第33話 二人仲良く
温泉は地獄より吹き出し天へと帰す神秘の水として有名だ。ミシェルの祖父が探しているのは知っているが、この世界でも温泉が湧いているのは正直感動すら覚える。
山奥の実家ではいくら探してもなかったからな。
「天にも昇る心地良さ。前世ですらこのまま時間が止まれと何度願った事か……」
魔法は興味深い。ワシも使えるのなら風呂に浸かったまま時間を止める魔法を使用してみたいものだな。
しかし護衛の仕事もある。あまり長風呂はできんな。名残惜しいがそろそろ出るか……
あと10秒………………肩までしっかり浸かってないな。もう10秒追加…………ワシとしたことが、少し数えるのが早い気がする。もう10秒。あと―――。
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「……マイスト殿か?」
「あれ?ヒイラギ様ですかい!まだ風呂入ってんですかい?なんでまた隅っこの小さな風呂に」
ワシが10秒数え終わり風呂からあがる寸前!護衛のマイストが入ってきた。
マイストに挨拶もなく湯からあがる訳にはいかんな。
大浴場の隅にポツンとある小さな湯。ワシは少しだけ隅に移動する。マイストは頭をポリポリと掻きながら意図を察したようだった。
「あ〜……じゃあ隣良いですかい?」
「仕方のない奴め。裸の付き合いといこうか」
来てすぐに湯から出ても失礼極まっているからな。ワシはもう堪能したがマイストの頼み故に少しだけ長風呂をする事にするか。
「ヒイラギ様っていつもクールですね。なんでですか?」
「常に心の鍛錬を欠かしておらんからな」
隣で湯を堪能するマイストは絶え間なくワシに喋りかけてくる。これも湯船の魔力。身も心も解放された空間は人を堕落させる。
「へ〜……オレにも出来る鍛錬とかあるんですか?オレ結構土壇場に弱いんですよね〜」
「致命的ではないか!土壇場で強くなる為の心の鍛錬……昔から伝わる鍛錬をやってみるか?」
ワシの提案に頷くマイスト。歳は20ぐらい……年下のワシの言う事を聞ける度量の広さは持ち合わせているか。
「心を荒立てるなよ……ワシが許可するまで湯から上がるな」
「あ……ええ、わかりやしたぜ」
…………
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「あ、熱い……もう1時間ですぜ、ヒイラギ様……まだですかい?」
「……マイスト殿の魔法でなんとかならんのか?湯から出なければ何をしても良いぞ……湯の温度は下げるなよ」
「え!?んじぁヒール!」
マイストは意気揚々と自分に回復魔法をかけた。熱された皮膚を優しい光が包み込んでいく。
「魔力の膜を張るのも有りですかい?」
「無論だ。知恵と機転を利かせこの鍛錬を乗り越えるのだ。」
「いやいや〜これなら熱くもなんともないから魔力が持つ限り入ってられますよ〜。5時間ぐらい行けますよ」
頼もしい言葉だ。まだ鍛錬は始まってすらいないと言うのに
…………
………………
〜〜マイスト編〜〜
ヒイラギ様の変な鍛錬は何の意味がある?魔力を使い続ける事が心の鍛錬になるのは確かだ。しかし風呂でやる事ではないし……そろそろ
「ヒイラギ様……そろそろ上がらないと屋敷のメイド連中が入る時間ですよ」
「……ここからが本番だ。彼奴等に気付かれぬよう気配を消せ。再度言うが心を荒立てるなよ」
この男……覗く気か!?屋敷に男は5人いるが覗く気もなければ話題にも上がらない。万が一バレたら……違う。十中八九バレる……メイデンに……
しかし湯から上がれば隣の青年。ヒイラギ様が殺すと目で語っている。オレは……死地に足を踏み入れていたのか?
とにかくバレないように最善を尽くす。オレの魔法全てをこの窮地で使い切る!
「ディープミスト!ディープミスト!チェンジビジョン!もういっちょディープミスト!」
風呂場を深い霧で覆う。細心の注意を払い火属性も追加して湯気の霧。これでオレ達の姿は視えない筈。
更に万一目を向けられてもオレの姿は背景に擬態している。動かない限りバレない!完璧だ!
複数の女性の声が聴こえてくる。屋敷で何度も顔を合わせているので当然声も聴いている。しかし……風呂場で聞く声は……何処か妖艶で……艶かしく……
「マイスト殿……心を乱すなよ」
ヒイラギ様に注意を受けた。なんで覗きを誘っといて本人が目を瞑っでやがる。ディープミストのおかげかアチラからもコチラからも影も形も視えない。
「……大丈夫……凌げる」
………………
その後、女性陣たちの声をどきマギしながら聞き流しこの窮地を終えた。悪口も聞いたしオレに惚れてくれる女性もいた。全く気づかなかった……
オレは……多分一皮向けたと思う。
「マイスト殿、良く耐えたな。この鍛錬はセンスが問われる。拙者の師匠などこの鍛錬で何度も死にかけておる」
声には出せないがヒイラギ様の師匠は変態なんだな。
「もうあがっていいぞ。そろそろ拙者もあがろう」
ようやく鍛錬が終わった。正直二度とヒイラギ様の鍛錬はしないと決めた……たまにしかしない!絶好調の時しかしない!
オレが浴槽から出ようとすると入り口が音も無く開きバスタオル1枚で身を包み、艶のある黒髪を掻きあげながら一人の女性が一直線にこちらに向かって来た。
「………………」「……………………」
オレもヒイラギ様も声が出ない。出してはいけない。バレてないバレてない。殺される殺される殺される!
目の前でこちらを見下す女性……
メイデン.カーターに殺される!
シノブ&ジルのおまけと感謝
「ブクマしてくれた読者様ありがとうございます!早速だけどシノブ君!覗きは犯罪よ!女の敵よ!」
「バレて捕まらなければ犯罪ではないだろう。故に拙者は一度も犯罪など犯してはいない」
「屁理屈にもなってないわよ!……ひょっとして私がお風呂入ってた時も……覗いてたの?」
「ジル殿の風呂場は狭いのでな。拙者には無理だ」
「そ……そうなんだ……良かった」
「自分さえ良ければ他人がどうなろうと構わん、という思考は如何な物か?」
「そ、そうよね。ごめんなさい」
「フフ、道を踏み外しても拙者がその都度導いてやろう」
「あんまり調子乗るな!覗き野郎!」




