⭐︎第21話 嵌められる
未だに仏頂顔でケーキをモシャモシャ食べてるイズヴィに近づく。存在をアピールする為にチラチラと視界に入る事を忘れずに。
すると紅茶を流し込む最中にこちらに気付いてくれたようだ。
あー、俺もニーチェみたいに怒られたくないなぁ。なんかイズヴィって子はすっごく怖いし。
「……なんすか?」
「あ、いや、あのさ」
「あ?」
うわぁ……なんだよその目つき。お前は近づく者皆傷付ける戦場帰りのキレたナイフみたい目してるぞ。
こちとら怖くてまともに喋れないんだよ。
「あ、あの、あさ、あぅ、あううう」
こんなのに睨まれたらニーチェでなくとも【あうあう病】が発症してしまう。
「……ここ、座れっすよ」
イズヴィはその場で立ち上がり椅子に腰掛けるように促した。向かいじゃダメなの?なんて言えずに大人しくイズヴィに従おう。
俺が椅子に座ると更にイズヴィが俺の膝に腰掛けた。
この子なにしてんの?
「あっしの顔が怖いんすよね?あっしが膝っ子の上に乗ってたらタウカスはあっしの顔を見なくて済む……だから……そんなに怖がらないでほしいっすよ」
俺は意図せずにイズヴィを傷つけてしまっていたのか。
後悔で胸が掻きむしられそうな気持ちになるがイズヴィはイズヴィで俺のことをタウカスなんて呼んでるのでお互い様だ。
初対面の相手にカスとか言われたら傷付くんだからな!
「顔が怖いんじゃなくて怒鳴り声に怯えただけだよ。いや、まぁ……あんな変なこと聞かれたら怒鳴りたくもなるのはわかるけど」
「あっしはちゃんと教えたっすよ『じんこー呼吸されたいのなら脳みそに指突っ込んで魔力吸い尽くせば意識朦朧になって向こうからしてくる』って。でもニーチェがそんな方法は嫌とか駄々こねるから」
「俺だってそんな方法ごめんだからね!?」
発想が怖いな〜。なんなんだよこの同じ顔を持ってるニーチェ一族は。下手すりゃ一番ムカつくニーチェが一番まともまであり得るぞ。
「じゃあどんな方法ならじんこー呼吸するんすか?」
「え?あーちょっとだけ考えてたけどさ……やっぱり意識失ってる時かなぁ?でも俺は回復魔法使える人を呼びに行くか、無理そうなら心臓マッサージ優先させるからな……どうだろ?」
ってかね。関係ないんだけどさ……
おもむろに帽子をひょいと持ち上げる。
「きゃっ!??なに??なんすか?」
「……突然だけど髪型を三つ編みにしよう」
「なん——なんで?」
イズヴィの困惑はごもっともだ。
でも俺にもごもっともな理由があるのだ。
俺の視界を覆うトンガリ帽子が邪魔だからとは言えない。
フラフラフラフラ気が散るしイズヴィが急に立ち上がりでもしたらタイミング悪けりゃ俺の目は潰れるからな。
正直には言わないけど帽子だけは没収だ。
「たぶんそっちの方が似合うから……デグネ、櫛ある?」
「タウロス、お前マジで殺されるからな。俺は殺されるのはゴメンだから神のクソ野郎に祈る覚悟しといたがいいぞ」
流石は自称天才デグネ、神をも恐れぬその態度。
もっとも神様を崇めている人なんて稀だし恐れている人なんている訳がない。
神様なんていない。
存在したとしても神はなにもしない。
それがこの世界の常識だ。
それはともかく、
「イズヴィはそんなことで怒らないだろ?」
「……うん。クシ持ってきて」
「はいっ!ただいまお待ちいたします!」
デグネがパンを買うかの勢いで屋敷にダッシュしていった。凄く躾の行き届いた次期当主様だと感心する。
まぁ櫛は近くにいたメイドさんに借りたのだが、
…
……
「イズヴィって髪の毛サラサラだなあ」
「嫌だけど一日一回暖かいお湯に浸けてるから。嫌だけど髪の毛も変なので泡立ててる。何度やっても嫌だけど」
「あ、やっぱりイズヴィも風呂は嫌いなの?」
「嫌いってか億劫なんすよ。約束したから守ってるだけ。タウカスだって朝に井戸の水を浴びる時は嫌なんじゃないっすか?」
よく俺の日課を知っているな。
あとお湯と冷水を一緒にしないでほしい。
手慣れた手付きで髪を梳かし毛を結んで三つに分けてねじり、ねじりと整える。
髪を掻き上げたから後ろ姿でもわかるがイズヴィの頬っぺたがほんのりと赤くなっている。
俺なにしに来たんだっけ?
「そうだ!イズヴィに聞きたいんだけどさ!いいかな?」
「ん……いいっすよ」
よしっ!上機嫌だ!
…
「決め事の紙を誤って見た……あれ?そんな決まり事あったっすかね?えと、ニーチェの決め事の紙は——ここにしまってたっすね」
イズヴィが胸元を広げて丁寧に折り畳まれた紙を取り出した。
「それってさ、全く同じ内容なの?」
「うん。アサシンバグが書いて『持ってろ』ってくれた」
俺はイズヴィを膝に乗せている。見下ろす形になっており、
無防備に広げられた胸元。
ってかこの距離……見えちゃう……
そんなに広げられたら見えちゃう!
例の殺害予告がまた見えちまうよーー!
「ちょちょちょ!!俺に見せないで!1回目は不可抗力って事で言い訳を考えてるんだからさ!」
「……ん〜。やっぱり書いてないっすね。タウカスはなにを見たんすか?」
「最後だよ最後 『これ見た奴殺すから』みたいな文言書いてるから」
「ん……やっぱし書いてないっすよ。もう自分で確かめてほしいっすよ」
イズヴィが膝の上で反転して俺の目の前に曰くありげな紙を広げた。
……内容はニーチェの持っていた文章と同じ。筆跡も、クセがないけど止めや払いなどの位置も全く同様だ。
「なんだこれ……魔法の形跡なんてない。手書きでここまで同じ文字を書けるものなのか?」
そして肝心の文の最後……半目でゆっくりと確認していく。
なかった。
『お前殺す』みたいな文はなく、そこには空白があるだけ……違和感のある空白……
はい解決解決!俺の見間違えって事でこの件は終わり!
でも、なんか透けて見えるぞこれ。
大丈夫だ。魔法を使ってないんだから魔力反応で文字を浮かび上がらせるなんて不可能。大丈夫……だいじょぶ
俺の冷や汗がポタリと紙に落ちた。
空白の部分が文字と一緒に滲み出してくる。
そしてうっすらと文字が浮かび上がってくる。
【急にインクが切れたのでここから先は滲み出しとする。最後に……忠告でこの件を忘れてくれればと期待したこちらが浅はかだった。そればかりかこちらの素性を暴こうとするとは——本当に死にたいらしいので望み通り殺しに行くからな
アサシンバグより 】
↓タウロスさんから初めて三つ編みに編んで貰えたイズヴィさん
「暖かいお湯に髪の毛を浸けたり変な泡でゴシゴシしたら三つ編みが解けちゃうから今日限りでやめよ」
面倒でなければ感想やいいね、評価を貰えたらイラストを追加していきたいです。




