幕間 1 いびつにゆがんだ
小さな村にたどり着いた。
人は全然いない……小さな子が1人だけだ。
他の生物は居着いてるだけ。
数十軒ある家全てがその子の家なのだろうか?
そんなに沢山部屋を持ってどうするのかわからないけどレイラちゃん家も沢山の家があるから必要なんだろう。
「久しぶりに家で寝ようかな」
たまには人間らしくお風呂に入って布団にくるまって寝るとしよう。
その子があるだろう場所に向かって歩く。
居場所も匂いも気配も教えてくれる。
あたしは前に前に歩けばいい。
その子は沢山の腐乱した死体の側で泥だらけになりながら穴を掘っている。
何をしているのかな?
メイデンちゃんならすぐに答えをだすのかな?
でも今はメイデンちゃんはないから一人で答えを出そう。
しっかり考えて、失礼のないように観察して、
……あたしも小さい時はあんな風に畑を耕してたな。
ボロボロの手、汗と泥が混じった匂い。
日が暮れるまで、毎日毎日永遠と続く理不尽。
想像する裕福な暮らし。月明かりと共に願う夢——
そんな風景を思い出していると口元が白い歯を覗かせた。
これは、笑っている。
うん!あたし笑ってる。
きっと楽しいんだ!
だったらあの子もきっと楽しいに違いない!
「こんにちは!いいお天気だね」
「……」
聴こえてたのに。あたしの言葉は理解していた。
……内容を理解してあえて無視したんだ。
唇を閉じて歯を噛み締めてる。
細胞が急激に増え続けて同時に死滅している。
たぶん怒ってるんだ。
あたしが怒らせたのかな?
謝らなきゃいけない。
「あたしおかしいから変なこと言っちゃったよね?ごめんなさい」
「……気にしてないからここから出て行って」
うーん、全然気にしてる。
あたしが何を言おうとしてるのか気になってる。
細い神経を一生懸命動かしてあたしの一挙手一投足を観察しようとしてる。
とにかく許してもらおう。
「穴を掘ってるんだよね?あたし手伝うよ」
集められた腐敗した世界の肥料を指差した。
手渡されたのはスコップ。
地面に突き刺して持ち上げる。
すると土が入っているから地面に落とす。
これを永遠に繰り返す。
あたしが土を掘っているとその子は驚いた顔をしていた。
「どうしたの?」
「あんた……扱いが下手くそね」
「よく言われる」
「冒険者ってなんでも上手に使えると思ってた」
「あたしはスコップを使って一生懸命に土を掘ってる。貴方は一瞬で全てを埋められる穴を掘るなんて望んでないでしょう?」
「そんな訳ないでしょ。私は……早く終わらせたい」
あぁ。この子は死にたいんだ。死に場所を探してるんだ。
この穴掘りが終わったら死にに行くつもりなんだ。
今までたくさん見て来たから間違えようがない。
スコップを地面に突き刺す。
世界は誰の為に、世界はあたしの為に在らず。
あたしは問いかける。
あたしは問い詰める。
世界は誰の為にあるのか……
やっぱり答えは変わらない。だからあたしは安心出来る。
スコップを女の子に返そうと差し出す。
「もう飽きたの?別に期待してなかったけど」
「……それを振り下ろしたら思い描いた物を消失させる」
女の子はやれやれと言いながらスコップを受け取り、意地悪そうに死体の前に立った。
「だったら私が貴方に向かって振り下ろしたらどうなるのかしら?」
「もうないよ」
「……なにが え? 」
さっきからずっと腐臭を放っていた物はない。
その子はそんな当たり前にようやく気付いた。
「お父さん……お母さん……みんな何処?」
周囲を見渡すけどありはしない。
普通なら事態なんて飲み込めないけど此処は魔法っていうなんでも出来る事が常の夢のような場所だ。
あたしがした事も魔法だと思ったのだろう。
その子は怯えている。
恐怖に震えている。
こんな時は口元を緩ませて元気よく、
「あたしは貴方を傷つけようと思ってないよ。ほら、あたしちゃんと笑えているでしょ?」
笑顔は友好の証!
「貴方ひょっとしてタウロス・カーター!?」
「どうしてタウロス君が出てくるのかなぁ。あたしちゃんと名乗って……なかったよね。えぇーっと、アイシャ。あたしの名前はアイシャだから」
「アイシャって本当に?」
名前を聞くとその子の目から涙が溢れていた。
悲しいから泣いている。あってる
嬉しくて泣いてる。あってる
怒ってる。
この子は感情の起伏が激しい。どうやったらこんなに人間らしく出来るのかな?もっとよく観察したい。
「あの、先程は失礼しました。私はアイシャ……様にお願いが」
「いいよ」
即答した。だって、
「あたしは喜怒哀楽がわからないの。だから貴方の感じた想いをあたしに教えて……その代わり貴方の血潮が燃え尽きるまで側に居てあげる」
指を噛みちぎって血を差し出す。
きっとこの子の願い事は他愛のない事だ。
今のあたしは簡単に叶えてあげられるけど、それはこの子の願いではない。
他人に叶えてもらうか自分で叶えようとして届かない願い。
どちらかを選べても、あたしにはまだわからない。
……きっと心ちゃんなら——
出来るだけ自分でやるべきって教えてくれた。
卑怯で弱いあたしはそう教えられた。
レイラちゃんみたいに強かったら願いに届く。
愚かでとっても弱いあたしはそう学んだ。
「貴方も願いには届かない。答えに辿り着けるとも思わない。でもあたしは観てるから。死ぬまで観ててあげるからね」
これが正しい答えなのかわからない。
世界に都合良く決められた正解なんて不正解としか思えない。
そもそもこれはレイラちゃんに全然関係ない事だから是も非もありはしない。
だからこれは不当な報酬だ。
いつな日か、いつの日か。いつの日にか、
レイラちゃんがあたしを必要とする時が来る。
その時は、その時だけは間違えてはいけない。




