第20話 天井裏の二人
「報告までありがとうございました。おかげで不意に訪れた休暇を満喫できましたよ!」
タウロスの私室で昨日の一日影武者報告を済ませている。大量の書類にハンコを押しまくり雑務をこなしただけ。
「拙者にとっても良き経験ができた。こちらからも礼を言わせてもらおう」
「依頼は大成功ですよね!不満はないですよね!?」
タウロスはしきりにワシの仕事振りを気にしている。
今回に限って言えば概ね満足だ。
ワシがコクリと頷くとタウロスも書類を捲りながらウンウンと頷き
「なんか町の人達が俺を見る目が違うと言うか……尊敬してる?みたいな!?気晴らししたおかげですかね〜!?」
「そうだろうな。日光を浴びる事は大事だ。光合成とまではいかんが普通の人間でも日の光を使い精製される力もある。今後は時間を取り散歩に明け暮れよ」
「昨日はグッスリ眠れて目のくまもスッキリして!ヒイラギさんは余計な事をせずにハンコで遊んでただけ!予定通り!」
ニコニコしていたタウロスがピタリと止まった。やはり笑うと痛いのだろうな。睡眠不足によるクマはないが顔は腫れ上がり鼻は折れている
「ヒイラギさん……俺の顔でレイラに何かしました?」
「別に何もしておらん。挨拶した程度か……あぁ、下着姿で彷徨いていたのを注意したな」
下着姿を注意したのと、デコピンもしたな。まあ当然の事だ。ワシの目の前での不正は許さん!
「それは毎日見てるから違いますね。ヒイラギさんにも身に覚えが無い事ですかね?う〜ん、俺が戻って来てから屋敷の住人の態度がいつもより冷たいんですよ」
お前は態度が冷たい程度で殴られておるのか?
「メイデンが出張ってきてるから絶対レイラに関する事なんですけど何か思い当たる事あります?レイラの嫌いな食べ物を無理矢理食べさせたとか?」
う〜んと唸りこんだタウロス。悲しき男よ。あれ程仕事をこなしていても誰からも感謝も尊敬もされぬのか。
隠に生きる者 忍者の才が溢れておる!
「まずタウロス殿はその痛々しい見た目を治せ。拙者がSHIPPUを作ってやろう。今は持ち合わせがないのでサラバ!」
サラバと言いつつもひっそりと天井裏に潜む。フフフ、五色米も準備しておるぞ!今宵はタウロスが殴られそうになれば助けてやるか。
………………
1時間が経過した。タウロスは机から離れずに書類を確認している。肩が凝り固まり、腰の骨が歪んでいくのがわかる。あれではストレスに潰されるぞ。
ガチャリと扉が開かれ警戒しながらレイラが顔を出した。レイラに気づいたタウロスはいつも通り
「ん?宿題か?ちょっと待ってくれ。机を片付けるから……どうした?」
「お兄様がわたくしに何をしたのか忘れましたの!?全然反省してませんわ!」
拙者がタウロスの姿でデコピンしたな。タウロス本人は知らん事だが、教えてやればよかったな。
「ちょっとド忘れしちゃって……何したの?」
「キィィィイ!!わたくしを叩いて忘れるなんて許せませんわ!許しませんわ!メイデン!」
「…………ではお先に失礼」
瞬きの間にレイラのが隣にメイデンが立つ。
「お嬢様、やはり仕置が足りませんでしたか?戯れの過ぎるタウロス兄様にはもっと罰を与えても良いかと」
メイデンがカツカツとワザと音をたてながらタウロスを見下ろしている。タウロスは一瞬何が起こったかわかっていなかった。しかし理解しないと死ぬ。死にかねない。
「レイラを……叩いた!?ちょちょちょ!ちょっと待って!ヒイラギさん!ヒイラギさ〜〜ん!どういう事ですか!」
「…………」
出るか?拙者は帰宅した事になっている。しかしあの女にはバレているからな。
天井の板を外しその場に飛び降りる
「うわァァァ!!本当に居たあ!」
「シノブ様!?やだ、こんなはしたない格好見られたくありませんわ!メイデン、急ぎドレスを用意して!」
タウロスはその場で腰を抜かし、レイラは寝間着姿を恥じらいつつ部屋を出ていってしまう。それに次いでメイデンも……メイデンはこちらに軽く会釈を済ませ扉を音もなく閉めた。
「ヒイラギさん!レイラを叩いたって本当ですか!?」
「事実だな。自分に課せられた試練を他人に任せた故に罰を与えた。言っておくがお主も同罪だぞ」
顔面蒼白のタウロスにデコピンするのも気が引けるな。完全に治ってからに勘弁してやるか。
「ヒイラギさん俺がレイラを叩いたってのは誤解だって言ってくれませんか?俺……本当に殺されます!」
「折檻したのは拙者だからな。タウロス殿の願いを承る」
……………………
「シノブ様〜!前もって伝えて下さればおもてなしをしましたのに恥ずかしいですわ。わたくしの部屋に参りましょう!」
レイラは堅苦しいドレスに身を包んで再びタウロスの部屋に入ってきた。
笑顔でグイグイとワシの腕を引っ張るが
「レイラ殿座れ。話しがある」
「わかりましたわ!メイデンお茶を淹れてくれます?」
大きなソファに身を預けテーブルには香り際立つ紅茶。対面には緑茶が置かれた。レイラが命令する前に用意していたのだろう。
「……ヒイラギ様はこちらがよろしいかと。なにかありましたらお呼び下さい」
「また天井裏に潜むのか?」
ワシとメイデンの視線が交差する。互いに言いたい事もあるが今はその時ではない。
「どうでしょうね?ヒイラギ様にバレない位置にいます」
シノブ&レイラのおまけ
「シノブ様って誰でも変装できますの?お面?人の皮とかなしで」
「老若男女問わず変装してこその一流の忍者!そもそも一流の忍者とは」
「シノブ様……尺がありませんので手短にお願いしますわ」
「…………当然体格が似ておれば楽に変装はできる。細見の女性は、ゆるりとした服を着なければ厳しいな」
「わたくしみたいな女の子にも変装できますの?」
「無理をすればできるが余程の事がないとレイラ殿には変装せんな」
「わたくしは小さいですから大変ですの?」
「ああ……大変だな」
「シノブ様がめずらしく素直ですわ!?」
「精神年齢88+16の枯木のような拙者が元気よく『ですわ!ですの!ですわよ!』などと口にするのは精神的に堪える」
「わたくしの……人の口調を遠回しに馬鹿にしちゃダメですわ!シノブ様だって拙者とか意味わからない口調ですのに!」
「心得た……ですわ!」
「…………思ってた以上にキツいで絵面ですわ」




