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第8話  集結


 タナトスは泣き続けるアタシの背中をさすってくれていた。

 でもアタシが泣き止むとすぐにさするのを止めて魔力の糸を北に伸ばし始めてた。


「クリーヴァに汝のこと聞いてみる」



 もっとさすってくれてもいいのに……


「——あ、クリーヴァ、今大丈夫?」


 タナトスの口から義父様の名前が出た。

 義父様の声はあまり聴こえないけど間違いなく義父様だ。


「お酒が欲しいかな。うん果実酒。うん……まだ沢山あるからいつでもいいよ。——用事?是はクリーヴァに用事なんてないよ」



 通話を終えるとタナトスは自分の寝床を直していそいそと潜り始めた。


 え? 終わり?


「ねぇ、義父様はなにか言ってた?」

「今度お酒持ってきてくれるって。一緒に飲む?」


「違う!アタシの事なにか言ってた!?」



「  あ。 そうだった。クリーヴァが先になにか欲しいのあるか聞いてきたから忘れてた」


 ちょっと待って……アタシの父親は頭が鶏なの?

 三歩歩くどころか一言会話したら忘れちゃうの?



「何度もごめんね。……うん。用事思い出した。なんか今クリーヴァの娘って人間が来てるんだけど邪魔だから連れて帰ってよ」


 お前の実娘だ!と大声で怒鳴りたかったけどクリーヴァ義父様に聴こえてしまうかもしれない。

 ……覚えてろタナトス。



「え?名前?アイシャが呼んでた気がするけど是は興味なかったから知らない。頭おかしい女の子だよ。……そう。頭おかしい以外に特徴ないかな。あ、頭だけじゃなくて全身が絶賛腐敗中だね……ジュデッカ?やだよ。連絡したらこき使われるだけだし。是には関係ないし」



 こ の や ろ う。

 何処までもアタシの神経を逆撫でさせてくれる奴だ。


「母親?ロクシィだって。どうして2人とも黙って……切られた」



「ちょっとタナトス。そこ座って」

「どうせ怒るんでしょ?是はここでいいよ」


「そこに座って言ってるでしょ!はやく座ってよ!」

 

 タナトスには小一時間程の説教をくれてやったけ何度も居眠りして話を聞いてなさそうだったのでアタシも諦めて眠る事にした。



……



「だぁれがロクシリーヌとのガキをつくったてぇ!?こちとらかっ飛ばして来てやったんだから起きろコラァ!」


 そんな怒鳴り声でアタシは目が覚めた。

 あのにっくきタナトスが首を掴まれながら持ち上げられてる。

 


 クリーヴァ義父様だ。

 どうしてこんなに臭い場所にいるのだろうか?

 ひょっとしてアタシに会いに?


 でもアタシの姿は……気付いてくれるかな?



「是が言ったんじゃないよ。その辺にいる人間の女の子。クリーヴァがお父さんなんでしょ?」

「俺様は子供なんか作んねぇよ!どこだ!?適当なホラ吹いてるクソ人間はぁ……」


 クリーヴァ義父様はアタシを見ると固まってしまった。母様はアタシのこと嫌いなのは知ってたけど義父様はどうなのだろうか?

 アタシが姿を消してから一度もアタシの名を呼んでくれた事がなかった。


 義父様も母様と同じでアタシのこと嫌いなのだろうか?

 でも大丈夫。義父様が知っているアタシは随分と幼かったけど今のアタシは妙齢な女だから名前さえ言わなければ義父様も気付かないはず。



「……マキナ?お前マキナかぁ!?」

「わかるのですか義父様?」


「たりめぇだろ!にしても大きくなって……いや、大きく……うん」


 義父様は少し歯切れが悪そうに言葉を濁したけどとても嬉しそうにしてくれた。

 だったら義父様は常にアタシの味方だ。


「義父様!そこにいるタナトスがアタシを虐めるの!」

「虐めてないよ。虐められてるのは是の方だよ。主に睡眠妨害って理由で」


「そもそもタナトスは何時間眠るつもりなのよ!?いい加減シャキッとしてよ!」

「言っておくけど全然眠れてないからね」


 タナトスと言い争っていると義父様に2人して襟首を掴まれて持ち上げられた。


「取り敢えず事情を話しやがれぇ。言っとくが全部だあ。支離滅裂でいいから全部話しやがれぇ!いや待て!二人ともしっかり考えてから喋れ!」



……



「あ〜、マキナの父親はタナトスでロクシリーヌが殺されたけど生きててタナトスは身に覚えがあるけど身に覚えがない。と?」


「「  そう  」」


「二人ともちゃんと俺様に伝わるように考えて喋ったか?」


「「  うん  」」


 義父様は頭を掻きむしりながら黒い液体を流し込んだ。

 

