第19話 出来るかな?
前回のあらすじ
イズヴィは水切りを成功させた。それも5回も。
何度かの胴上げのあとようやく周りが満足したのか降ろされたイズヴィは嬉しそうに乱れた服を直していた。
うーん。それにしてもニーチェに似ているな。
違う点と言えば目つきが悪い。
目つきの悪さは俺も大概だけど、寝不足の俺と違ってイズヴィの場合は普段から余程イライラしてるんだろうなぁ。
それとニーチェよりも少しだけ胸がある。
「みんなありがとっす。応援してくれたお礼じゃないっすけど今日はみんなの言う事一個だけ聞いてあげるっすよ」
「ほ、本当ですか!?」
「流石イズヴィ様!」
「言う事っすからね。匂い嗅いだりしちゃダメっすよ」
デグネとメイドさん達がお互いの手を取り合ってキャッキャし始めた。
ニーチェに瓜二つだけあってイズヴィも凄い魔法を使えるのだろうか?
「俺は先生や父様に認められるような魔法を使いたいです!」
「ん。デグネは闇系統に水が少し……あとでデグネでも読める魔導書を書いとくっす。父親は知らんっすけどジュデッカを驚かせる程度なら簡単っすよ」
「ありあとありあす!!」
「わ、私は魔法陣を勉強したいのですけど才能はないと言われまして……大丈夫でしょうか?」
「魔法陣に才能なんでいらんっすよ。魔力を集める程度のちっちゃい事から丁寧に始めるっすよ」
「ありがどうございますっ!」
その後もイズヴィは色々な事を聞いていた。
なんかこの雰囲気ならいけそうな気がする。
そーっと近づいて、
「俺もいいかな?」
……当然だけど周りの視線が不審者を見る目つきだった。実際不審者だけどニーチェはイズヴィの知り合いだから事なきを得たいという思いがある。
「お前……タウロスか!?どうして此処に——お前ここを何処だと思ってる!?それにどうやって入って来た!?」
捲し立てるデグネをイズヴィが制した。
「なんすか?」
「あのーえっと……ちょっと相談事があって」
「あっしはそっちに聞いてるんすよ」
イズヴィの視線の先はニーチェに向かっていた。ニーチェはというと帽子を深くかぶって顔を見せないようにしている。
「おい、何しに来たんすかって聞いてるんすよ」
「あぅぅ、違くて、違くて。あっしは知らなくて。だから違くて」
「あ?お前ちゃんと考えてから喋れっす」
イズヴィ怖ぇぇ、人の顔ってこんなに怖くなるのかよ!?俺も、デグネ達も含めてちょっと引いてるよ。
「あぅぅ、そっちの人がお姉ちゃんを観てて。あっしも観られてて。だから違くて」
「あぁ〜?お前は誰と喋ってるんすか。取り敢えずこっち向け」
ニーチェの言っている意味がわからなくて苛立つのはわかるけど、それを差し引いてもこわぁぁい。
「あぅ、お姉ちゃんにお願い事があって」
「……ッチ、こっち来いっす」
イズヴィはあからさまな舌打ちをしてメイド達から離れた。会話を聞かせない為なのだろう。
このニーチェは人見知りするからその辺りを加味しているんだ。案外優しいんじゃないかな?
「んで、お願い事ってなんすか?」
「あぅぅ、タウカス〜」
ニーチェはとしどろもどろになりながら俺の裾を握った。
俺の問題だし俺が言った方が早いよな。
「あの——」「ふざけんな!あっしはニーチェに聞いてるんすよ!お前が決め事破らないようにこっちが配慮してるって気付け!」
「あぅぅ、ごめんなさいお姉ちゃん」
「お前と喋ってるとイライラするっす!せっかく水切り出来て気分良かったのに台無しっすよ!」
うわぁ……姉妹喧嘩ってこんなんなんだ。俺にも姉さんがいたけど喧嘩した事なかったからな。
いや、姉が強過ぎるから喧嘩になりっこないって決めつけてたんだ。俺が怒りたくなるような小言を言われた記憶が俺にはある。
結局なにも言い返せなかったけど、
「……せい!」
「お前のせいであっし達がどんだけキャッ!?」
怒り続けるイズヴィの両脇を掴んでひょいと持ち上る。
ふふふ、軽い、軽すぎる。
まさか宵闇を振り続けた意味は此処にあったんだなと感慨深くなる。
「はな、はなして、離してほしいっす」
「離すからお前もニーチェを怒るなよ?」
「……うん。だから離してほしいっす」
てっきり癇癪が俺にまで降りかかると思ってたけど以外。イズヴィは大人しくなっていた。
俺はイズヴィをゆっくりと地面に下ろして手を離そうと、
「手はギュッと握ってていいっす」
「……?はい」
よく分からないけど今は言う事を聞いておこう。
手を繋ぎながらイズヴィが空いた片手に小石を差し出しながら俺を見上げた。
「何のようか知らんっすけどタウカスがあっしの水切り回数、それも前人未到である【5回】を超える事が出来たから聞いてやるっす」
「……え?水切り?」
「知らないっすか?石を投げてパチャパチャ跳ねさせる絶技っすよ」
「知ってはいるけど……」
さてどうしたものか。
水切りの難易度なんてどれだけ水面ギリギリに横回転で投げられるかが大部分を担っている。……これ以前にこの石ツルツルだな。おうとつが少なく水切りには最適、
適当に横に投げたら簡単に跳ねるのは容易に想像がつく。
後方には事情を察しつつあるデグネ達が俺を睨んだりメイドさん達は祈ったり……
何にしても投げるしかないな。




