第7話 父娘
アイシャが消え去ってもアタシの身体の奥、全身の細胞が震えていた。それでもゆっくり呼吸をし続けるとどうにか落ち着いてきた。
そしてこちらを確認しながら塔の中に入ろうかどうか迷っている男がようやく目についた。
「汝はなにしに来たの?」
「アタシは父さんに会いに来た」
「ふーん。でもここには是以外いないよ?」
なんだその喋り方。それに是ってなに?
ってかこの男は……。
「あなたがタナトス?」
「是の名前を知ってる?でも是は汝のこと知らないよ。何処かで会った?」
知らないだと?
アタシを作っておいてなにを呑気な事を言っている?
「アタシの父さんはタナトスって言ってた。母様がタナトスに似ているって言ってた」
「是に子供なんていないよ」
タナトスはしらばっくれるつもりでいた。
男はどうして皆してこーなのか。
クリーヴァ義父様も『本当の父親じゃない』って言ってアタシの父様になってくれなかった。
そして本当の父親であるこいつはオロオロするばかりでみっともない!
「つくった事ないって……お前は母様としただろう!」
「母様って誰?きっとその人が是を嵌めようとしたんだよ」
「アタシの母親はロクシリーヌ母様以外あり得ないだろうが!今までなに聞いてたのよこの大馬鹿!」
「 え? え? 」
母様が言ってた通り本当にタナトスは馬鹿だ!
「ロクシィが急に裸になって是に馬乗りになった時かな?でもあの時は何されてるのか知らなかったし随分昔だし汝は人間だし計算合わないし。え?」
「『だしだしだしだし』うるさい馬鹿だ!なにが『え?』だ!ふざけるなこの馬鹿!お前のせいで母様が死んだんだぞ!」
そうだ!元は言えばこの馬鹿に会いに来たせいで母様が殺されてしまったんだ。
こんな甲斐性無しと知ってればアタシは会いたくなかった。
「ロクシィ死んだの?」
「お前に殺されたようなものだ!そして少しぐらい悲しそうな顔をしろ!アタシなんて失敗したけど自殺したのよ!」
「……失敗?これは失敗なのかな?たぶん一番いい形で成功してるよ」
タナトスが手を地面に押し当てた。
微弱な魔力を蜘蛛の巣状態に変形させて伸ばし続けている。索敵の魔法だろうか?
「汝は嘘つき」
「お ま えぇぇ!初対面の娘に対して嘘つきって。ちゃんと言葉を選んでよ」
「かなり遠くにいる。でもロクシィ生きてるよ」
「ほ、本当に!?どうやって生き残ったの!?」
「そんなの知らないよ」
「なんで肝心なところで役立たずなのよ!」
「この子ロクシィそっくりだ……ちょっと待って。今繋ぐから」
タナトスが蜘蛛の巣状態の魔力を一本の糸に変化させていく。たぶん魔力の震えで声を届ける魔法か。
アタシの父さんって結構万能なんだ。
「ロクシィ、今大丈夫?」
『大丈ばない』
母様の声が聴こえた!本当に生きてる?嬉しい嬉しい嬉しい!よかった!よかった!よかった!
「なんか今ロクシィの子供を名乗っている頭おかしい人間が来てるよ。連れて帰ってよ」
頭おかしいのはタナトスだろう!連れて帰るってなに!?
それに母様に対してなんだその無礼な態度は?
『……。 タナトスにしては 珍しく冴えてる マキナは 頭おかしいだけ』
「あ、切っちゃった」
え?どうして?アタシ……母様を守れたのに……どうして冷たくされなきゃいけないの?
「あの……あのさ……」
茫然自失になったアタシに対してタナトスが困りながらも優しく声をかけてくれた。
ひょっとしてブレドリパみたいに優しく頭を撫でるつもりか?
今更になって父親面するつもりか?
アタシはタナトスの同情なんてこれっぽっちもほしくない。放っておいてほしい。
馬鹿な奴の優しい言葉なんかアタシに響いてたまるか。
「是はもう寝るから帰ってくれないかな?汝は五月蝿そうだから邪魔なんだよね」
「ちょっと頭近づけて……そう。次は下向いて——こんのぉ!」
タナトスの頭をガツンと殴りつけた。
瞬間アタシに衝撃が走り頭を押さえて蹲る。
「大丈夫?でも是は悪くないよ」
「ペイン系統の魔法か……クソ……」
タナトスは別に心配してなさそうに最低限の社交辞令を言っただけ。
反射魔法とか卑怯とは思わないのか?
それにタナトスはどれだけ魔法を持ってるんだ?
アタシはなんでこんな事してるんだろう?
「うぐっっ。ヒック……どうして……アタシは母様に好かれたかっただけなのに……母様とお話ししたかっただけなのに……うえぇぇぇぇんん!!お父さんはこんな馬鹿だし!ふぇええぇぇ!」
「あのさ……是はもう家に入ってもいい?五月蝿いけど我慢して寝るから好きなだけ泣いてていいよ」
「ぐぐぅぅひっぐぅうう!良いわけないでしょ!?貴方も父親なら落ち着くまで背中さすってよ!クリーヴァ義父様はしてくれたわよ!」




