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第32話  ドミナートルを担う者


 「あ……捕まっちゃいましたわ」


 僕とレイラさんが丘の上から野盗達の行く末を見守っている。激しい戦いなど一切なくあっさりお縄についた。


 馬鹿過ぎる。人数でも実力でも負けている。加えて知恵も働かせずに突撃なんて通用するはずがない。相手は100人。加えてその後の逃亡生活まで考えて行動していたのか?


 確認なんて最早不可能だ。捕まった野盗達は処刑される。他に仲間がいないか拷問を受けて……


 あ!?ヤバくないか?僕とレイラさんが仲間と思われてる可能性もある!


「レイラさん。一旦町に戻ろう。魔狼退治は後日にしようか」

「それは構いませんけど……野盗の皆様……」


 全く事情を理解してないレイラさんは野盗の心配をしている。……国の魔道士連中はレイラさんの顔を知っている人が多数……全員知っているから見つかっても問題ないのか?


 でも言い訳も面倒だ。国に弁明に行くのも面倒だ。


 少なくとも僕は野盗の心配など一切していなかった。愚か者は死んで当然。僕は自分のことだけを考えていた。



「  あ!   」


 レイラさんが大きな声をあげた。


 野盗の1人が首を刎ねられ生首を袋に詰め込まれた。

 早いな。ここで殺すのか。てっきり町か王国首都で処刑するかと思ってたけど


「   ふう。  ふう  ふ〜〜。」


 レイラさんが胸の宝石を抱きながら息を整えている。遠目とはいえ人が死ぬ瞬間を見ている。試験の時の僕のもと弟子とは違う。1日だけだが確実に喋っていた知り合いが呆気なく死んだのだ。


「レイラさん、変なこと考えてない?あれは自業自得だよ。悪事をすればいずれ自分を――」

「黙りなさい!!」


 僕の言葉を遮り宝石を握りしめた手を突き出した。


 左手で握った宝石に右手を添え……顎付近まで近づける。それが僕には弓矢を彷彿とさせた。


「シノブ様は『一宿一飯の恩は忘れるな』とおっしゃいましたわ」


 右手は何も掴んでいない。虚空。虚空を引き絞るように遥か遠くを見定めている。


「ニーチェ先生様は『自分は好きにすればいい』とおっしゃいましたわ。ですから…………アタシの好きにするとしようかね』


 レイラさんの瞳が変色していく。それは握られた宝石と同じ濁った黒色。そのまま黒を言葉と共に吐き出すように、



「    Zero Line      」



 悪夢の一射が放たれた。



ーーーー


「ガッ!?」


 積み荷の護衛をしていた魔道士が突如意識を失い、その場に崩れ落ちた。周りの者は瞬時に悟る。


 最初の野盗達は囮であり捨て石。本命は


「狙撃だー!全員備え…………」


 危機を周りに知らせようと大声をあげた魔道士が倒れた。近くの男が駆け寄り治癒魔法を施そうとするが


「どこも……怪我をしていない?なんだこれは?」


 意識がない。呼吸もしていない。脈もなく心臓も動いていない。しかし倒れた魔道士は確実に生きている。ただ動くという機能が停止している。


 その身に降りかかる危機に全員が周囲を警戒しだし遥か遠くに2つの影を捉え


「あ…………」


 また一人意識を断ち切られる。魔法の形跡はない。未知数の加護の可能性もある。わかっているのは次々と気を失いいつかは自分の番になるだけという確信。


 


 


 その光景を遠方で見ていたバルザックが驚愕している。

「なんだあれ……魔法じゃない。レイラさん!今のは」


 レイラはポテリと倒れ小さな寝息をたてながら眠っていた。



「エイジス、どうなんだ〜い?」

「間違いなくニーチェが造った支配石よォ。ジュデッカよりも先に見つけられて良かったわァ」


 バルザックはレイラを抱きかかえながら後ろを振り向いた。警戒の魔法は張っていた。それをくぐり抜けてきた男女2人。


 一人はシルクハットを被った色白の優男。もう一人は隻腕の女性。


「オレのおかげだろ〜?感謝の気持ちとかないわけ〜?」

「……ニーチェにはワタシから言っておくわァ。出来ればバレたくないから隠密に行動してねェ」


「そりゃ助かるぜ〜、オレの?オレは誰かを……なんだっけな〜」

「ブイ、貴方おかしいわよォ。ジル.ローレスを殺すってさっきまで散々言ってたじゃないのォ。」


 ジル.ローレス。

 ブイはその言葉を聞き思い出したかのように、なにも思い出せず何処から来るかも知れない怒りを滲ませた。


「そうそれ!それだよ!流石にニーチェのいる町で無許可に暴れたら絶対粛清されるからな!」


 ブイはシルクハットを深くかぶりなおし足元から徐々に大地に沈んでいった。


その身体全てが消える直前。


「貴方忘れてるかもだからもう一度いっておくわァ。『ジルジルには絶対に関わるな』ワタシとロクシリーヌへ宛てた警告よォ」


「関係ないね〜。今も忘れてたんだ。どうせまた忘れてるさ〜――」




「さて……と」


 エイジスと呼ばれた女性が笑みを浮かべレイラに近づき足元にある石を拾いあげた。黒色の石はエイジスに触れた瞬間赤へと変色した。


 その変化に僅かな不満な表情を見せたものの、


「まぁいいわ。これがあればアイツにも勝てるわァ…………坊や、貴方で試し撃ちさせてくれない?」


 エイジスが石をかざしたと同時にバルザックはその場を離脱しようとして


「どこに!?この世界の何処に逃げる気なのォ?」


 凝縮された閃光がバルザックを照らし、皮膚を溶かし肉を溶かし骨を溶かし跡形を残し


「あらァ?本当に坊やは人間なのォ?」


 エイジスは笑みを崩さない。跡形から復元されていく肉体。バルザックは歯を食いしばりながらエイジスの後方に回り込んでいた。


「僕は絶対に死なない人間さ。いくらでも試してみるといいよ」

「生意気な坊やねェ。貴方の絶望に染まった顔を拝ませて!絶望を啜らせなさいィ!」

 

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