第21話 憧れの人
メイデンが会釈と共に姿を消した。気配は僅かに残している。今も見ている。探そうとしても無理だ。それにあの女には用はない。改めてレイラに向きながら
「レイラ殿。タウロス殿のデコピンは不正をした罰だ。その手を悪に染めれば、いずれ自分自身を焼かれるぞ」
「……お兄様がシノブ様に告げ口しましたのね!」
レイラが兄のタウロスを睨みつけた。自分よりも一回りも年下の女の子に睨まれたタウロスは、助けを求めるようにこちらをチラリと目を向けた。
「レイラ殿、拙者は気づいていたぞ。お主が最初からこのような真似をしている事を。お主がいつ自分から言うかと期待しておったが……残念だ」
気付いたのはつい昨日だがな。嘘も方便。使い方次第だ。緑茶を飲み干し席を立つ。相手に時間の猶予など与えぬ!
「シノブ様……わたくしシノブ様に褒めてほしくて」
「人の手を借りた功績を褒めろと?馬鹿馬鹿しい。そもそも拙者は子守ではない」
「ヒッグ……ゴメ……ゴメンナ……ごめんなさい……わたくし……わたくし……シノブ……様に……」
レイラは瞳に涙を浮かべ嗚咽を漏らしながら謝罪している。反省は十分だな。そろそろトドメの一撃を
ワシがダメ押しをレイラに渡す前に
「わたくしシノブ様のようになりたくて……シノブ様も入学試験でジルにお金を負担させたっていってましたわ」
「……あれは両者合意の上だ。不正ではない」
なにを言い出すことかと思えば……この流れ……
不味い!
「シノブ様は魔法適正を書き換えてるって言ってましたわ」
「……誰が申した?」
「私です」
メイデンか。確かワシのことは調べたと言っていたな。この町に来てからの事は全て調べているのか?
狼狽は顔に出さない。イニシアチブを取られる。
「ヒイラギ様は筆記試験で他の受験生の答えをカンニングしてましたね」
「……証拠がない」
「証拠はありませんがヒイラギ様が誰の答えを真似たかはわかりますよ」
なんだこの流れは……明らかに逆風!
「ヒイラギ様は魔法学校の人形を破壊しましたね。魔力残滓を確認しましたが50などは一度も計測されていません」
「拙者は知らんな。人形が口にした事が事実だろう。メイデン殿の推察は想像の域を出ておらん」
この女……無表情だが笑っている。自分に対して絶対の自信がある。ワシには負けない、と。
「ならばレイラお嬢様が今まで出した宿題も同様でしょう。貴方は知っているとして放置した。それを良しとした。想像の過去を裁く権利などありません。柊様は一度もレイラお嬢様が不正をした瞬間を押さえてないのですから。全て貴方の想像の域を出ていません。……私と貴方は同じ」
無表情のままメイデンは自分の主であるレイラをフォローしている。手札は十分に揃っている。何よりメイデンは切り札を何一つ切っていない。
………………この女。
「…レイラ殿、自分の事を棚に上げた拙者を許してくれ。レイラ殿が望む罰を受けよう」
今は分が悪い。今のワシの情報量ではメイデンには勝てない。直接殺す意味もない。
素直に自分の非を認めレイラに謝罪する。
「罰……?お願いでもよろしいですの?」
レイラは目元をゴシゴシ拭い隣のメイデンを見上げた。メイデンはコクリと頷いた。
レイラの願望か…さぁなにが出る?腹を裂くか?脳を散らせる事が望みか?やってやろうではないか!
ワシの友 タウロスの腸をくれてやるわ!
「じゃ……じゃあ……二人ともケンカしちゃダメですわ」
レイラの望みに呆気に取られた。終始無表情を貫いていたメイデンも同様だろう。余程意外だったのかわかる。
ワシとメイデンの表情を察したレイラはモジモジしながら顔を赤らめた。
「わ…わたくしの大事な人達がケンカしてるのは嫌ですわ。な…仲良く…してほしいですわ」
「……ック!お嬢様はなんとお優しい。その慈愛は菩薩も嫉妬してしまう。」
メイデンは目頭を抑えつつ感涙している。
「すまぬなメイデン殿。お主には1本取られたわ」
「私も熱くなりすぎました。また遊びましょう」
遊びときたか。なんだこの女は……訳がわからん。メイデン.カーター。この女の素性は調べる必要がある。ワシにとって害をなすものか……あるいは
「あの〜……俺の誤解は解いてくれますよね?」
タウロスが怯えながらワシの肩を揺すってきた。ワシが窮地に追い込まれているというのに、この男は自分の保身に走る浅ましい奴よ。
「…………誤解も何もタウロス殿がデコピンしたのであろう?拙者にこれ以上何を解けと?」
「何簡単に裏切ってるんですか!?」
「そ……そうでしたわシノブ様!お兄様が思いっきりわたくしを叩きましたの!!わたくしとっても痛かったですわ!」
レイラの頭を軽くなでる。
痛いかも知れんが思いきりではないだろう。ワシが本気で指を弾けばレイラの柔い骨など砕けて脳に刺さるぞ。
「タウロス殿には拙者から罰を与える故、今回は勘弁してやれぬか?……拙者の顔に免じて!」
「シノブ様がおっしゃるのなら……」
レイラは多少ブスくれながらも納得してくれた。後はタウロスへの罰は……当然レイラと同様のデコピン。元はワシに非がある故にかなり手加減してやるつもりだ。
ワシのデコピン素振りを察したタウロスはニヤリと笑みを浮かべた。
「あの……小指でデコピンでもいいですか?」
驚いた。この男は肝が座っておる
「お兄様!?そんなのダメですわよ!シノブ様絶対ダメですわ!…………シノブ様?」
「タウロス殿……小指の爪先には毒を仕込んでおるが平気か?本人が見抜いているので大丈夫なのだろうな。無駄な詮索だった」
「え?ちょっと待ってやっぱり待っイテ!……………………」
タウロスの腫れ上がった傷口にちょこんと小指を当て体内に毒を埋め込むと、その場で白目を剥き机に突っ伏し気を失ってしまった。軽い神経毒なので一日程で目を覚ますだろう。
ジル&メイデンのおまけと感謝
「前々回にブクマしてくれた読者様、本当にありがとうございます。今回は私メイデンとレイラお嬢……ではなくジル様ですね。不愉快です」
「……なんでなのかは自分の胸に聞いてみなさい」
「全く心当たりがありません。私とレイラお嬢様は一心同体。お嬢様と離れた私は今も我が身が張り裂けそうです」
「まぁいいわよ。お金持ちのお嬢様って好きな食べ物ばっかり食べてそうだけど違うの?」
「要人の人達との会食で好き嫌いをされたら見栄えが悪いですからね。私も心苦しいです」
「ふ〜ん。レイラちゃんキノコが嫌いだったね」
「私の眼を盗んだ気になってキノコやピーマンを服に隠すお嬢様は可愛くて可愛くて!ついつい毎日嫌いな食べ物を出してしまうんですよ!嗚呼!心苦しい!」
「なに急に元気になってんの!?コイツ怖ッ!」
「お嬢様の大好物の中に嫌いな食べ物を隠すのはお奨めですよ!発見した時のお嬢様の顔ったらもう!あとあと!ハンバーグのタマネギの代わりにピーマンを代用した時は傑作でしたね!…あ………思い出したら鼻血が…………」
「ついに傑作とか言っちゃったよ。真面目に仕える気ゼロだよ」




