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第いち話 成長の軌跡


「まあ、今日はパパもママもいますのね。お仕事はひと段落つきましたの?」


「一段落は付いてないんだけど煮詰まってちゃってね、私はともかくウィルさんは意外ね。今日も泊まり込みかと思ってたわ」

「せっかくレイラが家に居るんだから多少の無理は通してでも帰るよ」


 レイラ一家は数日ぶりに夕飯の時を同じにした。

 ここ最近では父親のウィルが家に帰らない日がで始めその後まもなく母親であるライラが忙しさに追われ始めた。


 レイラにとっては会える事すら稀なので慣れてはいるのだが気になる事もある。それを聞く良い機会だとも思っていた。


「パパもママも、ついでにタウロスお兄様もどうしてそんなに忙しいんですの?寝る間も惜しんでまでする事ですの?」


 よく言っても悪く言っても世間を知らない質問だ。

 当然レイラは子供なので世間など知る必要はない。しかし子に聞かれたからには親として答えなければならない。



「最もな意見だね、パパもママも始まりは兎も角今も仕事をしたくてしている訳ではない。しかしやらなければならない事は常にあり続ける……家族を守る為にね」


 何を見出したのかウィルはライラに目配せをした。その意図に気付いたかようにライラが後を請け合う。


「家族皆んなで助け合ってるから今の生活があるのよ。だからレイラちゃんももう少し我慢してね」


「別に我慢なんてしてませんわよ。わたくしに出来る事があればお手伝いしますわよ」


 その言葉を聞いてウィルはこれ見よがしに咳払いを繰り返した。

やはりその意図に気付かざるを得ないライラは仕方なくレイラに向き直る。


「ねぇレイラちゃんは……その、好きな人とかボーイフレンドなんてのは出来たのかしら?」

「なぁにぃ!?レイラのボーイフレンドだとぉ!?許さん!パパは許さんぞ!」


「……ウィルさん、ちょっと——」


 『黙ってろ!』とのライラからの無言の圧力が部屋を包んだ。

しかしレイラは全く意に返してない。


「バルザックですわね」


 バルザックと言えば魔法適正がSであり回復魔法に秀で更には悪魔を滅ぼした実績のある将来有望な若者だ。

 彼自身は貴族ではないがバルザックならば頷かざるを得ない。



「でも心ちゃんがバルザックの事が好きですから恋仲ではないですわ。わたくしもバルザックの事は大好きですけど弟ぐらいにしか見えませんわね。つまり三角関係な遊び友達ですわ」


 レイラの大人な返答に両親は息を呑んだ。

 てっきりボーイフレンドなどいないものだと踏んでいたのが、まさか娘はいつの間にか魔性の女になっていたのだ。


「それで、バルザックを連れて来れば良いんですの?丁度良いから心ちゃんも誘って3人でご飯でも食べたいですわね」


「レイラ、少し待ちたまえよ」


 これは名案と思いパンと両手を叩き席を立った。しかしウィルが待ったをかける


「なんですの?」


「え、あ、ライラが……ママが言いたい事があるそうだ」

「また私なの!?」


「ママはバルザックとわたくしが遊ぶ事を反対しますの?」


 ライラは目頭を抑えながらもゆっくりと言葉を選びながら口を開く。


「あのねレイラちゃん、お見合いの話しがあるんだけど……興味なんて……ないかしら?レイラちゃんはもう13歳なんだし——」


「お見合い、お見合い……結婚を前提とした?」


 レイラの問いかけに両親は頷いた。

 言葉を発さずとも二人の苦渋のような顔を見れば何を言いたいのレイラにはか理解出来た。


 だとしても、


「いやですわ」


 レイラはキッパリと拒否して二人を驚かせた。


「まぁそうだね。パパもママも無理強いはしたくないからね」


「わたくしには早いですわよ。あと十年ぐらいしたら考えますわ」


 言うだけで言ってレイラは家の庭へと出た。

 そこには杖を頼りにやっと立ち月を見上げている半身の失った男がいた。


「ねぇジャサファ、パパとママがお見合いをしろって言ってきましたわ」

「そうか。しかしその顔を見るに拒否したのだな」


「きっとパパとママのお仕事関係ですのよ。でもわたくしの事なんですから自分で決めたいですわ」


「そうだ。決めるのはレイラ自身だ。それとレイラの両親は仕事、自らの命よりもレイラの幸せを優先させる。その二人が薦める理由はよく聞いたのか?」



「……聞いてませんわ。ジャサファならわかりますの?」


「わかるがこれはレイラが両親から聞くべき事だ。答えられん」


「別に大丈夫ですわよ。いつものように早く教えてほしいですわ」




「両親はこれからはレイラにあまり時間を割けなくなる。だからレイラを任せられる人物を探しているのだ」


「……。わたくし悪い子だから嫌われちゃいましたの?」


 目に涙を溜めだしたレイラをジャサファは軽く頭を撫でた。

 これは回りくどく言った自分の責任だ。


「そんな事では自慢出来る姉になどならんぞ」

「なに言ってますの?わたくしに弟も妹もいませんわよ」


「これからだ。レイラの母親は胎内に生命を宿している。産まれるのは二百日後だ」


 レイラはさっきまで泣きそうだった事も忘れて涙を流した。この涙は悲しみから溢れたのではないことはレイラ自身がわかっている。


「わたくしが……お姉さん?」

「そうだ。両親はレイラを驚かせたかったのだろう。だからレイラも両親を安心させてやれ」


 レイラ自身にとっては甘やかされた思い出などはないが側から見ればレイラは溺愛されている。


 だからこそレイラは父母が大好きでありそんな二人を尊敬している。


「ジャサファ!わたくしと結婚しましょう!ジャサファならパパもママも喜んでくれますわ!」


 ものの数秒で自分の将来を決めかねない大事な儀式をレイラはあっさりと横にいる死にかけに頼んだ。

 両親がなんと言うかは見ものだが少なくとも本人にその気はない。


「光栄だが俺は無理だな。もう時間がない」


「最近ジャサファは何も食べてませんわ……お身体は本当に大丈夫なんですのよね?」


 大丈夫ではなかった。ジャサファという男はブレトリパとの戦いでとっくに死に絶えている。今残っているのは残骸でしかない。


 しかし吐く言葉が真実も嘘であっても結果など変わらない。


「俺は時期に動けなくなる。自ら死地へ向かうつもりだが不意の出来事もあり得る。その時は俺の死体は人気の無い森にでも放置してくれ」


「構いませんけど燃やして埋めないと野犬や幽霊に食べられちゃいますわよ?」


 そしてレイラは死に対して異常なほど鈍感だった。

 死に直面し続けた故か、死を喰らい過ぎた結果なのか



「生命とは本来そうあるべきなのだ。他者に食われることで俺は未来へと生き続ける。そしていずれ俺へとたどり着く。」



「うーん、よくわかりませんけど、わかりましたわ。ところで生まれてくる子は男の子ですの?女の子ですの?」


 その問いにジャサファにしては珍しく沈黙した。

 普段なら回りくどくとも答えを教えてくれたのに、


 だから今回もわかり辛くとも答えをくれると信じていた。


「俺のいた国では運命は解析された。絶対を押し付けられた自分の運命を切り開けるのは他人だ。だから生まれてくる赤子がどのような形を押し付けられても守れるのは姉となるレイラだ」


 少し呆気に取られつつもジャサファの言いたい事は理解出来た。



「もちろんですわ!わたくしお姉さんなんですのよ!」



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