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第26話 退魔一閃


 レイラとミシェルの目の前に現れたロックビースト。体長4メートルを超え体中から鉱石を纏った魔狼。


「報告と同じ大きさ……タイラーさんとシノブさんは……」


 ミシェルは身構える前に最悪の想像をした。先に入った二人の安否。そして目の前に訪れた魔物。


「レイラちゃん逃げよう!」


 レイラの返事も聞かずに手を取り入り口まで一目散に走る。追いつかれるかもしれない。しかし逃げなければなにもできず蹂躙されるだけ。


 一瞬だけミシェルは後ろを振り返った。ロックビーストの姿はない。だが安堵などできない。再び煙を纏った空気を僅かに息を吸い込み前を向いた瞬間。


ロックビーストが目の前で大口を開けて迫っていた。


「ひっ!?」


 僅かな悲鳴とともにレイラを突き飛ばし、短剣をロックビーストの眉間に突き刺すが、短剣は立てて崩れ落ちた。


 剣は鉱物を切る為に存在していない。用途を間違えている。間違えた結果は剣が死に絶えるという当然の結末。


多少驚いたロックビーストはミシェルを突き飛ばし壁に叩きつけた。


「キャア!  ゲハァ……ハァ……痛い……痛い」


 胃液を血液を混ぜ合わせた物を吐きながらも、砕けた短剣を握りしめロックビーストを見据えるミシェル。諦めない。自分にはやることがある。

 

「レイラちゃん……早く……逃げて」


 朧気な視界でレイラの安否を気にしている。レイラがカーター家の実子だから守らなければならない訳ではない。小さな女の子一人守れずに魔法使いなど名乗れない。

 ミシェル.ガーソンの小さな意地。固い決意。


 レイラは逃げるどころか口から血を流すミシェルに駆け寄り背中を優しく擦っている。


 真後ろに存在している魔物には気にも止めていない。

レイラにはわかっている。自分の身分が。町の人々は同じカーターの家名を名乗っているタウロスとメイデンには様付けをしないこと。


 そして自分には様付けで敬われていることを。だからこそレイラは魔法学校の人達を気に入っていた。多少の気遣いは感じつつも馴れ馴れしく接してくれる友人達。


 だからこそシノブが来ない日もレイラは学校に通っていた。友人がいたから。


 その友人が傷つけられた。


「…………メイデン!」


 レイラは怒りと共に彼女の名前を呼ぶ。気配などどこにもなかった。誰にも、魔物ですら感知出来ない存在をようやく発見する。


 いつの間にかレイラの隣に立つ黒を基調としたメイド服に身をまとう女性。


「お呼びですか?」


「ミシェルが怪我をしましたわ!なんで助けないんですの!」


「……お嬢様には危害がないと判断しました。ご安心ください。お嬢様には傷一つ――」


 メイデンの言葉を遮るように頬に衝撃が走った。

そっと頬を押さえ衝撃を与えた主レイラに頭を下げる。


「貴女には何度言っても無駄ですわよね!もう下がってなさい!」


「…………畏まりました」


 メイデンは頬を押さえながらゆっくりと出口へと歩き始めた。その間にメイデンとロックビーストの視線が混じり合った。



「2秒間です」


 メイデンが一歩足を踏み出すと同時にロックビーストは2歩、後退(あとずさ)った。


「魔物如きがお嬢様と目をあわせた時間。」


 更に1歩前に踏み出す。ロックビーストは眼を見据えたまま動くことが出来なくなっていた。


「身の程を知らぬ愚物は 死んでしまいなさい 」



 メイデンは腰を落とし折れた短剣を拾い上げ、瞬時にロックビーストが天井に張り付き一目散に逃げ出そうとし


   拾った短剣を落とす。

 半月を描きながら短剣が大地に突き刺さった。



「恐怖を感じるのが遅すぎますね。その愚鈍な機能を磨いて磨いて研ぎ澄ませて」



  大地に血が染み込んでいる。

 短剣の刃が血に染まっている。



 突如全く別の場所から土の混じった血飛沫があがり。天井に張り付いたロックビーストは断末魔一つ上げずに真っ二つに割れて崩れ落ち、メイデンは血のついた短剣に一瞥もくれず


「来世では人目につく事なく臆病にひっそりと生きる事をオススメします」


 闇に溶けるように姿を消した。




…………

…………………………



「タイラー殿、毒はどれぐらい吸い込んだ?」


「正直わかんねぇよ。今は何ともないけど遅効性の魔法具か?」


 シノブとタイラーは鉱山の更に奥へと入り込んでいた。一度対峙したロックビーストを撒くことには成功し再び討伐する為の手筈を整えている。


「魔法具などではない。拙者の手作りの一品物で速効性だ。赤子なら2呼吸で死ぬが成人ならば2、3日は目覚めない程度だ。今何ともないのなら平気だろう」


「う…マジか?そんな危ないのをポンポン投げるなよ。念の為に…………キュア!」


 タイラーの言葉に呼応し薄暗い鉱山に光が灯り一瞬で消え去っていく。自身の毒素を除外する魔法。タイラー自身得意ではないが出来ないことはない。


「さて……体調に問題ないなら拙者は行くぞ」


「あのさ、やっぱり二人で……いや、逃げたほうが良くないか?俺達みたいな見習いじゃ無理だったんだよ」


 シノブが立ち上がるとタイラーは顔を伏せた。ロックビースト相手に歯が立たなかった。元から危険な魔物だとの情報は得ていたが、それでも…………


「シノブには言った事無いけどさ、俺ゴブリンの巣に入って死にかけたんだよ。ニコラって名前の多分冒険者……暇人が助けてくれなかったら……俺は魔物相手じゃ何も出来ない」


「タイラー殿。初めから強い人間はいない。大事なのは如何に折れぬ心を持つかだ。存分に剣を振るえ。拙者が援護してやる」


 シノブはタイラーに背を向け奥へと去って行った。残されたタイラーは剣を取り刃を眺めながら決意を込める。


「俺は……上級魔法使いになる……こんな相手は通過点のはずだ!」

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