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  ハイブリッド 


 私の故郷は貧しい北の村だった。両親は私の顔を見て少女と言う意味を込めてメイデンと名付けた。

 他にも処女や乙女と言った意味もある。


 凄い皮肉だ。Treeと言う名の家名も相まって吐き気がする。


 両親の期待とは裏腹に私は感情を表には出さなかった。5歳の頃から畑の仕事を手伝いつつ空いた時間は森に入り込む。


 危ないから入ってはいけないとキツく言われていたが、危ないのは大人が弱いからだ。危険が何かをわかっていないから侵入を制限する。


 同い年のアイシャを連れて森で遊んだり木の実を食べたり、この時間は幸せだった。


「メイデンちゃんは大きくなったら何になりたい?」


 なりたいものなどない。そんな身も蓋もない言い方をしてしまうとアイシャが泣いてしまうので私は考えた事がないと答えた。事実ではある。


「あたしは大きくなったら王子様に迎えに来てもらって暖かいお城で暮らすの!」


 こんな辺ぴな村に希望など持てないのだろう。アイシャは幼いながらわかっていた。


…………

……………………


 7歳になると世界中で恒例行事が行われた。


 魔法適正検査。人間の場合魔法が発動出来るのが最遅で7歳が理由だからだそうだ。

 適正の高い者は王国の兵として高待遇で迎え入れられる。そのために子供をこしらえる親もいる程に。


 私の両親はどうだったかのかはわからない。一度も魔法を使用しない私は適正が低いと思われていたのは確かだ。


 それでもGランク以外なら……Gランクを与えられたものは人間ではない。それを産んだ両親すら処罰される。



 適正により一喜一憂する親子。先にアイシャが魔法適正を調べられDランクだった。割合で言えば一番多い。一番まともな人間だと判断されたのだ。


 異常な私とは違う。



私の番になり名前を告げた。





「メイデン.トゥリー」


 無理だとわかっているが自分で選べるのなら……Dランクがほしい。もっとも多い平均ランク。可もなく不可もなく。目立たない。


 そんな願望は抱くだけ無駄だとわかっていた。



 わかりきった答えを出す。


 甲冑に身を纏った兵士が驚きの声をあげた。


「う……嘘だろ?適正……S……ちょ、ちょっと待て!もう一度だ!」


 何度調べようと結果は変わらない。私は生まれた瞬間。その前から最高適正が与えられる運命だった。


『4人目の魔法適正Sだ!この国にも魔法適正Sが生まれたぞー!』


   吐き気がする


 私の適正Sを1番喜んだのは両親だった。名前ももう覚えてない。無駄だからだ。

 両親には私を引き取る為に大金が支払われた。一生遊んで暮らせる額。私を抱きしめながら泣いていた。醜い濁った泣き顔。


 私は最後の願いとしてアイシャの家庭にも金を分けてあげてほしいと頼んだ。この辺ぴな村から出られるように……アイシャの家庭に金を恵んでも金には困らない。


 足りなくなれば国が金を支払うと保証したのだから。その時の両親の顔は今でも憶えている。



「メイデンちゃん!お城に行ってもあたしのこと忘れないでね!」


 忘れない。絶対に忘れない。私の唯一の友達。


…………

……………………


 王国の教育を受ける。くだらない。魔法の使い方。効率の良い魔法。国の為の魔法。くだらない。


 私がここにいるのはアイシャのためだ。アイシャが大人になって自分で未来を切り開ける年齢に達したら……国には仕えない。私も自由に……生きよう。


 私は適正Sに恥じない優等生を演じた。無駄な事は、一切やらない。周りが喜ぶ結果だけを出し続ける。


…………

……………………


 


 私が10歳になる頃に国がざわつき始めた。


 遥か北方で封印石が破壊されたと。



 封印石。悪魔を封印した石。悪魔の像のようにわかりやすい物もあれば道端の石ころのようにわからない物もある。時間が経過するか、破壊されるかで封印された悪魔が復活される。


 悪魔は魔物を生み出し人間に被害をもたらす。人間の悲鳴が悪魔を強くし、更なる魔物を生み出し……何より


 悪魔は殺せない。歴史上一度も殲滅できていない。魔法を駆使し悪魔を弱らせ封印するのがやっと。



 胸騒ぎを感じた。北方……詳しい場所はわからないが私の故郷が北に存在している。両親はその場所にはいないと思う。アイシャも暖かい地域に移り住んでいるはずだ。


 私も悪魔封印に志願したが若いと言う理由だけで却下された。万が一にも適正Sを失いたくないのだろう。


 1週間後。王国部隊が壊滅したと連絡が入る。国が出した結論は、悪魔封印は諦め、名も無き冒険者に任せる。……放置だった。



 私は王国を抜け出し故郷へと戻った。悪魔が出現したのが故郷でなければそれでいい。故郷であっても……アイシャさえ無事ならばそれで……良かった。



…………

…………………………


 嗅ぎなれない死臭。寒さからか腐敗化は進んではいなかった。


「あれが……悪魔」


 死体の山に座るコウモリの羽根を生やした人型。滴るヨダレから魔物が産み落とされている。アイシャの亡骸を糧として……


『また……エサが来たか……我の糧となれ』


 悪魔は喋るのか……意思疎通ができるのなら、


「そこの死た……アイシャ……彼女……から……離れ……」


 呂律が上手く回らない。願いなど叶えられた事はない。私は……頑張っても全部無駄なのだ。


   この世界に希望などない。

 最高峰の人材、魔法適正Sなど何の役にも立たない。


 瞳を落とし世界を変える。今の私はメイデン.トゥリーではない。


 遥か昔に与えられた名前を行使する。

魔法などでは到底及ばない。悪鬼を払う退魔の名


「――出現して早々申し訳ありませんが……私の魂名に従いこの世界から悪魔(あなた)を滅します。ですが、八つ当たりですので抵抗されて構いませんよ」


 悪魔は私を見てニヤけた笑みを浮かべた死体の山に居座ったまま産まれたばかりの魔物達をけしかける。



 面倒だ。早く終わらせよう。今の私は観察する程冷静ではない。この世界にそれを咎めるムカつく爺もいない。




 音速を超えて悪魔の背後を取り頭を掴む。握り潰すのは頭ではなく魂。


 ミシミシと不快な音をたてながら悪魔の顔が醜く崩れていく。


「……柊乙女。私の名を地獄で語りなさい。アナタの仲間が沢山いるはずですから」  



 魂を潰した瞬間、悪魔は砂埃と化し風に攫われた。




悪魔を素手で殺した少女。史上初の悪魔の殲滅を成したのは僅か10歳の少女。


メイデン.トゥリーの名は世界中に広まった。

 




ジル&アイシャのおまけと感謝


「ブクマしてくれた読者様ありがとうございます。今回は1話だけ登場のアイシャちゃんに来てもらいました」


「皆様初めまして。メイデンちゃんの過去話しは、ちょっと暗いけど楽しんでもらえたら嬉しいです」


「メイデンにも友達がいたのね。アイシャちゃんが生きてたら少しはまともだったのかしら?」


「メイデンちゃんは今も変わってないよ。あたしと同い年なのにいつも私の面倒を見てくれてお姉さんみたいな人だったの!」


「……子供が好きなのかしら?」


「いつもあたしの心配してくれて森でお医者さんごっこしたり、お風呂の時間になると毎日遊びに来てくれてたの!」


「…………ん?」


「でもメイデンちゃんはいつも鼻血出してたからあたしは心配だったなぁ〜」


「昔からアイツ変態だったのかよ!」


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