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第52話  食事事情


 ダロス王都に戻り貧民街へと足を運ぶ。

 貧民街には対した検査もないので許可証を持ってない私やブレドリパさんも楽に中に入る事が出来る。


「4日目ともなるが未だに大行列じゃのう」


 貧民街の開けた場所、この場所で炊き出しが行われていた。最初こそ今まで何処に潜んでいたのかと思うほどの大渋滞が起こっていたけど日中深夜問わず食事が振る舞われている事もあり人もまばら、


 それでも十数人ほどが列を作っている。


「しかしながらに本当に成長したもんじゃのう」

「あの子を知っているんですか?」


 ブレドリパさんがスープを注いでいる女の子に関心していた。あの子供が先導して貧民街の住人に食事を振る舞っているのだ。



「レイラの子娘じゃな。ワシの娘がいたく溺愛しとってのう。馬鹿娘のせいでしょうもない子に育ってしまわんかと心配じゃったんじゃよ」


「ブレドリパさんって沢山お子さんいそうですね」

「あ?……あぁ、おらんかったの」

「?」




「あぅぅ、ぴ、ぴぴーまん」

「あら?今日もピーマン沢山がいいんですの?貴方の為にわたくしの分のピーマンを残してましたのよ。ついでにキノコもどうぞ」


「あぐぅぅピーマンだけがいい……」

「好き嫌いはいけませんわよ!わたくしの分のピーマンとキノコをお食べなさい!」


「ありが……とう。ピーマン……ピーマン!」


 何処かで見たことある廃人にレイラは自分の分であろう食事(食べ残し)を与えていた。

 


 


 前日と同じように列に加わる。

 炊き出しにしては様々な具材の入ったスープを受け取る。

 その隣へ行き昨日も来た証明のスタンプを見せると焼きたてのパンを貰う。


 私達は初日から並んでいるので他にも果物を貰った。私達以外の人も全員が全員、連日訪れているので必然的に今回も満腹な昼飯を取る事が出来る。


 最後に広間の隅っこ、それでもそこで料理を食べる為に大勢の人達が腰を下ろしている。

 簡単な文章が書かれた本を地面に置いて。



「むかしむかしあるところに しょうねんがいました。

しょうねんのとなりには しょうじょがいました。

ふたりはとてもなかよしでした——次のページをめくって下さい」


 食事の時間に朗読している人がいる。貧民街の人達は黙ってそれを聞きながらも食事をしている。

 真面目に次のページをめくる人もいれば……やはりと言うか、今日も皆一様に真剣な眼差しで本を読み聞かせてもらっている。



 貧民街の人達全員が文字を読めないわけではない。

 それでもこの真剣さの理由は半分納得がいき、半分は納得がいかない。


 ブレドリパさんも一字一字照らし合わせるように本を見つめている。

 私は読めるのでゆっくりと読み上げる文章が退屈でもあり、代読師が読み上げる文章は心地よよくもある。



 代読師が本を読み終えるといつの間にか一緒に本を読んでいたレイラに頭を下げた。


「お疲れ様でしたわ。またお夕飯時もお願いしますわね。——コホン、皆さん、朝も言いましたけど明日はもち米が届きますから7時にこの場所に集合してほしいですわ」


 レイラがそう告げると木箱を開け始めた。

 中身は安物ではない一品物の時計だ。


「短い針が7を指したら朝の7時ですわよ。長い針の時は違いますから注意してほしいですわ」


 朝も聞いた説明を受けながら時計に目を向ける。


 私もブレドリパさんも同じ物を持っている。

 朝食後にレイラに同じ品を貰っているから。


 周りの人達も同様、無料で配られる価値ある物をわざわざ貰わない訳がない。


 だから今回は誰も取りに行かない。

 皆が時計を持っているのだから。



「えっと……無くした人がいましたら遠慮しなくていいですわよ」


 レイラの言葉に反応するかのように皆が懐から銀細工の時計を取り出した。

 嘘をついて二つ貰うような真似をする人間が誰一人としていない。


 それがおかしい。

 銀細工の時計などは売れば値段が絶対につく。

 それにこの時計は特別だ。


 自身の魔力を流す事により針を進める一般的な時計じゃない。

 


 極小の金属を噛み合わせる事により動かす事が出来る仕掛け時計。魔力を外に放出する事が出来ない富裕層の獣人が持っているのを見た事がある。

 

 北方大地に住む男が作った一品物……


 直接買い付けに行って売ってくれたとしても金貨10枚はくだらない。


 

 

 嵩張る物でもない。食料と同様に詰め込めるだけ詰め込むかと思っていたけど誰もそれをしない……



「あ、あの……家で寝たきりの兄弟に待って帰ってやりたいのですが……」


 みすぼらしい男が立ち上がりレイラに近寄った。

 

「まぁ……何人兄弟ですの?」


 レイラは疑う素振りもなく時計を二つ三つ掴み取り差し出した。


「え、えーっと……5人です……へへへ」

「大変ですわね……もう少し待っててほしいですわ」


 レイラの言っている意味はわからないが男の要求はすんなりと通り時計を5個受けとった。

 軽く頭を下げ、男の去り際



「ここで頑張らなくては貴方は先がありませんわよ。わたくしは明日急にいなくなったりしない」


「……はぁ?」



「その時計を売ってお金に換えてもいいですわ。でも貴方には一生後ろめたさが残りますわ……こんなに大変な場所で暮らしている人が誰もやらなかった事を……貴方だけが……貴方だけが前に進まないんですのよ」


「はっ!?テメェからやるって言っておいていざ貰ったら説教かよ!」


「……まだやり直せますから……皆さまも架空のご兄弟や家族がいるのなら言ってほしいですわ。でもそれは自分を裏切る行為と引き換えですわよ」



 レイラの言葉に自分もと続く人間はいなかった。



 レイラが何を見ているのか……

 なにが視えているのか……



 好奇心ではない。情報が得られるとも思わない。




 その後、私はレイラに簡単な手伝いぐらいをする仲になり、ブレドリパさんはある日突然姿を消した。



 程なくしてブレドリパさんがファティマという男に殺されたという噂が王都に蔓延した。




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