第7話 空から落ちる災厄
浮浪者の冒険者崩れ二人を縄にかけ地面に埋める。多少の抵抗こそあったが関係ない。働かずに食わせる物などない。それならば喰わせてしまった方が、今後あと腐れなくいける。
「な……なんの真似だ!オレ達は飯を喰わせて貰いに来ただけだ!人殺し!人殺し!」
「もっと鳴け。お前達の声が誰かに届くかも知れん。獣や魔物を呼び寄せる道具になるやも知れん。拙者は観察させてもらおう」
雲光達を帰らせ木の上に飛び乗り気配を消す。近辺の魔物は粗方消した筈だ。これでも魔物が来るようなら一度方法を変える。
「た助けてーー!誰かー!」
「助けてくれーー!助けてくれー!!」
冒険者の二人は頭だけを出しながら大越で必死に生を渇望する。何故そこまで生きたいのかは不思議に思う。誰かに寄生しながら生きる手は当然ある。
しかしワシの目の届く場所では、やむを得ない事情がある時だけ。殺さないだけ有り難く思え。
「ヒィっ!来るな!来るな!!」
冒険者の声が一際高くなった。視線の先に燃えるような毛を纏った猿。炎猿という魔物。
炎猿は怯えた冒険者に気付くと一目散に逃げていった。
魔物狩りは効果はそれなりにあるな。この世代の魔物ならば人間に近付けば死ぬより恐ろしい目に合うと理解出来たのだろう。
…………
その後もゴブリンやオークなどが姿を現したが全て逃げていった。身動き1つ取れない頭だけの弱者相手ですら。
冒険者を引き釣りだし拘束していた縄を切る。水と食料は最低限与えていたが身体は衰弱しているな。
「二度と近辺に来るな。次来たら殺す」
二人はフラフラになりながら山を降りていった。
「絶狼……あの二人を付けろ。窮地に陥っても助けはいらん。領地から出るか野垂れ死ぬまでだ。町に入りそうになったらもう一度連れてこい。」
「御意」
町で一番腕の立つ男、絶狼をつけさせる。魔物にとって何処まで人間が驚異だと伝わっているか調べるためだ。
魔物は相当数確認出来た。魔物狩りは効果はある筈だ。それ以上に繁殖力が強いのか?成長が早いのか?
…………
………………
「今日は魔物を一度全滅させる。拙者が当たるので山の索敵班は休暇とする。他の者は通常通りだ」
「はい!」「御意」
あまり気は進まんが何事もやってみん事にはわからんからな。
シノブ.ヒイラギが片目をゆっくりと開いた。
「……さて、拙者は覚えておらんが先代様はこの脇差を使っていたようだな」
シノブは山の中心付近で腰を落とし脇差し、幻魔刀の柄に手をかけた。
「 風遁 心形型 」
生物の息遣い心音。植物の葉音。風の流れ。土の軋み。水滴の穿ち。それらを全て把握する。
「 やはりいるな……」
魔剣の鯉口が切られ不可視の刃が空気に触れた。
「まずは十匹」
不可視の刃からは血が滴り落ちている。渇望を纏った赤色。
「あれも魔物か?雲に隠れていてよく見えん」
シノブが上空を見上げた。その先には……当然、青い空と雲しかない。そして雲の中に小さな粒のような影。
影は段々と大きくなり次第に人型だとわかるまでに、
「………………んあっ!?おおお落ちてる〜〜!!たたた助け……タスケテくれッスよ〜〜!」
空から人間が落下してきた。魔物ではなかったか。木々がクッションとなり女性の速度を殺しながら落ちてくる。
「フンッ!」
「ギャフン!」
地面に衝突する寸前当て身を打ち衝撃を横にそらす。服はズタボロ生傷もあちらこちら見受けられるが、まぁ無事だろう。
「痛って………なんで………生きてるッスか。あの高さから落ちたのに。あっしってばタフすぎるッス!」
片腕を押さえつつも落ちていた三角帽子を深くかぶり、折れた箒に跨りワシに向って片手を上げた。
「おやおや?あっしの見学ッスか?スカートの中以外は存分に見ていいっッスよ!じゃ〜ね〜〜」
「…………」
「そいや!………あれ?どうやって……飛ぶんだっけ?」
箒に跨ったままピョンピョンと飛び跳ねる女性。身体の傷など一切気にせず顔は段々青ざめていく。
「つかぬ事伺いたいッスけど……あっしはどうやって空を飛んでたッスか?」
「知らんな。雲の中を移動していたのは見ている」
「いや……そうじゃなくて魔……法?あれ?あっしはなんでここにいるんスか?森の精霊ちゃんのお導き?」
この女は馬鹿か記憶喪失のどちらかだな。
「拙者はシノブ.ヒイラギ。困っているなら手伝おうか?」
「……よくいるナンパ野郎ッスね。あっしは別に困ってないッス!でも名乗られたからには名乗り返すのが筋!あっしの名前は…………」
女性は己の掌を見つめている。擦り切れた指で空に文字を描いているかのように動かし、
「あっしの名前……覚えてないッスか?なんか可愛い名前だったッス!見た目通りプリチィな感じ……あれ〜?ん〜、思い出せないッス」
「記憶喪失だな。一時的なものかも知れん。」
「あ〜〜も〜〜!帰るッス!カエルさんッス!家に戻れば誰か知ってるッス!…………そこのお前!
あっしの家は何処にあるか知らないッスか?」
少し話して確信した。コイツは馬鹿だ。
「名を忘れては不便だろう拙者が仮名をつけてやろう」
ぷりちぃ……レイラの屋敷で飼われている馬の名でいいか。
「お主の仮名はプリプリ.ポリポリーだ。」
「………偶然ッスけど名前思い出したッス。ニーチェ.ドミナートルだったッス。そんなセンスない名前は勘弁ッス」




