第14話 善意のアルバイト
「シノブ様〜!今日はなんの日か覚えておられます?」
最後の座学が終わった途端レイラがニコニコしながら駆け寄ってきた。心当たりを探るまでもなく覚えている。
「勿論だ。拙者は野暮用を済ませ向かう旨をタウロス殿には伝えておいてくれ」
「お待ちしておりますわ〜!」
…………
…………………………
タウロスの屋敷。今にして思えばタウロスの屋敷ではなくカーター家の屋敷であり正確にはレイラ.カーターの為だけの家。
「あ!シノブ.ヒイラギ様。レイラお嬢様がお待ちです。どうぞ中に」
「すまんな。首と腹の傷はどうだ?」
「はい。少し痛みますが、お嬢様の声もあり働かせてもらってます。」
以前侵入した際に意識を絶ち身代わりに腹を裂かれた男。魔法無しでは1ヶ月程度で絶対に回復しない傷。魔法は奥深く、認めなければならない部分があるのは事実。
「タウロス殿!家賃を払いに来たぞ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!ジルの……ローレス家の家賃はいらないって散々言ってるじゃないですかー!」
ワシの姿を一目見るなり取り乱すタウロス。
「家賃がいらぬとは何事か!拙者に恩だけを着せる気か!?遠慮せずに受け取れ!」
「そうですわよお兄様!シノブ様がせっかく家に来てくれたんですのよ!」
ワシの姿を一目見るなり隣に駆け寄り腕にしがみつくレイラ。レイラも楽しみにしている。やはり家賃は支払わねばならない。
当たり前だ!
「そ……それなら……お金でお願いします!銀貨1枚……いや銅貨1枚でいいので、お金でお願いします!」
「拙者は金を持っていない!」
「じゃあいらないんで帰ってください〜〜」
情けない声をあげるタウロスの耳を引っ張り地下へと連れて行く。後ろでは嬉しそうについてくるレイラ。
「イタタタ!歩く……歩きます!自分で歩きます!」
人間など耳1つ掴まれれば自由を奪われる。訓練していない者を相手に連れて行くにはこれが1番だ。
…………………………
「ぎゃァァァア!」
タウロスの悲鳴が地下室に響く。
「慣れん奴だな。痛いと思うから痛いのだ。痛くないと想像してみろ!意外と……変わらんな」
シノブは無表情にタウロスの皮膚に軽く爪をたて
「ここですわね……えいっ!」
「ぎぁ!」
義妹のレイラに針を刺され続けている
「拙者は金がないのでこう言った授業で免除するしか方法がわからんのだ。金を稼げぬ不器用な拙者を許せ!」
「シノブ様!お金なんかよりもわたくしにもっと教えてくださいませ!お兄様は頑丈だから死んでも大丈夫ですわ!」
ジル家の家賃を免除してもらう為にワシができる事など多くない。ワシも居候の身。少しでもあの親子の負担は減らしてやらんとな。
今は1週間に一度、タウロスに針を撃ち込みレイラを喜ばせる副業をしている。
「今日はこのぐらいだな。また来週会おうぞ」
「あ……シノブ様……」
ワシが地下室から帰ろうとするとレイラが少し寂しそうな表情を向け、入り口には凛とした佇まいの女性、メイデンがいた。
やはり気配が感じられない。只者ではない。
「お嬢様、夕食の準備が整いました。宜しければヒイラギ様もいかがですか?」
「……邪魔で無ければいただこう」
何か企てがあるのかメイデンは表情を変えない。一切悟らせないように注意している。
「邪魔じゃありませんわ!毎日来てもらって構いませんのよ!」
「タウロス兄様もメイド達と護衛の食べ残しがありますのでどうぞ。外で生ゴミと一緒に冷やしてますので美味しいと思います。」
「イテテテ…………」
鎖を外されたタウロスは肩をグリグリ回しながら自分の傷跡を確認していた。とてもメイデンの粋な計らいに感謝する余裕などない。
豪華な夕食を済ませ屋敷の庭で月明かりをボンヤリと見上げる。
「美味いが贅沢が過ぎるな。」
普段から口にしていては虫はまだしも、木の根などとてもじゃないが食えない。それは有事の際に弱点となる。今後は控えねばならない。
「あの〜ヒイラギさん……ちょっといいですか?」
庭先から引きつった顔をしたタウロスが現れた。人の顔を見て恐怖に駆られるとは余程の事情がありそうだな。
「拙者とタウロス殿の仲だ。構わん」
「……仲ならあの拷問を止め…………いやいや、ヒイラギさん!お金稼ぎしませんか?俺はこの町で仕事斡旋してますので口利きをすればどんな仕事でも紹介できます。それで家賃を……銅貨1枚でいいので!」
なる程、タウロスにとっては金のほうがいいのか、しかし金に執着する理由などきっとないのだろう。顔が物語っておる。
「拙者はあまり器用な事は出来んぞ」
「でしたら興味がありそうな仕事を後で教えてください!どんな仕事でも大丈夫ですので!」
タウロスは白紙に手をかざしブツブツと呟くと光り輝く文字が浮かび上がってきた。書類を手渡し足早にその場を去ってしまった。
「…………暗殺はないか、辻斬りもなしと、……身辺調査は……ないな……毒殺ならばどうだ!?……ない」
パラパラと書類をめくる。ワシにできそうな仕事がいい。タウロスの顔もあるので失敗は許されない。
「ん……これでいいか。どちらでも良いのなら楽そうだ」
1枚の紙を懐にしまい込む。書かれていた内容は
《ニコラ.ブラウン
強盗として目撃されている中級魔法使い
行方不明が多発しているので必ず複数人で当たること。
生死は問わない》
ジル&メイデンのおまけと感謝
「前回評価をしてくれた方まことにありがとうございました。作者の励みになってます。この場を借りて心より感謝申し上げます!」
「……お嬢様は?レイラお嬢様は何処ですか?」
「いないわよ。貴女とレイラちゃんの二人にしたら暴走するじゃない。」
「暴走ではありません。本編で語られない私の悲しい過去の結果があのような喜劇を」
「そんな過去ないからね!せめて悲劇って言えよ!」
「……お嬢様がいないなら後書きに用などありません。私は本編でお嬢様の挙動を観察する仕事に戻ります。」
「消えちゃった……アイツ、ストーカーなんじゃないの?」




