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第19話  悪魔の罠地

 

「よし仕事終わり!もう今日は何もしないから!」

「張り切っているなタウロス殿、全身に活力がみなぎっているぞ」

「わ、わかりますか?今日はジルが俺に会いに来てくれるんですよ!時間をつくるために徹夜して仕事片付けました!」


 タウロスは少しボンヤリとしながらも嬉しそうだ。そう言えばジルが好きと言っていたな。ならば


「ならば拙者がいることは無粋の極み。精々励め」

「ヒイラギさん……俺頑張ります!」


 …………

 ……………………


 レイラの部屋では綿密な打ち合わせをしている。


「お二人にお出しする紅茶とケーキはお嬢様用の物を用意しました」

「まずはジルの胃袋をガッチリ掴むんですわ!」

「お嬢様の手腕にかかればジル様もお兄様の虜になるのは時間の問題ですね」



 今日はニーチェの授業はないのか……人の恋路を覗く下世話はできんな。外に出ているか。





 タウロスは執務室を念入りに掃除している。前もって言ってくれたので時間は十分にある。レイラとメイデンも多少は邪魔をするが協力的だ。


『お兄様ファイトですわ!』

『タウロス兄様の精神を犠牲に思念を送っています。脳が爆発したくなければ手早く済ませてください』


 邪魔が8割だが……それでも安心感がある。



 …………

 程なくしてジルが部屋に入ってきた。……何故かシノブと一緒に……ジルは部屋に入るなりタウロスに詰め寄った。


「タウロス!なんで私とタイラーはこの依頼を受けられないの!?」


 ジルが机に置いた紙、依頼書の1つ。洞窟の地図作製、報酬は金貨100枚。


 金に疎い者でもわかるが金貨100枚は大金だ。人によっては10年は暮らせる額。


「依頼主の情報は言えないけど……ジルさんとタイラー.ヴィントは受けないでほしいそうです」


「おかしいでしょ!?私とタイラーが駆け出しって理由なら納得できるけど……そんな様子もなかったわよ」


 ジル殿の家は貧乏だ。大金を得るチャンスをなんとしてでも掴みたいのだろう。しかしそれは他の冒険者も同じのはず。


「ジル殿、その依頼はまだ残っているのか?」

「……うん。もう1週間にもなるけど……剥がされても剥がされてもギルドにあるの」


 何処ぞの冒険者が受注しているな。半年前に別の町で冒険者まがいの事をしていたので仕組みは理解している。


「タウロス殿、その依頼は何人が失敗している?」

「…………今現在で20組。全員が音信不通です。」


 ジルの目が見開かれた。初耳だったのだろう。


「ち、地図作製でしょ?……危険なの?」

「わからないけどこの依頼は受けない方がいい。それにあと少しって……」


 あと少し……


「タウロス殿……依頼主は誰だ?この件はきな臭い。拙者が自ら調べる。無論報酬はいらん」



「…………私ですよ。ヒイラギ様は部外者。この件に関しては邪魔しないでいただきたいです」



 うっすらとメイデンが姿を現した。目には強い意志を秘めている。簡単には折れない。


「…………了解した、邪魔はせん。拙者はこれにて失礼する」



 場所は把握した。地図作製はしないが全てを把握する。

「魔物がいたときは……どうでもいいな」


 …………

 ……………………



 町から離れ目的の洞窟へたどり着く。外は月明かりに照らされているが洞窟は暗闇。死臭が外に漏れ出ている。中に入る度に血の匂いが混じる。真新しい血の香り。


 全員死んでいると見るべきだな。


 生存者がいれば……否。それが元凶だ。



『生贄が来たわよおォ!次はワタシにやらせないィ!』

『もう魔力は十分に集まった。姉様も満足してるはず』


 女が2人組。……人間ではない。この世界の言葉で表すのなら……


「悪魔……白銀の世界以外にも存在しているのか」


