第5話 見逃さず見逃され逃げだす
ブレドリパはアタシをおんぶしたまま動かない。
動けないわけではなく、動いても仕方ないのだ。
それはファティマも感じたようで降参の意味なのか両手をあげた。
「【静寂】の今の名はブレドリパだったな。お前は俺にカスリ傷しか負わすことは出来ない事は経験済みだよな?まだまだ全力じゃないなら試してどうぞ。奥の手も全て出して構わない。ただし、その度にお前は詰んでいく。なあ?お互い無駄な被害は出さずに終わろうぜ」
雲が青紫に染まっていく集まっていく。
「カムイ。それそろ演算は終わったか?
範囲50km四方——対象——241人か……場所が悪いから仕方ないが俺は躊躇なく滅びの雨を無関係な人間どもに放つ。この程度でお前は死なんだろう。この程度の範囲ならお前は全て助けるのだろう。しかし俺は更に大きな被害を出す為の体勢を整える。さあ答えは用意したか?」
ブレドリパが優しくアタシを地面に下ろした。
「マキナちゃんをどうするつもりじゃ?」
「大人しく消えるなら質問はさせてもらうが手出ししない。今更お前を仲間に引き込もうなんて平和ボケもしてないからな」
ブレドリパが自分の欠けた手のひらを見つめている。
「お互い様じゃしええじゃろう」
「お互い様?訳分からんけどさっさと死ねよ」
ブレドリパがアタシの頭を優しく撫でてくれた。
長らく忘れていた感覚……こんなにも心地良いとは思わなかった。
「ロクシリーヌちゃんの事は心配せんでいい。マキナちゃんはやれる事を全力でやった。これから無関係に生きようともお主を咎めはせん——しかしそれが許せんのなら——今度は馬鹿なひ孫にも力を貸してやってくれ」
「ぶ、ブレドリパ?」
「しばし さらばじゃ!」
ブレドリパは自身の胸を貫いた。
その場にドサリと倒れドクドクと夥しい出血が大地を染め上げている。
「お涙なんてないから消えろ! どうせお前の事だ。弱点は変わってないんだろ?
奉る霊魂は其に捧ぐ
仕る愚魂に永遠なる安寧を
我と汝の魂を獄の極みへと堕とさん
我と汝の肉体を天の頂へと誘わん
舞い堕ちろ! 光女のデボラ!」
ファティマを中心として青白い光が狂ったような叫びをあげながら空に舞い上がった。
ファティマとブレドリパが青白い光に包まれて消失した。
アタシは……とんでもない事をしてしまった。
そして当然のようにファティマだけは生きている。
「やけにあっさり過ぎる……ああ、お互い様ってそーゆー事ね。聞いてるかブレドリパ? 俺はあの時は約束を守った。結果は奇跡の末子なんて言う最悪な災厄が出現しちまった。そして今回も俺は約束を守ろうじゃないか。約束を反故にするのは常にお前達であり……正義はこちらにある。それこそが俺が絶対に負けない理由だ」
「な、なんの話し?」
「こっちの話しであってお前を殺す理由の話し。因果ってのは何処から発生するのかわからない……だったら全部断ち切る。俺だって純潔を守ってる処女っ子を殺したくない。しかし奇跡の末子は二度と生まれてほしくない。どちらが正解か導き出せるか?」
あぁ……アタシは殺されるんだ。
ファティマに殺されたら魂は残らない。天国や地獄なんて場所には行けない。
アサシンバグに怒られずにすむ
神様、神様お願いします。
どうか消滅しても、母様に会わせてください。
「……カムイ……狙いは俺……じゃないのか?」
「……。……?」
青白い光が降り注がない。
ファティマが冷や汗を流しながら虚空を凝視している。
「ここまで守ってきた魂を簡単に手放すな。
まず1つ、ブレドリパが来たから俺はお前を殺さなきゃならなくなった。
次に2つ、しかしブレドリパが来たおかげで俺はお前を見逃さざるを得ない。
最後に3つめ。その結果がどうあれ俺以外が全滅しても構わないという結論に至るわけだ」
柔らかな光の柱がファティマに包み込んだ。
「時間がないから最後に聞いときたい。奇跡の末子は誰に殺されたのか知っているか?そもそもとして、本当に殺されたのか?」
「……奇跡の末子なんて奴は知らない」
「あくまで可能性の一つだが、傲慢な人間。自分の思い通りにならないと癇癪起こす困ったちゃんに心当たりないか?」
「そんな人間山ほどいる」
「ふふ、違いない……っと、じゃあな処女っ子。最後まで自分の身体を大切に守れよ——【転移砲射出】急いでこの場から離脱しろ! なおかつ俺がゲロ吐かないように手加減しろ!」
一度だけまばたきをすると
ファティマはその場から消え去っていた。




