第25話 岩獣
ブクマしてくれた読者様ありがとうございます。今回と次回のおまけはお休みします。
ロックビーストを討伐しに鉱山の中へ入ったのは2人。ワシとタイラー。タイラーが2歩分先頭で剣を掲げながら注意深く前に進んでいく。
「便利な物だな。剣先が松明代わりか」
「いや……流石にこれぐらいはシノブでもあるできるだろ?適正Cだっけ?どれくらい時間がかかるんだ?」
「準備をして5秒ぐらいか」
火種の用意、火打ち石有りでの話しだ。キリモミ式では2分はかかる。魔法適正Aのタイラーは1言発し指を鳴らすだけで軽々と火を扱える。
「十分速いな。シノブは火の魔法が得意なんだな」
「火遁は加減が難しいからな」
タイラーは焼け死なぬにしてもこんな場所では酸欠で死にかねない。もっとも、タフな男タイラーならばなんとかして生き延びる気もする。
「レイラお嬢はともかくミシェルは連れてきても良かったんじゃないか?」
「レイラ殿は一人にしておくとフラフラ動くのでな。ミシェル殿は己を弁えた素晴らしい人間だ。彼女が後方に控えているだけで我等も安心して探索できるというもの」
鉱山に入って30分。ロックビーストの目撃証言があった場所。暗くてわからないが渇いた血のニオイがワシの鼻につく。
舌なめずりをする獣の匂いが感にさわる。
「……いるよな?何処だ?」
タイラーも異質なニオイに耐えながらも炎の灯った剣を掲げ続ける。しかし照らされた先は腐った死骸と血を啜った大地。
「…………天井だ。報告よりも大きいな」
ワシの言葉に咄嗟にタイラーが天井を見上げ生唾を飲み込んだ。
洞窟の天井に四肢を貼り付け全身から鉱石を纏った狼の魔物。ロックビースト。
タイラーと目があった魔物は天井を砕き、加速と重力を味方につけタイラーの喉元に迫り
「な……めんな!」
炎を纏った炎剣がロックビーストの牙をいなし、返す刃で両断するように頭部に渾身の一撃を叩き込む。
鈍い音が鉱山内に響いた。タイラーの一撃はロックビーストの鉱肌に弾かれ手の痺れに僅かに顔を歪めた。
「 水遁 浸透勁 」
シノブが一瞬の隙をつきロックビーストの背中を取る。掌を鉱肌に押し当て呼吸と共に体内から気を吐き出した。
体内の水分を掻き回されたロックビーストの岩肌が剥がれ落ち、口からボロボロと土塊を吐き出し唸り声をあげた。
「……浅いか?」
「シノブ!速く背中から降りろ!ロックビーストは触れると――――」
タイラーが全てを言い終えるよりも速くロックビーストは全身から張り付いた岩を辺り一帯無差別に弾き飛ばした。
「ガードシールド!」
一瞬で消えたシノブに驚きもしたが、今は自分の身に危険が迫っている。タイラーは両手を前に突き出し魔法壁を繰り出し大小無数の岩撃を防いでいる。
「流石はタイラー殿だ。情報は確保した。ここは一度引くぞ。策を練ってアイツを殺す」
「う……後ろにいたのか!?でもどうやって逃げるんだ?」
「毒を投げ込む。人間の捕縛用なので獣には効かんが足止めはできる。5秒後に目と鼻と口と耳を塞げ。皮膚も塞げ」
「無理だし多すぎだろ!……ひょっとしてもう投げた?」
「3……2……1……」
タイラーの問いに答えずシノブは静かに数を数え始めた。
シノブがカウントダウンを終えると鉱山内に紫色の毒々しい煙が充満し始める。
タイラーは剣を収め、口と鼻を片手で覆い、全身を守るように魔力の膜を纒った。シノブがタイラーの腕を掴み一瞬でその場を離脱する。
その際……ロックビーストは新たな鉱肌を体に纏っていた。
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「う〜〜!まだですの!?わたくし心配ですわ」
「レイラちゃん。タイラーさんとシノブさんは大丈夫だから一緒に待ってよ。」
鉱山の入り口でレイラとがウロウロしながら不機嫌に唸っている。それをあやすようにミシェルがなだめているが、限界も近い。
レイラはワガママを許されたお嬢様だ。今までも両親に関する事意外全ての願いを叶えてきた。いくら慕っているシノブの声でも1時間も待てば我慢ができなくなる。
「もう待てませんわ!わたくしも行きますわ!」
「あ…待って……」
ミシェルの静止も聞かずにレイラは臆することなく鉱山内へと入っていった。ミシェルは何度か深呼吸をして
「わ…私も行くから一緒に行こ!」
女性陣も魔物がいる危険地帯に踏み込んだ。
…………
……………………
「……止まってレイラちゃん。なにか煙が……吐き気とかしてない?」
「ん〜、大丈夫ですわ!」
「ちょっと待っててね。……キュア」
ミシェルがレイラの口元に手を当てた瞬間優しい光がレイラを優しく包み込んだ。毒素を取り除く魔法。ミシェルが得意としている回復魔法の一種。
「ありがとうですわ!」
レイラの表情は明るくミシェルの顔色は優れない。煙に当てられた訳ではない。ミシェルは回復だけしか出来ない。武器も頼りない短剣が1本だけ。
この状態で……
「わ…私が…守らなきゃ……レイラちゃんを守らなきゃ」
ミシェルの決意に呼応したかのように、煙から逃げ出すように、或いは若い脆弱な獲物を狩る為に、くぐもった唸りをあげながら、ロックビーストが姿を現した。




