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第20話  合格


 俺は言われるがままに小石を投げた。

 投げられた小石は不規則な回転をしながら池に着水し


 パチャ、と、一回跳ねた。


「くっ!?」」「あ、あぁ!」


 後ろでは驚いていたら悲観している。

 慈悲もない小石は落ちた回転力のまままたも着水


 ポチャン……


 記録は一回だった。


 言い訳だけさせてほしい。俺はイズヴィと手を繋いでいるのだ。当然手投げしか出来ないし利き手ですらない。

 そんな中で一回跳ねただけでも成果だと自分を褒めてやりたい。



「一回だったっすね」

「一回だったね」


 もういいや、ニーチェは落ち込んじゃってるし相談に乗ってくれそうにないなら早く帰ろう。ゴタゴタしてウィル父様達に会いたくないし。


 イズヴィの手を離そうとしたがあちらが離す気がないのギュッと握られたままだ。


「……イズヴィ?」

「ふふふ、まぁ初めてにしてはセンスはあるっすね。あっしは気分が良いっすから相談事に乗ってやるっすよ。ニーチェ!お前ちょっとこっち来いっす!」


「あぅぅ、あの、その」

「あーもう面倒くさいっすね!怒んないからこっち来いっすよ」


……


 俺は離れた場所でお茶をご馳走になっていた。

 向かいでは安堵したデグネが俺に話しかけた。


「おいタウロス、お前どうやってここに侵入してきた?」

「あぁごめんごめん。転移魔法陣でちょっとね」


「……ロクシィの魔法陣か?」

「ロクシィ?誰それ?ニーチェが描いた魔法陣でだよ」


「マジか!?あっちのイズヴィ様似の子は魔法が使えるのか?」

「あ、ああうん。たぶん俺が知ってる限りだとニーチェより凄い魔法使いはいないと思う」


「はー……嘘くせぇ。あんなノロマそうな奴が凄い魔法使いって冗談はタウロスの顔だけにしてくれよ」



 デグネの言い方にカチンときたがデグネ自身が思い直したかのようにニーチェとイズヴィを見比べため息を吐いた。



「でもイズヴィ様そっくりの妹だからなぁ……双子なのかなぁ?ロクシィぐらいは凄いんだろうな」

「ロクシィって人もニーチェに似てるの?」

「全然」



 デグネはダロス王都の学院での旧友だ。俺はヴィント家のつて、主に姉の功績のおかげで入学する事が出来た。

 デグネは王侯貴族だったので実力に見合わず入学していた。貴族が多かったのでその中では実力はあったのだろう。

 しかしどうしても兄と比較してしまう。


 南の王国に行った本物の天才デイビット・ラウンジと。



 結局俺は国一番の富豪であるカーター家に拾われてしデグネはあのジュデッカの弟子になる事が出来たのだから周りから見れば勝ち組この上なかった。


 周りの嫉妬ほど楽ではないのはお互い知っている。

 デグネはジュデッカの弟子という重圧、

 俺は養子に迎え入れられる時にウィル父様達に死んだ後は全財産を譲るとまで言われている。


 生活は楽だがお互い楽しくはなかったはずだ。

 もっとも生きる上で楽しいなんて思えるのは本当に恵まれた連中だけの特権だ。

 大抵の人は生活に手一杯でそれどころではない。俺たちは恵まれているのだ。そう思うしかなかった。



「……デグネってなんか良い事あったの?」


 デグネとはたまに文通ををしているのだが大抵愚痴ばかりだ。レイラの誕生日に会う機会があるとやはり愚痴ばかり、この世を恨んでいるかのような捻くれた奴だったのに。


 まぁ俺も負けず劣らず愚痴を吐いていたわけだが、


 それが今日はニコニコ笑って上機嫌だ。



「ふふふ、やっと気付いたかマヌケめ。最近になってようやく父様が俺の実力を認めてくれたのだ!才能開花というやつだな!」

「へぇー。なんにしても良かったな」


「ああ!タウロスも悩みがあるならこの俺、天才であるデグネ・ラウンジが解決してやるぜ!」


 デグネは自身ありげに自らの胸を叩いた。

 自称天才のデグネなら俺が殺害予告されているのを解決してくれるかな?

 試しに巻き込んでみようかな?

 デグネは天才だからなんとでもなるよね?



「……実はさ」




「 っっっざけんな!!んなの知るかっすよ!!!」




 俺がデグネを巻き込もうとした時、イズヴィが大声を上げてニーチェを張り倒していた。

 

 唖然……俺が固まっているとイズヴィがこちらに近寄ってきて椅子に腰掛けた。

 いつの間にか素早く椅子を引いていたデグネ……流石だ。



「あの、イズヴィ様……どうしたのですか?」

「どうしたもこうしたもねぇっすよ!」

「な、なにか気に触る事でも——」


「どうしたもこうしたものないんすよ!黙ってろ!」

「あ、はい」


 

 俺があの紙を見たのはそれ程重大なことだったのか?これから俺はいつ殺されるとも知らずに眠れぬ夜を過ごさなきゃならないのか?



 ……もう……諦めよう。



「ニーチェ帰ろう」

「うぅぅ。お姉ちゃん怒んないって言ったのに。お姉ちゃんはあっしと会うといっつも怒ってばっかし」

「……あっちにも事情があるんだろ」



 二人して肩を落としてトボトボ歩く。

 ニーチェは頬っぺたを抑えながら涙を拭っている。その姿は心配ではあるが言い方悪いけど死ぬ程ではない。


 今の俺は自分の事が心配でたまらない。


「俺はどうやって殺されるかわかる?それだけでも知りたいんだけど」

「?」

「イズヴィに聞いてもダメだったんでしょ?せめて対策を打ちたいからさ。相手は何人とか」

「なんの話しっすか?」


 なんでそこでクエスチョンマーク?


「……イズヴィになにを聞いたの?」

「どうしたらタウカスがじんこー呼吸してくれるのか教えてって言ったら引っ叩かれた。お姉ちゃんはあっしのこと嫌いなんすよ」


 そりゃあ知らんだろうね。俺自身も知らんのだからさ。

 たぶん溺れても心臓マッサージするだけであまり意味のない人工呼吸とかしないぞ。


「帰るのは待った。やっぱり俺が話す事にする」


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