「よし。よくわからねぇ事がわかったぜぇ。んでマキナの身体はアレか?ジュデッカに借りたのかぁ?」


 アタシの身体はジュデッカに奪われてる。

 産まれてすぐに半分以上持っていかれて皮膚は怖い女の人が縫い合わせてくれた。

 それが原因とまでは言わないけど結局長生き出来なかった。


 そして今の身体をアサシンバグに貰ったと言っていいものなのか?

 ダメに決まっている。アサシンバグに関する情報なんて出して良いはずがない。義父様にまで迷惑がかかってしまう。



「色々あって借り物の身体を用意してもらってる。出来れば詮索しないでもらえると嬉しいです」

「……そうかぁ。言いたくなったら言えよぉ」


 流石義父様だ。その心遣いが逆に憎らしい。



「その人間の身体って借り物なの?変だと思ってた」


 この馬鹿タナトス。気にしてるんだから黙ってろ!



「マキナは産まれた時にジュデッカに身体をやられちまってなぁ。タナトスは付き合い長いから知ってるだろうがジュデッカは気に入った物は手放さない。本体もどこに存在するかわからねぇからな」


「ふーん」


 興味なさげなタナトスの胸ぐらを怒りの形相をした義父様が掴み持ち上げた。


「オイこのクソ野郎、俺様や八重が何回お前に頼んだ?お前はその頼みをことごとく『関係ない』で済ませたよなぁ?実際関係ねぇから無理に頼まなかった。だが事実はどうだぁ?所詮は他人の俺様達と違って肉親であるテメェが一番関係してなきゃならねぇんだよ!」


「……離してよ」


 タナトスは適当な相槌を打ちながら自分の胸を抉り肺の片方だけを握り潰した。


「ごぶぉ……次は……胃……ぐふ」


 ああ。タナトスは馬鹿だとは思ってたけど自傷行為が趣味な程に頭がおかしかったのか。


 その後も様々な臓器を潰しているタナトスをアタシは少し白けた目で見つめていた。

 しばらくするとか細い魔力糸から息も絶え絶えな悲痛な怒鳴り声が聴こえてきた。



『なんの真似だタナトス!』

「久しぶりジュデッカ。元気じゃないよね」


『僕の質問に答えろ!いきなり僕にペインバックを放つなんて気でも触れたのか!?』

「是は平常だよ。こうでもしないとジュデッカは是の言う事を聞いてくれない。だから人形を壊してる。ジュデッカは頭良いから言う事聞いてくれるよね?」


『今取り込み中でね。落ち着いたら顔を見せるよ。人形は好きなだけ壊してくれて構わないよ。どうせ僕の本体には届かない——』

「もうすぐ魔法適正の日だよね?誰にも言わなかったけど是は知ってるんだよ」



『誰の入れ知恵が知らないが随分と偉そうな口を利くようになったじゃないか。周りに誰かいるのか?そしてなにが望みだ?』


「マキナの身体返して。それは是の子供の身体だから」



『もう少しまともな嘘を吐いてくれよ……さてはタナトス一人だな?貸すだけなら昔のよしみで考えてやったが適当な理由を付けて身体を奪おうという訳か。当然僕はおいそれと渡すわけがない。欲しいのなら無理矢理奪いに来いよ』

「わかった」




 タナトスは魔力糸を強引に断ち切ると大きめのローブをもすっぽりと頭からかぶった。


「是は用事があるから行くね。二人は……暇なら是の家を掃除しててよ」



 当然だけどアタシと義父様は掃除する気などない。

 なんだか少し格好良く見えるタナトスと一緒にダロス王都に行く事にした。


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