第に話 沢山からたくさんに
翌日昼時に到着した書類の束にレイラはめまいを覚えた。
「……。思ったよりも沢山来ましたわねこんなに?」
「この中からレイラちゃんが気になった人を選んでくれたら良いわ。身元や出自はママとウィルさんが選りすぐったから」
「ふん、何処の馬の骨と知らない奴ばかりさ。破り捨てても構わないよ」
お見合いに乗り気なのは母であり全然乗り気ではないのは父の方だ。可愛い娘を嫁がせたくないという葛藤。娘の幸せ、ならびに孫の顔が見たいという願望が混じっている。
レイラは適当に書類の一つを摘み上げ目を通した。
「この人はどんなお方ですの?」
「メディス家の長男よ。100年以上続いている由緒正しき家系でママも何度もあってるわよ」
「ふん、ポーカーはてんで弱いがね。」
「あー……はい。この人は?」
「まぁ!その人はオルセン商会統括の息子さんね。とても優しい好青年よ。レイラちゃんがその人と結婚してくれたら——」
「レイラ一世一代の勝負に商売の話しを持ち込むんじゃない!」
「なによ!ウィルさんだって貴族の人たちの頼みを断らなくてこんなに大量になっちゃってるじゃないの!何が勝負よ!レイラちゃんのお見合いをくだらないギャンブルと一緒にしないでちょうだい」
「確かに神聖なギャンブルとお膳立てしてもらわなければ何も出来ないお見合いと一緒にしてはいけなかったね」
普段は仲の良い夫婦なのだがレイラの前で二人が大声を上げるのを初めて見た。
それほど二人ともレイラの事は気にかけているのだ。
二人とも本心から怒っている訳ではないのはレイラにもわかる。
わかるのだが、
「パパとママはわたくしはどんな人と結婚してほしいですの?」
レイラの一言で両親は固まってしまった。
レイラの為を思いつつも、その中に自分の願望を混ぜてしまっている。その事に気付いたのだ。
二人はお互い頷きレイラと同じ目線へと腰を下ろした。
「ママもパパもレイラが選んだ人なら反対はしないわ。ねぇウィルさん」
「あぁ、パパもママも全力でサポートするよ」
「そーではなくてパパもママもわたくしに見合うに足る人物がどんな人なのか一つだけ条件を出してほしいですわ。」
「そうねぇ、ママはレイラちゃんをどんな時でも守ってくれる強い人がいいわね……うん!強い人よ」
「なるほど、パパはパパよりもギャンブルが強い人だ!となるとこの書類の有象無象はほとんど全員弾かなければならないな!はっはっはっ!」
ウィルは嬉々として書類の中にギャンブルをした事のある人間を思い出しながら選別していく。
上手い事手のひらで転がされたと気付いたライラは静かに語りかけた。
「レイラちゃんはどんな人がいいの?」
「……わたくしは——誰でもいいですわね」
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後日、
ある貴族の屋敷でレイラとフランク・メディスが出会った。
「いやぁ、数ある中からこの私を選んでくれるとはレイラ嬢もなかなかのどうして見る目があるね」
「ぴょえー。由緒正しき貴族であるフランク様にお褒めに預かり光栄ですわぁ」
「そんなに自分を卑下する事はないよ。僕の元に嫁いだのならカーター商会の仕事は全てメディス家が引き受けるからね。レイラ嬢は家でゆっくりしてくれればいい」
フランクは饒舌に喋りだす。
降って湧いて出た幸運。まさか大富豪であるカーター家のご令嬢が自分とお見合いをしたいと申し出て来たのだ。
この縁談は絶対にモノにしろと彼の父と母にはかなり念を押されている。
「見た所レイラ嬢の食事マナーは完璧だ。私の妻に相応しい」
「ぴょえぇぇ」
「あとはその変な喋り方は……追々直していこうか」
「……変?、わたくしの喋り方は何処かおかしいですのぉ?」
「誕生会の時に軽く話していたがそこまで馬鹿っぽい話し方ではなかった気がする……もしかして姿を真似ただけの別人——」
「すわわっ!!」
レイラの乾坤一擲な叫びによりフランクはハッとしたように我に返った。
「私は何か勘違いしていたね。まあいいよ。自覚がないのも無理はないが焦らなくていい。私が手取り足取り教えてあげるよ。何せ私はあのジュデッカ先生に教えを受けた事もあるんだ」
ジュデッカは結構な人数に魔法のなんたるかを教えている。ほとんどの人間は一言二言だがフランクもその例に漏れない。
何よりレイラ相手にはなんの自慢にもならない。
「それに私は王都の魔法学校で座学で首席をとっている。君を躾ける資格は十分にあると言う事さ」
「……凄いですわぁ。ところでマナーは何の為にあるかご存知ですのぉ?」
「やれやれ、マナーは相手を思いやる心だ。正しい所作は相手への敬意であると同時に——」「違いますわぁ」
食い気味に否定したレイラにフランクは眉をひそめた。
「マナーは仲間の区別の為に作られましたのよぉ。同じ所作を出来ない奴は敵だって。わたくし達は他者に寛容になれませんのよぉ。だから無闇に敵を作る。そこに敬意なんて微塵もない。あるのは無垢を染める悪意ですわよぉ」
レイラは優雅にカップを持ち紅茶を啜った。
その一つの所作はあまりにも出来過ぎていてレイラ本人には微塵も興味のなかったフランクも思わず目が釘付けになっていた。
「その点この世界で言葉を作ったお方は大変有能ですわねぇ。人間や東邦族、獣人と分け隔てなく肉体に声と魂を吹き込んだ。フランク様はご自慢な事を皆で共有できるかしらぁ?」
「……何を言っている?」
「出来ないのならフランク様はわたくしには相応しくありませんわねぇ。親のレールに敷かれた貴方は道を踏み外す事なんてできませんものぉ。わたくしは道を選ばない人を待ってます。どうぞその事を周りに教えてくださる?」




