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第6話  自殺未遂



 助かった?

 なにが助かったの?

 ロクシリーヌ母様は死んでしまって……

 ブレドリパもアタシのせいで死んだ。


 アタシは何の為に身体をもらったの?

 魔法が使えなくなっただけで……なにも出来ない身体になってなにが!


「……死ねば……大丈夫……今から死んで……また時を戻せば大丈夫だから」




 どうやって死ねばいいのか確実な答えを出す。

 胸を貫く。人間だから血を失って呼吸出来なくなってそのうち生き絶える。



 

「——ひぐぅぅ……ぐ、じ……ぇげぇぇ」


 忘れてた。死ぬってのはこんなに苦しいものだったんだ。

 こんなに辛いものだったんだ。


 母様は苦しまずに死ねましたか?

 最後まで馬鹿な娘で……ごめんなさい。



「えぐ、あぐぅぅ……じに、じにだぐないぃよぉ……」


 醜い。なんて醜いのだろう。

 アタシはずっと死んでいたんだ。

 今更死ぬのなんて怖くないはず……なのに何故もがいている?速く早くはやく潔く死ね!



 気持ち悪い。みっともない。

 柊心もそうだった。死ぬしかないのに最後までもがいていた。その姿はとても滑稽だった。


 それとまったく同じだ。


 はやくはやくはやくはやく死んで楽に……



「……もう死んでるよ。是がやろうか?」

「ちょっと待ってて。今考えてるから」


 誰かがいる。

 のた打ち回って死ぬアタシを誰かがみている。



 早くはやくはやく死ななきゃ。



「……ぢにだく……ない。だずげでぇぇ」



「 夜明けを夢見た鎮魂歌(オーバードレクイエム)

  暴食の罪業を此処に——」




 痛みが引いていく。苦しみがなくなっていく。

 身体の細胞一つ一つが意志を持ったかのように痛みを和らげようとしてくれている。


 全ての細胞が付けられた傷を癒す為に全力を注いでいる。

 本来ならば傷を癒す組織ではない臓器までもがアタシの身体を修復していく。


 更に倒れ伏した地面の土、小石までもがアタシを癒す為に蠢いてくれていた。


「あり……ありがとう……」



 アタシは誰にお礼を言ったのだろう。

 アタシの身体でありこの世界であり……

 目の前のおどけた顔をした女性だ。


「死にたがってたけど死にたくなさそうだったから助けちゃったけど、お礼を言われたって事はあたしは良い事したんだよね!?」

「是にはわからない。わかるのは怒られるのは是って事」



「大丈夫!メイデンちゃんにはあたしから言っておくから!ああ見えてメイデンちゃんあたしには激甘なんだよ!」

「どう見ても見たまんまだよ。本当に言っておいてよ」


 アタシの視界には女性と傷だらけの男がいた。

 無事だったアタシを見て嬉しそうにはしゃいでいる。

 色んな人間をたくさん見てきたけど女性、この人間は違う。


 この女はアタシが無事だったから嬉しいわけではない。

 自分が良い行いをしたと感じたから嬉しいのだ。



「……名前……貴女の名前を教えて」

「あたしの名前はアイシャ、こっちはタナトスだよ。マキナちゃん」


 アタシは名乗ってなんかいない。

 でもアイシャにとっては名前を口に出していないだけで、アタシは名乗っているのだ。

 何故かそう感じた。



 アイシャ……その名前の人間はいたけど……絶対に死んでいた。そもそもこいつの魂は何処にある?


 こいつの中はなんだ?

 人の皮を纏い必死に人の真似事をする怪物……アイシャの印象はそれだけだった。

 

 


「そっか……マキナちゃんはお母さんを殺されちゃったんだね……ん?あれ〜?ちょっとわかんなくなっちゃったけど、いい提案があるよ!」


 アイシャがあたしの顔を覗き込んだ。

 身体がガタガタと震え出した。怖い。怖い。

 思考を読まれるぐらいで身体は震えない。


 ファティマがアタシを殺そうとしても震えはしなかった。

 


 こんな化け物がいつからこの世界にいたの?


 


「マキナちゃんのお母さんを殺したと思ってる奴、あたしが酷い目に合わせてあげるよ!どう?マキナちゃんにとって凄く良い事でしょ?」


 アイシャの自信満々な問いかけに慌てて首を横に振った。

 ダメだ……この子だけはダメだ。

 頷いてはいけない。関わってはいけない。

 アイシャという本物の化け物を関わらせてはいけない。


「そっか……やっぱり良い事じゃなかったんだ……」


 アイシャは残念そうに、作ったように悲しそうな顔をしていた。




   「それなら次はあたしの番だよね?」




 悪寒などでは済まされない。

 全身が終わりを納得した。

 死にたくないと思っていた本能が消失していく。



「心ちゃんを沢山虐めてどうだった?何度も苦しい思いしてる心ちゃんを見てどう思った?そこにどんな感情が生まれた?今あたしが同じめに合わせてるけど勿論大丈夫なんだよね?」


 アイシャが手を伸ばす。

 あ ダメだ。 それに触れたら……



「あたしは感情を探してるだけだから痛くしないよ。傷ってのは自分が伴って初めて痛みになるんだから。それよりも教えてよ。今どんな気持ちなの?嬉しい?楽しい?悲しい悔しい?貴方の気持ちをあたしに教えて」


 細胞の全てがアイシャに触れたがっている。

 触れたが最後アタシはアタシではなくなる。

 取り込まれる。そんな光栄な事が起こっていいのか?


「 あ あぁ  ああ やめ、やめて  」


「   もしかして   嫌なの?   

心ちゃんはよくて自分がされたらダメなの?

……そっか。これは酷い事なんだ。あたしはまた間違えてたんだ。ごめんなさい」




 アタシはそれに触れてしまった。

 触れる瞬間、何かが入れ替わったような感じがした。

 

 


「——あ。あのね。あんまり心ちゃんを虐めないであげてね。心ちゃんは今いろんな事が出来なくなってるの。身体を貰っていろんな事が出来るようになった貴女とは逆。だからその……大目に見てあげてくれないかな?」


「うん」


 アイシャの手は優しくて暖かかった。

 何故先程まであんなにも恐ろしかったのかわからない。

 アイシャに触れられるだけでアタシの汚い部分が洗い流されていく。

 



「ありがとう。貴女の大好きなお義父さんを過去に殺しちゃったのもあたしが原因だから恨むなら心ちゃんじゃなくてあたしを恨んで」


 


「……もういい。今は義父様も生きてるし」



「ありがとう。優しいマキナちゃんの身体がはやく見つかりますように……。メイデンちゃんが待ってるからもう行くね。タナトスも薬草採取手伝ってくれてありがと!」

「痔だっけ?魔法でも治癒出来ないぐらい酷いの?」



「あたしが付けちゃった傷だから絶対治らない……でもこの世界にはきっとレイラちゃんの痔を治す方法があるの!」

「……こんな辺鄙な場所ならともかく人間が沢山いる場所で痔だってバラされたらひねくれちゃうから気をつけてね」


「大丈夫!レイラちゃんはそんなことで怒るほどお尻の穴が小っちゃい女の子じゃないんだからね!」



「汝が蹴っ飛ばしたから拡がったんでしょ?」


 

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