『アナタを最後にしてあげるゥ!光栄に思いなさいィ!その血肉、その魔力の一滴すらも絞り尽くしてあげるわァ!』


『ワタシ帰るから。次からは一人でできるよね?バイバイ』

 女の悪魔は1人洞窟奥へと消え去っていった。


 ーーーー


「……拙者にも魔力があるのか?聞きたい事よりもそちらに興味がある。試してみろ」



 男の悪魔がローブを翻した。薄暗い洞窟に魔法陣が浮かび上がりシノブを照らした。


『アビスドレイン!まずアナタの魔力を支配者へ送るわよォ!じっくり恐怖を垂れ流してェ!絶望を啜らせなさいィ!』



 万物の命の源でもある魔力を吸い尽くす魔法。魔力切れを起こした人間は脆弱に輪をかけて脆くなる。


 しかし例外がある。悪魔の瞳は見開かれ更に魔法陣に力を込める。しかしシノブに変化は訪れない。魔法陣の輝きは徐々に力を無くしていく。


『魔法陣を無効化……違う、無効化じゃあないィ。なんなのアナタはァ……人間じゃないのォ?』


 シノブは表情を崩さずに突き出された悪魔の腕を斬り飛ばした。



「1人逃げたな……お前には聞きたい事がある」


 シノブが悪魔の目の前まで詰め寄ると後方に殺気を感じた。素早く身体を反転させ首筋へと迫る一撃を難無く躱す。


 シノブは表情を崩さない。自分を穿とうとした正体。斬り飛ばされた腕から新たな悪魔が創り上げられていた。


「斬っても増える。前世も似た奴がいたな……まぁいい。先に質問に答えろ。2人も要らんな」


 シノブは懐から取り出した欠けた刃で腕から創られた悪魔を突き刺した。


「退魔一刀」

『ギァァァァア!ワタシがワタシが消える!?なんでなんでなななああなのぉ』


  悪魔が刃と共に霧状に霧散していく。その光景に悪魔は狼狽した。自分達を滅ぼせる存在。1人現れた事は知っていたが女性だったはず……それがもう一人。


 1歩ずつ近づくシノブ。


「  フレアボム   」


 その声を聴くよりも速く大きく距離を取り、身をかがめ布で覆った口元を更に手で抑えた瞬間。爆炎が洞窟内を焼き尽くした。


「お主が黒幕でいいんだな?メイデン.カーター」


「……構いませんよ。私の願いの為です。ヒイラギ様と言えど容赦しません」



 後方には悪魔1人。前方には魔法適正Sのメイデン.カーターがシノブに敵意を向けていた。


「先程の殺気は本物だ。拙者が相手をしてやろう」


 シノブは完全にメイデンと向き合う。後ろの悪魔は歯牙にもかけない。メイデンも同様、悪魔を一瞥もせずに両手を広げた。まるでシノブを迎え入れるように。



「今宵は存分に(あい)し合いましょう。忍さん」



 

ジル&レイラの感謝とおまけ


「ブクマしてくれた読者様!評価してくれた読者様!ありがとうございました!」


「シノブ様とメイデンが戦ってる最中ってジルはなにしてましたの?洞窟には行かなかったんですの?」


「……え?なんでそんな事聞くの?知らなかったとはいえ、私がいても足手纏いじゃない。悪魔相手とか私なんか5秒で殺されるわよ」


「ですからそのあいだは何をしてましたの?」


「……レイラちゃん達とお茶飲んでたでしょ」


「達?わたくしと誰ですの?マイスト?」


「……あ〜……恥ずかしがるから付け上がるのね。タウロスとお茶飲んでました!夕食もご馳走になりました!子羊肉なんて生まれて始めて食べました!」


「まぁ!それは失礼しましたわ。でも二人同じベッドで寝るのだけはどうかと思いますわ。夫婦になるまで我慢できませんでしたの?」


「勝手に捏造しないの!夕食ご馳走になってお風呂いただいて、湯上がりのデザート食べて、明日張り出される美味しい依頼を私が来るまで差し押さえてもらうように言ってから帰ったわよ!」


「……かなり満喫してますわね」

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