第10話 尋問と魔導書と
ニーチェが捕らえられて一晩が経過した。日の出と共に牢屋から出され町一番の豪邸へと移された。ニーチェは座らされ目の前には眠たそうに見下ろす男タウロス。
「え〜と、ニーチェ.ドミナートル。この町に不法侵入した目的は?」
「黙秘権を行使するッス!朝ご飯を食べるまで断固喋らないッス!あと動き辛いから手足の錠をはずしてほしいッス!」
はぁ〜〜まいったな。不法侵入者の処罰はメイデンの役割だろ。アイツなんで部屋にいないの?レイラに頼もうにもまだ寝てるし勝手に入ると怒りそうだし。
「パンでいい?」
夕食の余り物のパンを頭の悪そうな女に手渡した。俺の朝食でもある。手錠をしているとはいえパンを食べるぐらいには苦にならない。ガツガツと遠慮も品性の欠片も見当たらない食べっぷり。ある意味見事と思う。
「硬いパンッスけど概ね満足ッス!」
「……改めて聞くけどこの町に来た目的は?」
「……あっしは朝飯ぐらいじゃなびかないッス!安い女じやないッス!」
頭痛い。俺の貴重な睡眠時間がこんなアホに取られることが腹立たしい。面倒だなぁ……
「1〜9で好きな番号言って。それぐらいは言えるだろ?」
「ニーチェの2ッス!あっしと同じで可愛いッスよね!ににににぃ〜〜!」
なんでピースしてるの?不法侵入したのになんでそんなに余裕なの?でも答えたな。
「2……ね。両手首落として娼婦館で10年間タダ働き。10年後はこの町に来ないでね。連れていっていいぞ!」
「あ……ちょ……本気ッスか?あっしが娼婦として働いたら24時間営業確実ッスよ!男共を堕落させる様はさながらサキュバスを彷彿とさせる魔性の―――」
ニーチェが連れていかれる姿を確認するまでもなく自室に戻る。俺に不法侵入者を裁く権力なんてある訳がない。あとはメイデンに任せよ、お休み。
…………
……………………Sideニーチェ!
手錠をかけられたまま一室に押し込められた。牢屋と比べると遥かに暖かく過ごしやすい。ベッドもあるし看守さんの目もない。こんなの
「逃げるに決まってるじゃないッスか」
ってか鉄の手錠って笑えるッス!こんなのあっしがその気になればすぐにでも焼き切って……
「……あ〜…………どうやって魔法使ってたッスかね〜?」
不味い。魔法が使えないのはどうでもいいけど、娼婦館は不味いッス!あっしの純潔が散らされちゃうのは世界にとって損失!阻止しなければいけない。
ってか、あっしのお手々ちゃんを落とすって悪党極まってるッス!
「あ〜〜困ったッス!困ったッス!こんな事なら家でゴロゴロしてれば良かったッスよ〜」
もう諦めて寝ようかと思ったその時、
不意に後ろ手に微かな感触があった。ガチャガチャと音を立てあっしの手が自由になった。
「困っているな。拙者の名を出さなかった事は褒めてやろう」
「えぇと、誰でしたっけ?……シノブン?シノブンを信じてたッス!絶対助けに来てくれるって信じてたッスよ〜〜!怖かったッスー!」
口元を隠した怪しい青年。あっしの……なんだろ?まぁいいか。今はお礼に精一杯抱きついてあげるッス。あんまり興奮されても困るので1秒間だけ。
「拙者は用がある。一人でいけるか?」
「あっしも用があるッス!あの悪党の鼻をパンチしてやるッス!ナックルパートッス」
シノブンは天井裏に潜り込んだ。跳躍力も人間離れしてるッスね。そんな人間いてもおかしくないッスけど。
広過ぎる屋敷をあえて堂々と歩く!あっしはこの屋敷の住人!下手にコソコソしない!あっしはこの屋敷の住人!屋敷の物はあっしの物!
慰謝料に食べ物を貰っていくッス!破産しろ!ヴァァカ!
…………
……………………
ちょっと異質な部屋がある。見た目は他と変わらないがだからこそ異質。お宝の匂いがプンプンッス!ゆっくりと扉を開ける。大きなベッドに金髪の少女。あっしには気付かずにスースーと小さな寝息をたてている。
「あの悪党の子供……妹……違うッスね。1ミリも似てないッス。」
窓に目を向けるとやはり異質が際立っている。朝日が見えているのに部屋には光が屈折して入り込んでいる。
「あっしのお部屋みたいッスね〜。あんまり覚えてないスけど」
机の上に置かれた書物にザッと目を通す。思わず笑いが出てきた。
「フフ……汚い文字ッス」
他人には読み辛い筆跡で書かれた文章。多分ベッドで寝ている子供が魔法の勉強しているのだと思う。見当違いの勉強。しかしその筆跡は全てが一生懸命書かれていることは誰の目にも理解できた。
「……………………」
…………
……………………
「あなた……わたくしの部屋でなにをやってますの?」
「え〜?ちょっと魔導書書いてるだけッス、集中してるからシャラップ!」
せっかく筆が乗ってきたのに邪魔してなんのつもりッスか!あっしが自分から筆を握るなんて記憶にないッスよ!
あ〜もう5行でいいッス!興が削がれたッス!
「はい金髪ロリ、お前才能なさそうだからあんまり無駄なことばっかりやってると、すぐにお婆ちゃんになっちゃうッスよ」
この子が書いていたであろう文章に多少の付け加えを施した紙を渡す。……久しぶりに書いたからか疲れたッス。
「あっしはちょっと眠るから朝ご飯の時間になったら起こしてほしいッス」
「え?あ……ちょ……ちょっと……何なんですの?読めない……でも、理解できますわ」
レイラは引き出しにしまった宝物を取り出した。シノブがレイラに渡した魔法具。魔力を宝石に貯めることが出来る奇跡の石。
レイラは宝石に手をかざし呼吸を忘れている。宝石の輝きを凝視し目的を忘れる。
闇の深淵にて蠢く物
契約は炎底の湖水
盟約は天庭の露草
其の標に従い此の地へ集え
我が導に従い我が血へ刻め
レイラが手に持っていた紙は青い炎により燃え尽き
宝石が黒い輝きを放った。
「ま……魔法。わたくし一人でも……簡単に魔法が使えましたわ!」




