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幕間3  誰がために


 ジャブジャブときちゃない水をかき混ぜる。

 ヘドロをかき分け、時折り当たる骨をかき分ける。


「んー。んー。当たり〜……あれ〜?ないッスね」


 あっしのダウジングは反応を示してると思ったけど……


「何を探してるのん?」


 うっせ。外野が口出しするな。

 無視してもう少し右の方を探してみよう。


 あっしが移動するとコイツも着いてくる。


「私も手伝ってあげましょうか?」

「女神様だの賢者様だのチヤホヤされ続けてるインユリア様が直々に手伝ってくれるんスか?」


「えぇ。ようやく準備が整って次まで時間もあるから。だから何を探してるのか教えてくれるかしらん?」


 汚水から杖を引き抜いて周囲に群がるネズミを追い払う。

 汚れた杖を向けられてもコイツは嫌な顔一つしない。


「はぁ〜、笑わないって約束出来るッスか?」

「私がニーチェのやる事を笑った事なんて一度たりともない。私は世界に蔓延る有象無象とは違う」


 コイツは真っ直ぐにあっしの眼を見ていた。

 その眼はいつも優しさと厳しさを両立させている。


 信念だけが彼女を孤高なる場所へと導き続ける。


 だから……


「……お金ちゃんを探してるんスよ」

「下手な嘘はやめなさい。貴方はそんな事はしない」


 だから自分の立場を忘れて


 なんの力もない。人間であったインユリアに……



「冒険者資格証ってあるじゃないッスか。アレを集めてるんス」

「ふぅん、そういう事にしておいてあげるわねん。それで理由聞いても良いかしらん?」


「家族に帰してあげたいんスよ」


 遺体の冒険証を返されたって遺族は困るかもしれない。

 でもいつまでも行方不明なまま途方に暮れている人もいるはずだ。


 せめてその人の最後は獣人や東方族ではなく、ネズミの群れや下水に住み着いた魔物に喰われたと認識させるべきだと思った。


 インユリアはその辺り説明しなくても理解してくれる便利な女だ。



「悪くないわね。でも貴方リドヴィアに借金あるんでしょう?油売ってる暇はあるの?お金拾ってる方がマシだと思うわよん」


「その点はインユリアを娼館に売る事にしたから平気ッス。あっしの見たてではAランクぐらいはあるから高く売れるッスよ。見た目に全能力を極振りしてて良かったッスね」


「私に値段なんて付けれるはずないでしょう。馬鹿言ってないで遺体を探しましょう」


 そう言うとインユリアはドボンと汚水に身を浸した。


「よ、汚れるッスよ」

「手伝うって言ったじゃない」


 インユリアは汚れなど一切気にしてなさそうに笑いかけてくれた。


「あっしも入る」

「いいわよん。私は杖を持ってないんだから」


「んな訳にはいかねぇんスよ!帽子は本当に怒られるから脱いでっと、ニーチェちゃんの生き様を後世に伝える為に目ん玉かっぽじって見てろ!」


 うえぇえ、ヘドロが身体にまとわりつくこの感覚、

 お湯に浸かってるみたいで……


 うっぷ……吐きそ。

 ヒロインにあるまじきゲロゲロをぶち撒けそう。


……

………


「信じられねぇ!信じられねぇッスよ!」

「だからニーチェは入らなくて良いって言ったじゃないのよん」


「インユリアが汚れないって知ってたら下水に身を投じなかったッスよ!本当に信じられねぇッスよ!」


 プンプン怒るあっしの肌に付いたドロをハンカチで拭いつつ頭を撫でる。


「馬鹿じゃないんだから同じ事を何度も言わないの。ほら見つけた冒険証も拭いておいたから。返して……帰してあげなさい」


「うん。行ってくる」

「一人で大丈夫?一緒に行って——」


 インユリアは途中で言葉を切った。

 それが誰の為にもならないと知っている。

 この行為が無駄である事を知っている。


 それでも間違ってないと、

 だから自信を持って事を臨めと目が語っている。


 何百年も昔から一度も霞んだ事のない綺麗な瞳。


 だからあっしは初めて誰かに

 初めて人間という生き物に


「私はちょっと用事を済ませるから終わったら待ってなさい。夕飯ぐらいご馳走してあげるわよん」



 

      憧れたのだ。



「そーいえばインユリアはどうしてこんな場所に降り立ったんスか?」


 

「アジ・ダハーカが死んだわ」


 見てたから知ってるけど改めて聞きたくはなかった。

 あっしはもう……関わりたくない。


 関わりたくないのに


「誰が殺したんスか?」


「タウロス……タウロス・ヴィントね」


「アレを殺したのはタウカスじゃないッスよ」



「私が地獄に落としたんだから知っているわよん。それで?ニーチェはアジ・ダハーカを殺したのはお師匠様だって公表するのん? お師匠様は怒るわよん。ただでさえ今は過去一機嫌が良いんだからね」

 

「あぇ?シグ婆ちゃん機嫌良いんスか?」


「そうね。今は地獄でお茶を飲んでるわ。それとこれはニーチェに伝言。『困ったらいつでも起こしていい』だそうよん」


 うわぁ。なにがどうなったらシグ婆ちゃんがそんな言葉吐くんスかね。しかも地獄とか意味わからんッス。


 そしてまったく詮索したくない!

 永遠に地獄にいててほしい!


 インユリアもそれは承知しているようで出来る限り今のシグ婆ちゃんを起こす真似はしたくないのだろう。


「シグ婆ちゃんはわかったッスよ。でもタウカスじゃなくても……あいつクソバカだから絶対拒否するッスよ」


「そうねん。でも一番に受け取る資格があるのはタウロス・ヴィントなのよ。どうなるのかは彼が断ってから考えるわ。不安ならタウロスを説得なさい」


「なんであっしが……勝手にすれば——」

「神様が結果まで考えてるかは知らない。でももう無理よ。この世界でのいざこざなんてノータッチのはずでも灰燼剣を持ってる奴は生かしてはおかない。どんな規律よりも優先される絶対。出来なければ処理されるのは私たちよ」


 わりとシリアスにしちゃったのを感じたかのかインユリアが笑いながら別の話しをしてきた。


「ところでニーチェ、誰か紹介してくれないかしらん?」


「あ?お前モテるんスから適当に取っ替え引っ換えしてろッスよ」


「違うわよん。護衛が欲しいの。流石に力を与える時は私も肉体で来なくちゃいけないわ。何処ぞの馬鹿どもに襲われたらか弱い私はひとたまりもないのよん……なにその顔?」


 あっしがどんな顔してるのか知らない。


「イズヴィも似たようなことを言ってて正々堂々と勝負を仕掛けたあっしはまんまと騙されたッスよ。実際インユリアも生身で来ないんじゃないッスか?」


「あーあー。素直で健気なニーチェは何処に行ったのかしらん。私悲しいわよん」


「はぁぁ?目ん玉付いてんスか!?素敵で可愛いニーチェちゃんは今も目の前にいるッスよ!」


「はいはい。話しを戻すけどニーチェが護衛してくれないかしら?」




「んーーー、 ダメッッ!!

 あっしはエーちゃん達とは戦いたくないッスよ」


 あっしの答えに満足したのかインユリアは手鏡を取り出して光を集め上へと放った。


「そう言うと思ったわ。八重にセス、ジュデッカにタナトス。いい加減奴らには天国への片道キップを用意してあげないといけないわねん」




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