第17話 デートのような
早朝、いつもよりも早く仕事を終わらせる。身体が元気なのもあるがもたもたしてられない。
普段より依頼者の精査を甘めにしてでも判を押していく。
「あとはこれをギルドに届けて午前の仕事終わり!」
「もう?いつもはもっと紙と睨めっこしてるのに」
ニーチェは不思議そうに俺を見つめていた。
このニーチェは月に一度ぐらい出て来るのだがいつの間にか……と言うか最長でも1日持たずに元のムカつく方にチェンジしている。
なのに出てきても絶対俺のそばから離れようとせずに無意味な時間を浪費させてしまっていた。
このニーチェと居られる時間は多くはない。
「昼以降の仕事は他に任せるからさ。今日は一日フリーだぞ!だから何処か行きたいところはある?」
「……タウカスと一緒がいい」
ニーチェはそう言う時俺の裾をギュッと掴んだ。
その可愛さが普段のニーチェに一割でもあってくれればな。
まあ、今はあっちの事はどうでもいいか。
「それじゃあ散歩でもしようか」
「うんっ!」
…
……
うーん……何処行ったらいいのかわからないから適当に町をぶらつく。
普段ニーチェが行く場所でいいのかな?
「ニーチェもギャンブル好きなの?」
「カードめくったり、数字の場所を当てるあれ?」
「うんそう、ポーカーだったりルーレットだったり。もう一人のニーチェは毎日入り浸ってたからさ」
「あれは運命を見てるだけ。決められた唯一絶対の事象を魔法なしで観測する手段」
「運命……つまり未来予知ってこと?」
「そう。特にカードをめくるやつは勝ち方が決められている。あの子の場合は大金を手に入れたら交代の合図。それ以外は全部負けるように仕向けられている」
そういえば昨日ニーチェはポーカーで馬鹿勝ちしたからって大量の金を俺に投げつけて来やがったな。
でも……
「つまりあの馬鹿が毎回勝てばニーチェは毎日出てこれるの?」
「うん。あと今回みたいにあっしがいっぱい頑張ってアサシンバグの機嫌が良くならないとあの子は勝てない。あの子にとっては機嫌が悪いんだろうけど」
中々に難題だけど一考する余地はありそうだぞ。この町の賭博場はイカサマはないと公言してるから単純に本人の実力が問われる。
それと知らない人の名前をポンポン出されても困る。アサシンバグって……名称だよね?名前じゃないよね?
「ニーチェは一日も出て来れないから大変だなぁ〜」
呑気な感想を言うとニーチェが顔を伏せた。
「本当だったらいつももっと沢山タウカスの側にいれたはずなのに……あっしがダメだから……馬鹿だから」
ニーチェはなにか思い悩んでいた。
悩みなんて人の数だけあると言うけどニーチェもきっと大変な悩みがあるのだろう。
「なにか悩みがあるなら話してみてよ。力になれるかはさて置いて聞くぐらいなら俺でも出来るからさ」
「タウカス……うん」
ニーチェはその場に座り込んでポツリポツリ特に話し始めた。
自分が表に出る時は色々条件が出されると。
…
「えーっと、そのアサシンバグって人に逐一報告しなくちゃいけないわけね?」
「うん……なにかあった時となんにもない時と、誰か見かけた時と誰も見かけてない時と……たくさん」
これは……アサシンバグってのはニーチェの親だな。
こっちのニーチェは魔法が万能な代わりに一人で生活できるとはとても思えないからな。
俺でもニーチェが仮にお使い程度でも一人にするのは心配になる。
「あぅぅ、違うっすよ。あっしは『これをやれ』って言われた事は出来るけど『なにかやれ』って言われてもわかんなくなっちゃうんすよ。だからいっつもすぐに呼び戻されてる」
報告ぐらい出来るだろ?と思ってはいけない。
俺でも『ゴブリンぐらい倒せるだろ?』とか言われても無理だし。
これはニーチェにとってはとても難しい問題なのだ。
「わかった!とりあえず今からその報告をしよう。そのアサシンバグって人にはどうやって連絡を取ってるの?」
ニーチェはパッと明るくなったがすぐさま帽子の中から紙を取り出して真剣に読み始めた。
「……他の人に言ったらダメって決まりがある」
「なにその悪の親玉は影形を見せずみたいな人?んー……じゃあ俺はちょっとこの場を離れるからさ。ちゃちゃっと報告を済ませて——」
「……報告するタイミングが誰かに知られたらダメって書いてある」
「わぁお。徹底してるぅ。ってかチラッと見えたけど……ビッシリ書いてるな。ちょっと見せてよ」
ニーチェから紙を受け取ると何一つクセのない文字が事細かに記されていた。
読んでみると過保護な親にありがちな事が多いな。それにここまで心配という表れだろう。報告に関してなんて5行で終わっている。
魔法、それに生活に関してが多い。
『困った時、魔法を使う前には一度相談、こちらに来る余裕がなければイズヴィを頼る事。一人で決めない事』
『下に降りたら毎日風呂に入る事、食事の後は歯磨きをする事、ベッドで休む際は靴と帽子を脱ぐ事————』
その後も様々な小言が書かれていた。
……これ、生活関連に限れば普段のニーチェなにも守ってないじゃん。
『最後にこの文は誰にも見せないこと。見せた場合はその者を殺しに行くのであしからず。 アサシンバグより』
はい 嵌められた。




