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第31話  略奪


「おはようございますわ!バルザックは早起きですのね!」

「…………おはよう」


「寝ぼけてますわね。お日様の光を浴びるとシャキっとしますわよ」


 レイラさんと共に外へ出る。結局一睡もできなかった。普段から昼寝していたら夜眠れなくなると言われていたが……まさか今日に限って……今更眠気が襲ってくる。


 外の樽には汚い雨水が貯められていた。多目的用の水だろう。飲水には使えないが水は基本万能だ。

 しかし、昨日浄化したのにまた汚くなってる。薄汚れ泥や脂が浮いて……髪の毛まで……


「先に使うぜ!…………プハァ!」

 野盗の1人が僕を押しのけ貯め水に顔をドボン。……荒々しいのは立派だけど次に使う人のことも考えてくれよ。



 野盗は強引に顔を拭い小屋へと戻って行った。


「…………キュア」

 汚水に指を浸し浄化の魔法を唱える。汚れがみるみる消え去り真水同然となった貯め水をすくって顔を洗う。


 多少……眠気が……覚めた気がする。


 レイラさんは……何故か草むらで正座をして目を閉じている。眠いのかな?


「なにやってるの?」

「これはザゼンですわ!シノブ様とメイデンが朝にやってますの!バルザックもここに座って!」


 言われた通りレイラさんの隣に座り……レイラさんは立ち上がってしまった。


「いいですこと?薄っすら目を開けて余計な雑念を払うんですのよ!わたくしが見ててさしあげますわ!」


 ……余計な雑念もなにも眠いしか頭にない。精神集中の一種なのはわかるが正座する意味がわからない。


…………


 でも  意外と…………



  パァァン  僕の肩に衝撃走る!


「   か〜〜つ!!ですわ!」

「痛っった!?何するの?」


 不意にレイラさんが木の棒を僕の肩に叩きつけてきた。痛いと言うよりびっくりした。レイラさんはびっくりした表情の僕をケタケタ笑っている。


「邪念がありましたわ!わたくしが見過ごしませんわ!その度にわたくしが振り払ってさしあげますわ!」


 邪念?良い集中を保ててたはずだけど……なるほど……厳しいな。


 余計な思考は必要ない。 



   心を――無に―――――




 パァァン 再び僕の肩に衝撃走る!

 

「  か〜〜つ!!ですわ!邪念がありましたわ!」

「嘘でしょ?そもそもどうやって見破ってるのさ!」


「後ろに立てばわかりますわ!バルザックは邪念まみれですわよ」

「……ちょっと後ろに立つ役を僕にもやらせてよ」


 なんかこれ胡散臭いぞ。叩きたいだけなんじゃないのか?それとも純粋なレイラさんが言うんだから本当になにか見えるものなのか?


「バルザックはまだまだそのりょ〜いきには達してませんわ。この高みはたゆまぬたんれんの末に到達するんですわ」


 あぁ……これ誰かの受け売りだな……普通に考えてメイデン.カーターか。

 そしてレイラさんは僕の邪念とやらは見抜けていない。証拠にさっきより余程関係ない事を考えているのに肩をパァァンしてこない。



 真面目にするのが阿呆らしくなる。もういいだろう。


「レイラさん僕はそろそろ…………いない」


 レイラさんはいつの間にか繋いでいる馬に飼葉を与えている。


 まさか、僕が真面目にザゼンに取り組まないと見抜き呆れてしまったのか?幻滅されてしまったのか!?


「――やって やるよ」


…………

……………………


「――い!おい!」

「…………なにかな?」


「なんで反省させられてるのに偉そうなんだ?さっさと朝飯食っちまえよ」


 野盗の1人に声をかけられ集中が途切れてしまった。

もう少しでなにか悟りそうだったのに……いや、多分無理だろう。僕はその領域には達していない。一意専心が必須…… ザゼン 奥が深いな。


 そして傍から見れば僕はレイラさんに罰を与えられてると思われているのだろう。従者ではないと否定してややこしくなるのも面倒だし


 レイラさんを守る騎士と言っても信じないだろう。


…………


「ボス!来ました!護衛馬車隊です」


 カチカチのパンを食べていると見回りをしていた野盗が戻ってきた。半日しかも過ごしてないけどコイツ達は野盗だったな。主な生業は略奪。商人でも襲う気か?




 部下たちは固唾を飲みながら頭の一言を待っている。


「……行くぞ…………」

「「「!?  はい!」」」」


「お譲ちゃん達は……俺たちが成功したら呼ぶからここで待機だ」



…………

……………………



 野盗たちは僕とレイラさんを置いて襲撃に行ってしまった。警戒心が薄すぎる。この建物の中にある僅かな金品が盗られないと思っているのか?


 盗らないけど。


 しかし少し気になるな。


「レイラさん。ちょっと外に出ない?」

「?いいですわよ!」



 一頭余っていた老馬に跨り二人で見晴らしのい丘にあがる。目を凝らしながら一点を見つめていると


「……馬車隊って…………あれか?馬鹿じゃないの?」

「何を見てますの?」


 そっか。僕は視力を強化してるけどレイラさんは何も見えていない。


「レイラさん、目を閉じて」

「?わかりましたわ」


 素直に瞳を閉じたレイラさんの瞼に軽く触れ……クソッ!指が震える。優しく優しく触れて、と。


「もういいよ。アレは見えるかな?」

「!?凄いですわ!あんなに遠くまではっきり見えますわ!ん〜〜……あ!野盗の皆様がいますわ!」


 そうだ。野盗達は馬車隊襲撃に向かっている。今の時期……もう4回目になる恒例行事。


「向かいに凄く沢山……100人ぐらいいますわよ?野盗の皆様は大丈夫ですの?」


「……死ぬよ。あの護衛は冒険者じゃない」


 ジィちゃんが金欲しさに受けた依頼があった。と言うか今もあの中にいる可能性もある。

 ザッと見渡したけどそれらしき人影は見当たらなかった。

 人数無制限でありながら破格の報酬。条件は国の所属の魔道士。手の空いている魔道士は積み荷の護衛に殺到する。

 その代わり絶対に失敗は許されない。確実に積み荷を町に……ある人物に送り届ける。



 依頼人はわかりきっている。多分この国に限れば国王よりも有名人だ。

 


 ウィル.カーターとライラ.カーター。レイラさんの両親。積み荷の中は世界中から集められたレイラさんに贈る誕生日プレゼント。


 そんな物を盗ろうとすれば……死ぬ。




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