煙は遺体に集まり徐々に……徐々に元の形を取り戻した。


「 が……ハァ……ハァ…………」

「あらァ?まだ小さいのだから身の程にあった魔法を使うべきよォ」


 バルザックのいた場所にはレイラが眠っている。条件付で対象との位置を入れ替える魔法。

 それはバルザックにとってはまだ簡単に使用できる物ではない。それを補助する魔法具も携帯していない。



 エイジスは濁った笑みを浮かべレイラに石を向けた


「もう一度やってみなさいィ。坊やの魔力が、気力が尽きた時。坊やの絶望を啜ってあげるわァ」


 バルザックが両手を地面に置きエイジスは光をレイラに照射させた。


「チェンジフィールド!」


 バルザックの眼球から血が溢れ出し、


「ガハッ ゴボッ」


 口から、鼻から魔力を纏った血液が流れ落ちていく。魔力暴走。精神が不安定な状態で魔法を使った者に訪れる絶対の罰。身体は命令を聞き入れない。


 バルザックは訪れる結末を見続けることしかできなくなる。目から流れた血はすぐさま薄く染まり涙と共に流れ落ちた。


「グ……レイラさん……レイラさん……殺してやる……お前を……殺してやる!」


「いいわァ!その絶望がほしかったのォ。ワタシはその憎悪を喰らいたかったのよォ!あの娘がこんなに簡単に死んだのはワタシも残念よ!坊やを絶望させたかっただけで殺す気はなかったの……本当よォごめんなさいねェ。」


 バルザックは血反吐を吐き続けエイジスを睨む。自分の中で守ると誓った女性が呆気なく死んだ。その無力感を憎悪に変かえながら。


「今の僕では勝てないけど……絶対にお前を……悪魔を殺してやる!」

「そうよ!そうよ!ワタシを憎みなさい!その復讐心を忘れてはダメよォ!インユリアに(たぶら)かされても忘れちゃダメェ!絶対に覚えておきなさい……そして……


 次はワタシを殺しなさい」


 エイジスがバルザックに死を突きつける。魔力暴走したバルザックに躱す術も。復元する余力もない。その一撃は漫然と受け止めなければならない痛恨。



「好いた娘を守れる魂は男を漢へと変える。どのような世であろうともその魂は美しさすら感じるわい」


 不意に声が聴こえた。何故今まで気付かなかったかのかもわからない程に近く。それができる人物など限られている。


「しかし意図して守れぬ屈辱を与えようとする輩など性根が腐っておるではすまされんのう。じつに醜悪じゃ」


「ヒイラギのお兄さん!?……違う、え?試験の……」

「バルザック某よ。お主の身体は小童じゃが心は立派な漢じゃ。誇ってよいぞ」


 その姿を確認したバルザックは呆気にとられた。シノブ.ヒイラギに酷似した存在は傷1つなく眠っているレイラを抱きかかえていた。


 レイラを老馬に乗せバルザックを抱えあげ


「向こうに乙女……メイデンがおる。ここはワシに預けてみぬかのう?」



 エイジスは待ち望んだ再会に憎悪の笑みを放った。


「会いたかったわよォ……覚えてるわよねェ?貴方に切断された腕が疼くのォ!今なら貴方を殺せる。こんなにも早く会えるなんてワタシは幸福だわァ!」


「それは勘違いじゃ。ワシはシノブではない。借り物の力を己の力と勘違いした阿呆は同じく借り物の身体を使うワシが相手をしてやろう」



 柊忍が全身に気を張り巡らせる。絶対的な殺意を一方的につきつけたのは……エイジスだった。




 柊忍が一息で間合いに詰め寄り掌底がエイジスの胸に触れる。エイジスが一瞬だけ眉を潜めた。


「その程度なのォ?羽虫かと勘違いしたじゃないィ」

「心の臓を破壊するワシの一撃が効いてないじゃと?…………面白い!ならば今一度じゃ!」




 柊忍が冷や汗を流しエイジスの高笑いが木霊した。



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