第32話 もっとも強い盾
「動かずに……倒すだと?ちょっとオレを舐め過ぎてねぇですかい?」
「舐めておらんから早く来い……ん、いや、少し待て」
壁に立てかけた槍を手に取り間合いに近付こうとするタウロスの護衛マイスト。
「レイラ殿タウロス殿、こちらへ来てくれるか?」
シノブがマイストに静止を促しカーター家の二人を呼び寄せる。何事かと思いシノブの前に近付くと優しく肩に手を置かれた。
レイラは頬を染めタウロスは反対に顔を青ざめさせた。
「動くなよマイスト殿、一歩でも動けば二人の首を捩じ切る」
「なっ!?お前……」
「シノブ様!?」「ヒイラギさん!?た……助けて」
二人の肩に置かれた手に力はこもっていない。力が込められているのは言葉。広間にいた全員が理解してしまった。動いたら本当に殺されると。
「何故拙者が賊だとは思わない?この状況下で二人の命を救えるのはお前だけだ。理解したのなら武器を捨て両膝を付き、両手を頭の後ろで組め」
マイストは震える身体をなんとか動かしタウロスの顔を見た。自分の護衛対象。タウロスは青ざめさせたままシノブとマイストを涙目で交互に見ている。
「……マジかよ……お前卑怯」
「これが教授でなければ今の一言でタウロス殿を殺している。人質は二人も要らんからな」
マイストは大人しく槍を地面に投げ捨てた。
「その愚かな選択でタウロス殿とレイラ殿は死んだぞ」
マイストが地面に倒れ伏した。投げ捨てられた槍がなく、見上げるとシノブが自分の槍を手に持っていた。
「マイスト殿も護衛を生業とするのなら人質を取られた時の対策をしておけ。お主が死ねば屋敷内の住人が全滅するまで覚悟して事に挑め。拙者が間者の可能性もあるのだ。護る者以外信用するな」
「……あぁ」
力なく項垂れたマイスト。タウロスの護衛を務めて2年になるが差し迫った危機などありはしなかった。
シノブが侵入してきた時だけ。その時でさえ味方を傷つけた事に我を忘れタウロスを守る事を疎かにしてしまっていた。
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重苦しい雰囲気を破るようにタウロスが言葉をあげる
「ヒ……ヒイラギさんならどうするんですか?レイラが人質に取られたら……『拙者はそんな後手は踏まん!』とかは無しで」
「……状況にもよるがレイラ殿、諸共突き貫く」
「え?シノブ様はわたくしを護ってくださいませんの?」
「レイラ殿の急所は外し相手の息の根を止める部位を狙う。こちらの落ち度だが二人共死ぬよりマシだろう。人質を取って勝ち誇る輩など大抵隙きだらけだ」
ワシも敢えて隙きを晒したがマイストは攻めて来なかった。万が一を恐れたのだ。ワシと違い回復魔法が使えるのだから余程上手く事を運べるというのに……
しかし……流石にこの風習は賛同されんだろうな。人質を取られたら無傷で帰す事がこの世界では美徳とされている。
不安な表情を見せるレイラの頭に手をおいた。
「そのような事をさせぬ為にマイスト殿と……メイデン殿はいるのだろう。二人は万が一の為に心の準備だけしていればいい」
今回は一切の危害を加えないと約束したのでレイラに傷でも作ろうものなら命をもって詫びるしかないな。
「……ハイですわ!わたくしシノブ様とメイデンを信じてますわ!」
「お、俺も信じてます!」
レイラとタウロスが笑顔で顔をあげたが、タウロスにはデコピン一発。こいつが戦犯だ!
「ギャァァアアア!!痛いーー!痛い痛い痛い!」
タウロスはうめき声をあげながらその場で転げ回っている
「タウロス殿……人質に取られた時に言ってはならん言葉がある…わかるか?」
「痛い〜〜!」
「違う!この馬鹿者が!『助けて』などと口に出すな!目で語れ!『間者を殺して俺を助けろ』と!お前の一言がマイスト殿の選択肢を潰したのだ!」
額を押さえて蹲るタウロス。いかん。熱くなってしまったな。説教は1分以内。大事な事だけを伝える事に注意するべきだったが……まあ、タウロスだからいいか。
熱くなった心を鎮める方法など……アレしかあるまい!
「これにて拙者は失礼仕る」
「え?シノブ様の……どちらに?」
「安心しろ!レイラ殿の気配は常に感じておる。賊が門を潜った瞬間クビリ殺してくれるわ!」
「ですから…どちらに?」
「 風呂だ! 」
だだっ広いレイラの屋敷の中で唯一と言っていい程ワシの心を揺さぶっていた場所。
広い空間に流れ続ける源泉。
「一目見た瞬間から感じておった!」
間違いなく温泉!しかもKAKENAGASHI!!今日はまだメイデンもおるし存分に堪能させてもらうとするか。
ジル&メイデンのおまけと感謝
「ブクマしてくれた読者様ありがとうございます。最近おまけが板についてきたメイデンとおまけしか出来ないジル様でお送りします」
「……メイデン、貴女ならレイラちゃんが人質に取られたらどうするの?当然首を差し出して死んでくれるの?」
「……は?お嬢様の首ごと賊を跳ね飛ばしますよ。魔法適正Sだから死者蘇生ぐらいできるんでしょう?」
「なんで疑問系なのよ……失敗したらどうするのよ」
「その時は私の首を落としてお嬢様の首を装着します。私はお嬢様のボディへ……100年ぐらい棺桶の中で馴染ませるとしますか。実に奇妙な関係ですね」
「ごめん……ネタかどうかもわからないけど、サイコパス系は止めよう」
「出番のないジルチェンは船のスクリューシャフトを無理矢理止めててください」
「貴女……いくらなんでも自由すぎでしょ」




