第4話 幸せなひととき
渡された夫婦剣。ハナミズキの花言葉。私の想いを受けてください。これが彼女の心を表現した贈り物。俺に対してそこまで……
タウロスの思考が停止している。メイデンの魔法によって削られている事もあるが、思考回路はショート寸前だ。
「こ、これ、この花はジル……ジルさんが?」
「う、うん。短剣は貰い物だから私からも何か渡したかったし、安物だし思いつきで買ったんだけど……迷惑だった?」
「いやいやいや!そんな事ないよ!嬉しい嬉しいよ!絶対枯らさないから!」
よし!この花にパーマネンス……永続魔法をかけてもらおう。金はかかるが関係ない!一生大事にしよう!
押し花もいいな。どちらにするか……なんて幸せな2択なんだ!
『お兄様!ジルの想いに応えるんですのよ!』
『今晩はお赤飯を炊いておきます』
『タウロスさん漢になる時ですぜぃ!』
ああ……野次馬がうるさい……特にメイデンとマイスト。でも貰うだけ貰ってハイさよならは失礼過ぎる。なんて言えばいいのか?
こんな時こそ俺の精神を無駄に削っている三馬鹿に相談するべきだ!
なんて言えばいいと思う!?
『愛してる以外の言葉は必要ありませんわ!』
『言葉はいりません。押し倒しなさい!』
『……俺は……無力だ。スイヤセン。タウロスさん』
アイツ達に一瞬でも期待した俺が馬鹿だった。こんな時、こんな時ヒイラギさんなら……ヒイラギさんなら何て言う?思考を重ねろ。今一度シノブ.ヒイラギになれ!
「じゃあ、ワタシそろそろ帰るわね」
「ジルど……ジルさん!」
なりきりすぎて殿なんて訳分かんない敬称を呼ぼうとしてしまった。真似るのは思考だけでいい。
仮にヒイラギさんをその場に引き止めるならどうするか?あの人を引き止める一言はこの世全ての人類を引き止める金言!
ヒイラギさんは金なんかじゃ絶対に動かない!人の心はそんなに安っぽくない!
考える前に言葉は紡がれる。
「家の風呂に入っていかない?」
「…………へ?」
『…………』『……………』『…………』
あれだけうるさかった三馬鹿が急に静かになった。
…………女性に言うべき言葉ではない。恋愛経験のない俺でもわかる。挽回不可能か?
違う!まだだ!
「ああ……違う!ヒイラギさんに聞いたんだけど温泉って傷の治りとか病気に良いらしくてさ。それで良かったらと思って……やましい気持ちはないんだ!誓って!」
「……………………」
この沈黙は無理だ。俺は世界一の愚か者だ。メイデンが愚兄と蔑む理由がよくわかった。俺は一生机と書類が友達。それでいいさ。
「――お母さん」
「え?」
「お母さんも呼んでもいいかな?病気は治ったみたいだけど最近元気ないから……」
なんて親思いなんだ!俺なんか両親を捨てて、家名を捨ててカーター家の養子になったって言うのに!
「だ大丈夫!いつでも大丈夫!屋敷の人達には俺から言っておくから」
ぶっちゃけ俺にそこまでの権限はない。屋敷内ではレイラ>>>>>メイデン>>>>>メイド=俺>警備兵ぐらい権力がない。別に不満はなかったが……今だけは無茶を通してみせる!
『タウロス殿……その試練を超えて……拙者を驚かしてみせろ!』
ヒイラギさんの幻聴まで聴こえてきた。いよいよ俺の頭は破裂寸前だ。頭の中で三馬鹿がワチャワチャ喚いている。
でも……ここで死んでも……本望だ。
…………
……………………
「ジルの想いには応えず敢えて焦らす!それがお兄様のテクニックですのね!」
レイラの嬉々とした言葉を無視する。そんな元気も無ければ、そんな駆け引きできるものか。
「親公認の仲になるつもりですか。今までその手口で何人の女性を泣かせてきたんでしょうかね?」
メイデンの戯言を無視する。
0人だよ。俺がお前達に泣かされてるよ。今だって眼から血が流れてるんだぞ。俺、本当に死ぬんじゃないのか?
結局ジルは帰ってしまったが今度また来てくれるらしい。俺は二人からお褒めの言葉をもらつつ書類に目を通す。今はレイラに……メイデンは消えている。マイストと書類を持ってきた部下が一人。
「……これさ、こっちじゃ調べられないだろ?」
書類を机に放り投げる。散らかった書類を部下が集め直しマイストが覗き込んだ。そして……驚く。
「……達成率……0%!?何処かのギルドが壊滅したんですかい!」
冒険者ギルドは町に1つ国家管理施設として存在している。月一で報告書を出し他所の町がどれほどの依頼数と達成率が他の冒険者にわかるようにだ。
当然都会は依頼が多い。人が増えれば魔物も近隣に多く出没する。俺はメイデンに教えられたが理由を知っている人間は限られている。
アルフィーの町の冒険者ギルドが1日平均50件。達成率は70%……町の規模に対して優良な町だと思う。
その中で半年前は達成率15%、翌月には100%を叩き出した田舎町があった。翌々月も100%……その次も……
国は勿論、俺もその田舎町へ部下を派遣したが、
徹底されていた。全てが。
ギルド長には会えたが、リーダーには会えずじまい。
その町がついに0%……マイストが言う通り壊滅したと思うのが普通だ。でも違う。
依頼がなくなった……近辺の魔物を滅ぼしたのだ。少なくとも先月は1つも被害を出していない。
魔物出現して500年。冒険者ギルドが結成されて300年間不可能だった事を小さな田舎町とはいえ、成し遂げだ冒険者達がいる。
ジル&メイデンのおまけと感謝
「ブクマしてくれた読者様ありがとうございます!」
「ジル様は上手くやりましたね。二人が付き合うのも遠くなさそうです」
「それはノーコメントで。私が借金返済で渡してたお金何処にいったの?タウロス知らなかったわよ」
「ドレス代金と門から玄関にかけて集まってくれた参列者の費用に回りました。玉の輿確定ともなると大雑把な使い方ですね。結婚したら少しは自制して下さいよ」
「私が一生懸命貯めたお金を……あんたホントぶっ飛ばすわよ」
「冗談ですよ。ドレス代や参列者への報酬はレイラお嬢様のお小遣いから出しましたし、ジル様のお金はいずれ産まれてくるお子様の為に私が保管しております」
「お金……取らないでよね。あとドンドン話しを大きくしないで」
「二人の愛の結晶だけは私も真面目に面倒見ますので」
「アンタにだけは任せたくないわよ」
「…………ふ……」
「なに?そのムカつく薄ら笑いは」
「いえ、お子様の教育方針まで考えてるとは、意外とその気なんですね」
「屋上に行こうぜ……久々にキレちまったよ」




