第19話 激務
書類を一通り終えタウロスの部下はニコニコしながら部屋を後にした。
「これで一段落つけそう……にないな」
パタパタと階段を駆け上がる音が聴こえてくる。一直線にこちらに向かいノックを3回
「タウロスさん午後の依頼書に金額設定を……あと大型魔物が」
「 喝! 」
「 ひえっ!?………………………… 」
……しまった。煩わしさから一喝してしまった。心が未熟な奴なら気を失う程の気を込めてしまっている。
部下Bはブグブクと泡を吐きながら仰向けに倒れ伏していている。
タウロスが書いた簡易の予定表に目を通す。……昼食は抜き。午前依頼の精算業務。次の仕事は……
「時間が空いたな〜!参った参った!」
……………………
「タウロス様お出かけですか?」
「ああ。仕事が早く終わったから俺が散歩がてら直接届けにな。夕方には戻る」
全て金貨1枚と設定したら正気を疑われた。ならば……
「今回は全て銅貨1枚だ!フハハハハ!」
………………
町行く人々の怪訝な顔。変装が疑われている訳ではない。もっと単純な事だ。
「タウロス殿……嫌われておるのか?」
話せばなんとも面白い奴なのに……真に残念な男よ。人の上に立つ者など嫌われてなんぼのところがあるからな。その辺は天性の才能というフォローだけはしておいてやろう。
冒険者ギルド……魔物討伐や近隣の村の難事件を解決することを目的にした施設。ギルドの仕事を専属とする人物を冒険者と呼ぶ。
「あ!タウロスさんが持ってきたんですか……わざわざありがとうございます。」
ワシの手を触れようとせずに書類を手に取った受付嬢。その態度は隠せ。難しくないだろう!
書類に目を通し震えた手つきでワシを見据えている。
「……タウロスさん……正気ですか?こんな金額だと誰も受けてくれませんよ!」
あぁ、支払い金額だったのか。銅貨1枚なら朝食もままならない。誰も……ワシが設定した金額では誰も……
「俺がやる!俺……拙者ならばこのような事は自分で片付けるわ!銅貨1枚が正気かだと!?このような子供の使い以下のママゴトで金を背占める貴様等こそ正気か!」
クソっ!おかしい!心が未熟!乱されている。前世のワシなら火山が噴火しても動かざること山の如しで通っておったのに!
これが……若さか……面白い!
「……タウロスさん一人でやるんですね?私は止めましたよ。そもそも低金額で一番得するのはカーター家ではないですか」
「そのような事は拙者の知ったことでは無い。あと貴様、人を嫌うなとまでは言わんが周りに流され嫌うなど外道の所業と知れ。自分が恥ずかしいとは思わんのか?」
まずは町の案件を片付ける。
「タウロスさんが消えた!?」
…………
…………………………
……………………………………
……害虫駆除はいいとして、家畜用の柵づくりもまだ許そう。しかしだ!買い物ぐらい自分で行けるだろう!5歳児でもこなせるわ!
おっと、足の不自由な老婆であったか。浅慮なワシを許されよ。
夕暮れと共に町での依頼は粗方片付けた。ワシが再びギルドに戻ると受付嬢が頭を下げてきた。
「スイマセン!タウロスさんは町の外に出没したワイバーン討伐の為の資金を確保していたんですね!おかげで冒険者さん達が沢山集まってくれて被害も軽微ですみました」
意味がわからん。……タウロスの部下が気を失う前に大型の魔物がどうとか言っていたな。その件か?
一日に支払える額は決まっているのか?誰が出している?カーター家か?わからん。何もわからん。
わからんがとりあえず
「お前達も物事の裏を読めるようになれ!拙し……今日は俺が簡単な仕事は終わらせてやったから、次からは頼むぞ」
金は受け取った。全ての依頼を拒否するのも面倒なほど働いた気がする。
銀貨1枚。と銅貨10枚。片付けた件数は100を超えていた筈だ。
「……まだ……夕方からの仕事もあるのか……」
このような事を毎日こなしているのか。タウロス……凄まじい奴だ。尊敬に値する。
夕方からの仕事は楽だった。書類にハンコを押すだけ。何1つ目を通さずに全て許可してやった!
「ようやく……一段落つけるというもの」
「お兄様〜〜、そろそろお仕事は終わりまして?」
まだ終わらぬのか?もう良くないか?
「ああレイラ、俺は疲れてるんだ。何か用事か?」
ドアの隙間からピョコンと顔を覗かせたのはレイラ。手には薄っぺらい書類。正直見たくもない。
レイラはワシの前に紙を広げ
「宿題を教えてくださる?今日もシノブ様はお休みでしたけれど明日こそシノブ様に褒めてもらいますの!」
タウロス……意外と妹想いの奴だな。日々の業務をこなしつつ妹の面倒までみるとは、益々尊敬に値する男だ。
ならばワシが出来ない理由はないな
「いいぞ。レイラがわからないところは俺にきけ」
「は?何言ってますの?」
レイラは阿呆を見るような目でワシを見上げ
「今日もお兄様が宿題をやるんですのよ。わたくしはそれを見せてシノブ様に褒めてもらって得をする。お兄様は学力がついて得をする。皆幸せですわ!」
「それでは……ヒイラギさんを騙してるじゃないか」
レイラは人差し指をかざしチッチッと左右に振りながらドヤ顔をしつつ
「シノブ様はわたくしの魅力をまた1つ発見出来て得するんですのよ!シノブ様が一番の役得ですわ!大体ずぅ〜〜っと、お兄様が宿題をやってるのに今更ですわよ」
「…………そうか」
チョイチョイとレイラを呼びつつ不思議そうにレイラが近付いたところに
「ぴゃーー!?お兄様が………お兄様が…叩いたーー!!え〜〜ん!」
「ただのデコピンだ。今日から宿題は自分でやれ」
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