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第16話  平和の中の暗闇



ーーサイド タウロスーー



「きゅうじゅう、きゅう……百!」


 夜明けと共に日課にしている素振りを終える。

 たかが百回ぐらいの素振りと思うなかれ、俺は単純な素振りに二十分程度の時間を費やしているのだ。


 チラリと刀身の視えない刀に目を向ける。

 満足している気がしたので刀を鞘に納めた。


 視えなくとも何度も扱っていたら流石に慣れた。そもそも納刀する度にビクビクしてはいられない。


「次は……」


 もう一本の刀を気合いを入れて持ち上げる。

 こちらは刀身は視える見た目だけなら普通の刀なのだが、この刀はどう言う訳か重さがとんでもないのだ。

 完全に持てないのなら諦められるが腰を入れて歯を食いしばれば出来ない事もない。


「ぐぎぎぃぎぎ、ぐぉぉおおお!!い……ちぃーー!」


 振り抜かないと俺の腰が死ぬので地面に叩きつける。


「はぁ、はぁ……終わり……え?まだ?」


 どうもこの刀、幎は満足していないのかもう一度振れと言っている気がしてならない。

 先程の宵闇も同様だ。刀の声なんか聴こえないけど不思議と未だに機嫌の良さが俺にはわかった。


「が あぁあ!!にぃぃ!!」


 二回目の素振りで柄を手放してしまった。

 単純に俺の力の問題だ。


 これから先の俺はもう筆ペンしか持てない。

 仕事しか出来ない!


 不機嫌そうな気配を感じても仕事しか出来ないんだ!


「よしっ!日課終わり!もう無理もー無理!」


 宵闇を腰に携えて、幎を両手で持ち上げて抱き抱えるように持ち上げる。



……


 少し仮眠を取ろう。

 心地良い睡魔に襲われながらベッドに潜り込む。


 ベッドメイクしてくれるメイドなんていやしないので、シーツを手直す事もせずにそのままダイブ!


「……あーなんだこれ?柔らかくて……暖かいな……」


 丸められた毛布が凄く暖かい。

 言うなれば人肌だ。


 メイドの誰かが気を利かせてくれて暖炉で暖めてくれてた……とか?


 そんな気が利くならベッドを直して欲しかった……まあ、欲は言うまい。

 薄寒い明け方に暖かい毛布を抱きしめてこのまましばしの眠りにつこう。


 

ーー

ーー


『あたしったら太郎さんにあんなに強く抱きしめてもらっちゃったわ。いやーん恥ずかしいわね!』

『は?私なんて太郎さんの手が汗ばむほど握ってもらってたのよ。幎は重くて離されちゃったじゃない』


『宵闇は手だけなのね〜。あたしは太郎さんの懸命さを全身で感じたわ』

『このクソデブ!』

『なによこのクソガリ!』




 ……たまに同じような夢を見るのだ。

 何故か二本の刀と同名の女性二人が喧嘩をしている。

 2人とも言い合いにあったような太っているとか痩せすぎていると言った風貌ではない。



 そして喧嘩の原因はタロウさんという変な名前の人、


 何故に夢の中で痴話喧嘩を見にゃならんのか。


『あ!太郎さん!』『え!?やだ恥ずかしい』


 なのに決まって二人は俺がいるとわかると嬉しそうに近寄って来る。俺をタロウさんと勘違いしている。


『ねぇ太郎さんはあたしと宵闇、どっちが好き?』

『はぐらかすのは太郎さんらしいけど今日こそ答えて』



 勘弁してくれよ。


 なんだって俺は夢の中で擬人化された刀に言い寄られているんだ。


 あれか?

 欲求不満ってやつか?

 俺はそんなに溜まってるのか?


 グイグイ二人が近づいて来る。

 でも残念だったな。感覚的に言ってそろそろ夢から覚める時間だ。




ーー

ーー



 二時間ほどの睡眠。いつもより深く眠れていた。身体の疲れが全て吹っ飛んでいるかのような爽快感!隣にニーチェが真顔で俺を見つめているのと関係あるのだろうか?


「……お前なにしてんの?」

「あ、……あの……あぅ〜」



 ……あ。これはいつもの《天邪鬼ニーチェ》ではなくたまに出て来る《素直なニーチェ》か!?


 だとしたら今の俺の対応は不味いぞ!

 俺の疲れを癒してくれたのはこの『あぅあぅ』ニーチェの可能性が高い。


「あぅぅ、アサシンバグの言う通りにしたのに……あっしは嫌だったのに……」


 ニーチェは居心地が悪そうに周囲をキョロキョロし出している。これは……早くなんとかしないと目の前から消えてしまうパターンだ。



 

「ちょちょ、ちょっと寝ぼけてた……あのさ、ニーチェだよね?」


 ニーチェはコクンと頷いただけだった。

 

「久しぶりて…だよね?元気にしてた?」

「うん。ずっとタウカスを見てたから元気だった」


 ああ。やっぱりムカつくニーチェとは同一人物なのか。性格は全然違うけど瓜二つだし同時に見た事ないし、


 でも決定的に違うのは……


「あのさ……俺の身体が凄く軽いんだけど……ニーチェがなにかやってくれたの?」


 この素直なニーチェは詐欺師ニーチェと違って本当に魔法を使えるのだ。


「うん。あぅぅ!でもでも、あっしは嫌って言ったっすよ!でもアサシンバグが……ごめんなさい」


「なにに謝ってるかわからないけど……ありがとう。おかげで今日はシャキッと動けそうだ」


 ニーチェの頭を軽く撫でる。

 ニーチェは嬉しそうにしながら瞳を閉じて上顎を差し出した。



 ……マジかよ……誰も見てないよな?



 そっと唇同士が触れ合うとニーチェは満面の笑みを浮かべていた。



 


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