第36話 必要な物
「何度も言うけど来月中旬に初級試験があるから希望者は後で俺のところに来てくれ。このメンバーの中から合格者が出ることを願っている」
はげ頭が眩しい男。アーダン教官の有り難いお言葉で1日が締められる。
ついに来たか!しかし解せない事がある。ここの皆は初級に上がる為に塾に通っているのではないか?それなのに何故希望をとる?
考えるまでもなく忍者の世界でも希望を取っていたな。下忍試験。中忍試験。上忍選抜試験。ワシなど中忍になったのは25歳だったから己の力量に任せているのだろう。
教室を出る前にアーダンに近づく。
「教官殿、シノブヒイラギ試験を受ける!」
アーダンは冷めた目でこちらを見つめている。呆れた目つき。『何を言っているんだ?』と言う顔。無礼な奴だ。
「ヒイラギ……お前は出席日数足りないぞ」
「馬鹿を申すな!拙者はロックビーストとやらを討伐したではないか!このうつけ者が!」
アーダンはワシの怒号に怖がりながら説明してくれる。
「だからあの後念を押したよな?これから毎日来ればギリギリ試験を受けられるって。なんで出席率1割切ってんだよ。むしろ下がってるからな」
なんと言う口八丁!猪口才な奴よ!こんな事を言うアーダンは解決策を用意している。ワシの理解者ならばそこまで用意してなければ話しにならん!
「で?何をすればいい。またロック某を討伐すればよいのか?」
「……ぶっちゃけ金だよ。クラスから二人だけ、授業成績の良い奴は金貨3枚。普通の奴は金貨10枚。……レイラ様で……30枚必要だ。調べてないけどお前はそれ以上必要だよ。金ないだろ?受け付け期限もないし」
易癖する。金、金、金!教官として恥ずかしくないのか!
「教官以外の発言は認めない。見習いのクセにデカい口を叩くな!」
「何だと!貴様!」
「あ……あれ?何言ってんだ俺……と、とにかく本気で受けるなら金を工面してちゃんと学校に来い!」
………………
………………………………
「ジル殿は試験を受けるのか?」
「うん!タウロスが家の家賃と借金を肩代わりして待っててくれてるから今回はちゃんと準備できたわ!」
ワシの居候先……ジルの家はそれはそれは貧困であった。安い日銭を稼いでも稼いでも借金の返済に当てられまともな金を用意出来ずに試験すら受けられず3年。
病気の母親の面倒を観つつ……このような健気な娘から金を毟り取る愚か者……ワシが3年前に居たのなら借金取りの臓器を売りとばしてやったものを。
この世界に臓器売買があるかは甚だ疑問だが、
それにしてもタウロスの奴め……家賃は拙者が払っておるが、借金を工面していたか……知らぬ間に男になりおって、しかし自らの功績を他者に触れ回っては忍者失格!まだまだ忍者になる日は遠いな。
閃いた!この借金取りから金をいただこう。どうせ利息で儲けているのだろう。ワシが使ったほうが余程世の中の為だ。
……盗むか……命諸共奪うか……金の事なら奴に聞くか。
…………
……………………
「金ですか?いくらか知りませんけど俺が出しましょうか?」
開口1番問題が解決しそうになる。タウロスの懐の深さは天井知らずだな。しかしワシがそれに甘えてはいかん。
「気持ちだけ頂いておこう。タウロス殿は金貸しを殺す許可だけ出せば良い」
「そんな許可出せる訳ないでしょう!何言ってんですかこの人は!いくらですか?俺のポケットマネーから出しますから!」
レイラが金貨30枚……それ以上となると10倍…いや、多少多めに
「かたじけないな。金貨3千枚だ。タウロス殿の懐に感謝する」
「アンタ町でも買い取るのかよ!無理無理!お金は遊びの道具じゃないんですよ」
この男……ワシが恥を偲んで頼み込んだと言うのに……一笑に付すとは……
「シノブ様はお金が必要なんですの?」
レイラか……しかしこんな幼子は金など持っていないだろうし……やはり金貸し屋から強奪するのが手っ取り早い。
「メイデン!わたくしの……え……えと……8歳の時の誕生日プレゼントをシノブ様に差し上げて」
レイラの声と共にメイデンが現れた。両手には大事そうにしまわれた高価な箱。中には虹色に輝く指輪……ワシにはわからんが魔法具か?
「旦那様からレイラお嬢様に贈られた物です。売れば金貨5千枚はくだりません。どうぞお受け取りください」
5千枚の価値のある物をポンと手渡せる……タウロスの器が知れ、レイラの父親の計り知れない財力を垣間見る。
「あ……で…でも……でも……それは」
ワシが金剛石を見つめているとレイラがモジモジし始めた。……これ程の物を言う渡すとなると条件をつけるのは当然だな。無償で渡す奴の気が知れん。
「こ……こここ……こんッ、婚約指輪ですわ!」
……ワシはともかくレイラは結婚出来る歳ではないだろう。そもそもワシは乙女殿以外の女性と契りを結ぶ気はない。
「――――郎」
ワシが断ろうとする前に……あの女。メイデンの小さな呟きが確かに届いた。
「拙者は聞き間違いなどしないと自負しているが……何と言った?」
この女は……またしても……
「申し訳ありません。『ヒモ野郎』とつい口を滑らせ……本心を隠す事が……言い繕えませんね。決して悪い意味ではありませんのでご安心ください」




