第30話 試し斬り
刃物を持った経験がある者なら例外なく抱く感情がある。刃物もその為に存在し担い手もその為に刃をふるう。どれほどの切れ味なのか……
試したい!
「……隠密」
ポツリと1言もらす。目の前にはしなかやかな筋肉を持つ良馬。名を隠密。
「シノブ様!ポリポリを斬っちゃ、いやですわ」
「……試し斬りを観たいと言ったのはレイラ殿であろう?」
馬の前に立ちはだかるレイラ。世話は別の人物がしているのだろうがレイラにも馬に対する愛着は存在していた。
しかし目の前の馬はポリポリではなくプリプリだ。
ワシとて馬は斬りたくはない。試し斬りはならば藁か青竹で十分だ。
「他の…あ!…お兄様!お兄様なら切って構いませんわ!適任ですわ!」
「だ、そうだ。タウロス殿……この刀の錆びとなるか?」
「……流石に冗談でしょう?」
冷や汗を流すタウロスの目の前で腰を落とし柄に手をかけ 息を溜める。
「動けば斬る。拙者は見逃さんぞ」
「…………………………」
タウロスは微動だにしない。瞬き1つせずに視点すらも動かさない。ここまで動かんのは前世でもコケシぐらいだ。生存本能に秀でたコケシ男タウロス。見所がある!
金縛りにあったタウロスを見つめること20秒。動けば斬ると言った手前……これは無理だな。
腰をあげ 柄から手を離す。
「冗談はさておき、貰ってよいのか?」
「どうせなら貸イチ、と、しましょうか」
メイデンに貸しか、悪い話しだな。後日何をふっかけられるか、わかったものではない。
脇差しをメイデンに手渡すとキョトンとした顔をこちらに向けた。
「要らないのですか?」
「メイデン殿の貸しは高く付きそうなのでな。本命の短刀を入手する事に専念させてもらおう」
ワシの拒否の言葉に頬を膨らませた人物がいた。
「メイデン!貴女はなんでイジワルするんですの!?……シノブ様!わたくしとその……タントーを買いに行きましょう!で……デ、デートですわ!」
レイラがワシの腕にしがみつきグイグイと引っ張る。メイデンは頭を下げながら
「奥方様から仕事が入りました。私は数日この町を離れなければなりません。」
レイラの足がピタリと止まった。反応に値する言葉が含まれていたのだ。
「ですのでその間ヒイラギ様にお嬢様の面ど……危険がないか見ていただきたかったのですが……仕方ありませんね。奥方様にはお断りの報告をさせていただきます」
「え……あ……あ…お待ちになって…えと……」
レイラは動揺しながらこちらの顔を覗き込んだ。レイラとしてもお願いしたいのだろうが、こちらの受諾無しに話しは進められない。
「そのぐらいで貸し借りなしなら安い物だ。暫くの間、レイラ殿に一切の危害はないと約束しよう」
護衛か……影武者と同様一瞬も気が抜けぬ一人前の忍者にしか出来ぬ仕事。
「では今日からお願いします。私は明後日から出発して早ければ一週間以内に戻りますので」
今日から?……また急な話しだ。
………
………………
屋敷の中を改めて見て回る。おおよそは把握しているが……まずは逃走経路の確保と迎撃場所の適所。
逃走経路は十分にあるな。迎撃場所は庭か、広間……レイラの護衛なので迎撃は最低限。その時点で愚策。
屋敷の住人は全員で30人。タウロスも含め全員がレイラの命を狙う裏切り者と仮定しておく。
「……メイデン殿」
返事はない。彼女はレイラについている。ワシの声は届いたとしても姿を見せる気はないと言うことか。
「賊が来る可能性はあるのか?それによって拙者も警戒をあげる」
返事はやはりない。
「………………わからんな」
「シノブ様〜準備できましたわよ〜!」
屋敷内をパタパタと走り回る少女。レイラが腕を引っ張り裏庭へと案内してくれる。
…………
……………………
「本当に生き物じゃなくてよろしいんですの?お兄様は斬られたがってますわよ」
タウロスに視線を送った瞬間、ピクリとも動かなくなる。動いたら死ぬと本能で察したのだろう。
「間合いと切れ味の確認なのでな。巻藁があれば事足りる。」
目の前には高さ1.5メートルの藁の束。欲を言えばTATAMIを斬りたくもあるがこれで十分だろう。
「レイラ殿、拙者の後ろに、タウロス殿も……邪魔だ」
二人を後ろに下がらせ腰に据えた刀に手をかける。重心が僅かに傾むく。鍛錬が足りん証拠だ。
刀を抜き視えぬ刃に水を浸すと薄っすらと刃紋が浮かび上がった。
小さな吐息が聴こえた。シノブが手にかけていた刀はいつの間にか巻藁の頂点に浮遊している。
しかし滴る水滴から斜めに突き刺されていることがわかる。巻藁を人間と仮定した場合、頭上から心臓にかけて……
「……難しい物だな」
正直使い物にならん。動かない物ならば細切れに出来そうだが……動く相手となると……刃がモタない。視えぬ刃など、どうやって研磨すればよいのかもわからん。
ワシにはまだ早すぎる。鍛錬に費やす時間がまた増やせるな。
「しかしなんとも……面白い刀だ。一癖ある武器は先代様が好きだったな」
巻藁から刀を引き抜き鞘に収める。澄んだ音が裏庭に響くと同時に、突き刺された巻藁はその場で八つに別れ崩れ落ちた。
ジル&メイデンのおまけと感謝
「ブクマしてくれた読者様!評価してくれた読者様!本当にありがとうございます!」
「シノブヒイラギハ マケンヲ テニイレタ」
「なんでカタコトなのよ。読み辛いからやめなさい」
「魔剣を使う者は不幸がその身を襲います。いくらヒイラギ様といえど例外はありません」
「あんまり持つ人いないよね。珍しいし持つだけで魔力吸われちゃうし」
「元から魔力がないヒイラギ様はその点は適合者ですね。ですがもう一つの不幸は払えませんよ」
「な……なに?まさか魂まで吸い取っちゃうの?」
「研ぐのにお金がかかり過ぎます。魔力量が多い鍛冶師をわざわざ雇って視えない刃……しかも刀。難易度は一級です。少なくとも一回の研磨で金貨10枚は取られることでしょうね」
「相場は銀貨5枚でしょ!?200倍じゃない!そりゃ観賞用になるわよ」




