第さん話 子持ちの刺客
王宮内では貴族連中のお偉方が今日もあーでもない、こーでもないと東南連合との戦争について話し合っている。
それらに参加する資格のない貴族の息子達はいつも通り談笑していた。
「それでどうだったんだ?レイラ嬢との縁談は」
「ふふふ、やんわりと断られたが彼女の知識は深いよ。見えてる物が違う。縁談を抜きに是非また話しを聞きたいものだね」
「お前は食事の好き嫌いについての見解をきいたか?俺はレイラ嬢に聞きかじった知識を披露したら父上も母上も黙りこくった。これからは好き嫌いし放題さ!」
「魔法についての知識も素晴らしい。特に複製や転移に関する論吹は僕一人が聴くには勿体ない代物だったよ」
お見合いを済ませた貴族の坊ちゃん達は次々にレイラの素晴らしさについて語っていた。
その中で異端なものも混じる。
「……俺は普通に食事しただけなんだけど。ピーマンの不味さについて喋ってただけなんだけど」
「ぷぷっ! それはお前がまだ至ってないと言うだけの話さ……登ってこいよ。高みへ」
「今日は誰がレイラ嬢とお見合いするんだ?」
「なんでもジュデッカ先生から推薦された人がいるみたいだ」
「チラッと見たけど全身傷だらけで歴戦の猛者感が出てたよ」
「はーっやだやだ。そんな奴はさっさと戦争に行ってくれよ。ここだけの話し……負けてるんだろ?」
「なぁに、こっちには龍神を殺したタウロスもいるし、いざとなったらアイシャが出張るんだろ?俺たちは関係ないさ」
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「——あ」
レイラの向かいには傷だらけの男と片目が喪失しておりもう片目も視力を失っているかのような幼い少女がいた。
「えぇっと、ゴミジュデッカの紹介で名前はタナトスでしたわね。隣の子はどちら様かしら?」
「これはマキナだよ。是の……なんだっけ?」
「ムスメ! どうして父様は毎回忘れるのよ!」
「そう娘。マキナは是の娘だよ」
「そうそう。次も覚えててよね」
満足げに胸を張るマキナとは対照的にレイラは中々の衝撃を受けた。誰隔てなくお見合いするつもりでかあった。その中に色々な人が来ると予想していた。
しかし、まさか、
「タナトスは子供がいるのにお見合いに来ましたの?」
「そうだよ」
何一つ後ろめたさも気後れもないタナトスの返事にレイラは息を詰まらせた。
「あ、えっと、マキナのお母様は何処にいますの?」
「この世界にはいないよ」
この言葉に全て集約されている。きっとマキナの母親は早くに亡くなりタナトスは娘を連れて傭兵稼業で今日まで生き抜いてきた、
タナトスは一言も二言も足りないからそう勘違いしても仕方がない。
しかしそれはそれ。これはこれ。この程度ではレイラは手心を加える気には……ちょっとしかならない。
「ハッキリと聞きますわよ。わたくしと結婚するのはお金目的ですの?」
今までのほぼ全ての人間はレイラではなくレイラの後ろに見える莫大な資産を目的としていた。
間違いなさそうな人間には複製のレイラを使ってあしらい、そうでなさそうな人間はレイラ直々にお見合いをしていたのだが、
「……?」
「どうしましたの?何も言えませんの?」
「マキナ、結婚ってなに?」
「永遠の契りを交わす事です」
タナトスは長い時間考え込んだ。側から見れば数秒程度だがタナトスにしてみれば長考だ。
永遠の契り、魂と血の契約はシグと交わしている。それをしていないと否定する理由も権利もタナトスにはない。
「是は結婚してるから汝と結婚する気はないよ」
だからレイラにはしっかりと否定の言葉を投げつけた。
「だったら何しに来ましたの!?」
「知らない。逆に聞くけど汝はどうしてここにいるの?」
「ここはわたくしのお家ですわよ!!」
レイラがダンッとテーブルを叩いたところでタナトスは席を立った。そしてマキナの手を取る。
「帰ろうマキナ、こんな所にいても時間の無駄だよ」
「もういいの父様?」
「なにが?」
「だって父様があの子に用があるからって——あの子にもう一度会わないといけないって——」
「なんで?」
「……なんでもない。アタシの勘違いだった」
呆気に取られつつもハンカチを振って見送るしか出来なかった。
「はぁぁ。全然わたくしに——と言うか全てに興味がなさそう……ちょっとだけ……いいえ、タナトスはとっても素敵ですわ!」
作中でも幸運がカンスト付近にいるレイラと、幸運がマイナス方向に張り切っているタナトス。
そのタナトスが帰り道に不意に頭を殴られた。
タナトスが常時使っている魔法、反射によりダメージはそのまま襲撃犯に返り自身の頭を揺さぶられた。
「おい脳タリン、私のお仕置き物理を反射させましたね。今から私はお前をもう一度殴ります……反射させたらわかりますよね?」
タナトスは何事かと振り返って思考が固まった。
そして当然のようにマキナが食ってかかる。
「なんだこの女!父様の頭を叩いてこれ以上馬鹿になったらどう責任取るつもりなの!?ただでさえギリギリなんだから!」
「もう手遅れだからいいでしょう。おいタナトス、いきますよ。ほら、五〜、四〜、三〜、ゼロ!」
今度は完全にタナトスを殴りつける。
タナトスはよろよろ壁はもたれながらその場にドシャりと尻もちをついた。
魔法を貫通したわけではない。タナトス自身が自らの意思で魔法を解除したのだ。
「……どうして?是は悪い事してないのに……」
「テメェは存在自体が悪なんですよ。アイシャに余計な人間を生き返らせましたね?これはタナトスが馬鹿なのとアイシャの考え方が至っていないので我慢しましょう」
「ぐっうぅっ……アイシャはメイデンには説明してくれるって言ったのに」
「だからこうやって我慢してますよ。本当ならば往復ビンタの刑ですよ」
タナトスは目の前の女性をメイデンとよんだ。しかしそんな事はお構いなしに首を掴み壁に叩きつけた。
「二つ目が問題です。タナトス……お前は……貴様は事もあろうにレイラお嬢を落とそうとしたね!?私の、私の私だけのレイラお嬢様にぃ!」




