第21話 魔道士がやってきた
「依頼人はメイデン.カーターでいいんじゃな?なにか申す言葉はあるか?」
「ありませんよ」
タウロスの執務室で白髪の髭を蓄えた老人がメイデンとタウロスを睨みつけている。しかしメイデンは眉1つ動かさない。
未探索の洞窟の地図作製依頼。現在ギルドの依頼書は破棄されている。達成者なし。行方不明は40人を超えている。今は国の魔導士が正式にこの件を調べている最中だ。
「たしかに40人以上の冒険者が行方不明は大事件ですけど、それを依頼人のせいにするのは間違ってますよ。冒険者が命を落とすのは自己責任でしょう」
「タウロス兄様……首を捻切りますよ」
「えっ!?俺フォローしたんだけど!?」
老人は顎ひげを撫でつつ室内を見渡す。老いてなお全身から闘気が漲っている。
「……このへんでいいかのう?」
「いいんじゃないの?調書なんだから良し悪しはジィちゃんが判断してよ」
「こちらとしても調査は続けさせてもらいます。今回はここで失礼させてもらいます。また機会があれば私、トーマス.ダウンに一声おかけください」
老人の隣にはレイラと同い年ぐらいの少年。何度か目にしているな。ミシェルの弟、バルザック.ガーソン。そして2人の祖父。ワイド.ガーソン
そして町の新聞記事作成をしている男。ハンチング帽を被り、席を立ち一人退室して行った。
ワイド爺は頭を描きながらメイデンに向き直った。
「正直言うとな、ワシ達は冒険者達の行方なぞどうでもいいんじゃよ。十中八九死んでおるわい。ワシとバルはメイデン.カーターに会えると思って来ただけじゃ」
「要件がお済みでしたらお帰り願います。私は仕事が残っているので失礼します」
メイデンは立ち上がり音も無く執務室から出て行った。ワイド爺は肩をすくめた。孫の視線が突き刺さっているせいだろう。
「……だからさぁ〜!ジイちゃんはなんで会いに来たって言っちゃうの!?本題言う前に消えちゃったじゃないか!」
「ワシは回りくどい事が嫌いなんじゃ!店番サボって勝手についてきて文句ばかり……嘆かわしいわい!」
「あんな店さっさと潰した方がいいって、需要ないよ」
喧嘩をしているが仲がいいのは見て取れる。言葉に出さずともお互いの事は尊重しているのだろう。
「えぇ……と、ヒイラギのお兄さんと、タウロスだよね。伝言いいかな?」
「なんで俺は呼び捨てなの?」
「ちょっと困った事があって相談したいんだよ。もう半年以上経つからいい加減手を打ちたい。この通りだからさ!よろしく!」
「俺の質問無視して、紅茶飲みながらこの通りとか言われてもね」
「僕は紅茶嫌いなのに飲んだんだよ?それはもう十分な誠意じゃないか」
「困り事ならば拙者が手を貸そうか?」
寒暖のない部屋に冷気が入りこむ。ワイド爺とバルザックがワシを見据え品定めしている。
「ヒイラギのお兄さんが強いのは知ってるけど悪魔相手だと流石に無理だろ?僕達が必要な力は悪魔を滅ぼせるメイデン.カーターだ。気持ちだけ受け取っておくよ」
「そうか、余計な口を挟んでしまったな」
二人が部屋を出て気配が完全に消え去って口を開く。
「タウロス殿「ヒイラギさん紅茶おかわりですか?」」
タウロスはワシの言葉を遮り筆をはしらせた。
〈多分盗聴されてます〉
魔法だろうか?ワシにはわからんが疑惑で十分だ。確証など本人に喋らせればいい。勘違いならば疑われるような真似をした者の責任だ。
そして責任は本人だけでは済まさない。身をもって教えてやる。
「拙者は留守にする。守りは頼むぞ」
「留守もなにもここはヒイラギさんの家じゃないでしょう?何しれっと乗っ取ろうとしてるんですか」
………………
バルザックとワイドが並んで屋敷を後にする。庭には金髪の少女と戯れるように若い女性。
「バル……レイラ嬢が持っておる石はなんじゃ?」
「魔法具だろうね……かなり精錬された魔力が込められているよ」
レイラは嬉しそうに輝く石を太陽にかざしている。光に反射された石はさらに光を増しているかのように。
「見ててくださいませ!ファイアーアロー」
レイラが元気よく叫ぶと指先から炎の矢が空に撃ち放たれた。その光景にパチパチと拍手を送るミシェル。
「うわ〜!凄いよレイラちゃん」
魔法の遊びを遠目から微笑ましい光景を見ているバルザックとワイド。レイラが2人に気付きパタパタと駆け寄ってきた。
「貴方……ミシェルの弟のバルザックですわよね?何度か見かけたことはありましたけど初めましてですわ」
レイラはスカートの裾を持ち上げ丁寧なお辞儀をした。
「あ……あ、うん。は初めまして……です。バルザック.ガーソンです。姉さんがいつも世話になってます」
「バル……ワシは店が心配じゃから戻っておるわ」
「え……ちょっとジイちゃん!?僕も帰るよ!」
何かを察してレイラに会釈を済ませワイド爺は門へと向けて歩き出した。バルザックも慌てるように駆け出したが
「バル君も帰っちゃうの?レイラちゃんが同い年だからお話したいって言ってたんだけど」
バルザックの1歩はミシェルに引き止められた。レイラが話したいと言っている。バルザックとしても話したいことなど山ほどある。
「え………いや、僕は……えと……」
「珍しい紅茶が入りましたの。ご一緒にいかが?」
レイラの無垢な瞳にしどろもどろになりつつ、必死に答えを出す。
「う、うん。紅茶が好きだからもらおうかな」




