第1話 褒美のあとの
ーーサイド マキナーー
念願の身体を手に入れてはや十日。
期間は特に決められてないけどニーチェの例を見る限り自分から戻らない限りは定時報告さえしていれば大丈夫だ。
そして身体のあるアタシはどうやってアサシンバグに報告すればいいのかわからない。
奴の遣いが姿を見せないあたり無理に報告しなくてもいいのだろう。
時間は有限だから無駄には出来ない。
なのにアタシは……
「あ、焦げちゃった……クソ。タレ付けたあとは集中しないといけないのに」
焦げたお団子を隅に寄せて他のお団子に目を向ける。
三本同時は難しい……一本に集中しよ。
「あぁ。タレも無くなりかけてる。分量のメモは……」
アタシがツボに入ったタレを付け足していると声がかけられた。
「なぁなぁキレイな姉ちゃん。そのお団子要らないならくれよ〜」
「うるさい馬鹿!そこに置いてるって事はいらないって事ぐらい理解してよ!」
「わああい!ありがとうキレイなお姉ちゃん!」
「あ、待って!それ焦げてるお団子だから。反対側の予熱で暖めてるお団子を持っていって」
クソガキが……どうして焦げて味が落ちたお団子を持っていこうとするのかアタシは理解に苦しむ。
あたしはもう十日……もう十日もひたすらお団子を焼き続けている。
本当だったらロクシリーヌ母様にひたすら甘えて甘えて幸せを満喫している頃なのに!
アサシンバグがこんな屋台を持ってけって言うから!
でも母様はとても人見知りだ。
興奮したアタシなんかが急に母様に会っても不審に思われるだけ……しっかりと話す事を考えてから会う。
その為の時間としてお団子屋の屋台を貸してくれたのだろう。
今もお団子を焼きながら常に想像している。
『マキナ これからは ずっと一緒』
『はい!ロクシリーヌ母様とクリーヴァ義父様とアタシ!三人で幸せな家庭を築きましょう!』
……それなのに
「次私の順番なのに横入りしないで〜!」
「うるせー!早い者勝ちなんだよ!」
「ちょっと男子ー!ちゃんと順番守ってよ!」
クソガキ共がワラワラとお前たちは蜘蛛の子か。
それに日に日に増えていく。
アタシの考える時間が日に日に減っていく。
あぁもう!このお団子屋捨てたい!
ここまではなんとか持ち堪えてきたけどいい加減限界!
アサシンバグは嫌がらせでこの屋台を貸したんだ!
クソ野郎クソ野郎クソ野郎クソ野郎クソ野郎!
「……あー!もう!また焦がした!散れ散れ!今日はもう終わりだから帰れ帰れ!」
クソガキ共をしっしっと追い払う。
「ほらぁ。男子がお姉さんを怒らせるから〜」
「お、オレのせいかよ……お姉さんごめんなさい」
クソガキが頭を下げたところでアタシの時間は戻らない……焦げたお団子も戻らない。
「……材料がなくなっただけだから。明日はちゃんと美味しいお団子作るからまた来てね」
「うん!待ってる」
「ブレドリパごっこしよーぜー」
「わたし斬る役する〜」
「ざんかくざんかく〜!」
「ぜひもなし〜!」
クソガキ共の五月蝿いブレドリパごっこを耳に入れながら【みたらし】と書いてあるタレの調合に励む。
ちゃんと分量通り入れてるけど最初の時の味と違う。
よもぎを練り込む作業も大変だ。
手が使えるとこんなにも疲れるのか。
立っているとこんなにも疲れるのか……
「ふふ……楽しい」
どうしてアタシはこんな事も出来ずに死んでしまったのだろう。こんなに楽しい事を知らずに命を奪われなければならなかったのだろう……
クソガキ共は生命がある楽しさを知っているのだろうか?
無くなっても気付かない。
人はいつ気付くのだろうか
……愚かな人はいつになったら
「はぁ……!?」
遠目からでも理解出来る。
ロクシリーヌ母様だ。
大人の人間を連れてこちらに向かって歩いてくる。
真っ直ぐだ。他には目もくれずにアタシだけを見つめて歩いて来てくれている。
大丈夫。ちゃんと想定した。
母様から話しかけてきてもきちんと対応出来る。
百万通りは用意してる。
なんて話しかけられても大丈夫。
「 おい 」
「 あえ 」
「ここで お団子を貰えると 聞いて来た」
「 あ あ ああ ぁぃ 」
声が……でない。
隣にいた女性がアタシに声をかけた。
「ロクシィ様失礼します。代金は払いますのでお団子を十本いただけますか?」
その女性は母様に敬意を払っている様子を見るとたぶん従者なのだろう。
「お金なんか取ったことない。勝手に持っていって」
あ。ちゃんと声が出る。
アタシの言葉に母様はドヤァとした顔を見せてくれた。
「だから言ったでしょ? お団子は貰うもの お金ちゃんなんて 払わなくていいって」
ロクシリーヌ母様は隅に置いてあるお団子を引ったくるように掴んで去って行った。
あぁ、それ……焦げて冷めてるやつ
あんなの絶対美味しくない。
どうせなら焼き立ての美味しいお団子食べてほしかった。




