⭐︎第20話 お酒の場
王都でも平民が利用する決して清潔とは言えない場所でタウロスと八重が料理と酒を手に睨み合っている。
「まず俺からいくぞ。ヒイラギさんは他人の家を自分の家のように使っているんだ。」
「その程度?彼方君は気に喰わないことがあると平気で殺しちゃうのよ!」
「それはただの殺人鬼じゃないかよ!」
クッ……いきなりぶっ込んできたな。ヒイラギさんって結構人殺ししてそうだけど憶測なんだよな〜。見たことあるのは事後の一回きり……違った。3回だ。
「……俺も周りもヒイラギさんって呼んでるけど……偽名なんだよ。誰にも教えてないらしい。どれだけ親しくなっても本名を名乗るって言う当たり前の常識があの人には欠落しているんだよ!」
「な、中々やるじゃない。彼方君はそのへんはしっかりしてたわね。でもまだよ!あ……お酒おかわりくださ〜い!たくさん!たくさん持ってきて!」
八重は店員に向かって元気よく手を上げた。
よく食べるしよく飲むな〜。俺は仕事もないし、明日の心配なんていらない。飲みかけの酒を一気に煽り、
…………
「それで〜……ヒイラギさんに頼んだら〜〜『暗殺してくる』とか言って消えちゃうの!誰もそんな事頼んでないのに!さっきだってお団子勝手に持ってっちゃうしさ〜」
「あ〜、わかる。ワタシの知り合いも人の言葉を自分なりに解釈しちゃう子がいたけど周りは困るのよね〜」
「最初は八重さんも変な人かと思ったけど……久しぶりにまともな人と会話できて嬉しいよ」
「まとも……そう!ワタシはまとも!ワタシの周りにも変人しかいないけどワタシみたいなまともな人が苦労するのよね〜」
八重はまともと言ったワードに過剰に反応して嬉しそうに酒を空にしていった。
互いの知人の常識の無さは存分に理解できたところで話しはお互いの苦労話に発展し酔い手伝ってか気分がいい。
その気分の良さに水を刺すかのように男2人が近づいてきた。
「よぉ姉ちゃん。そんな弱そうな男と飲んでもつまんねえだろ?こっちに来いよ。一緒に呑もうぜ!」
「酔い潰れたら介抱してやるからよ〜、へへへ!」
あ。ナンパだ。初めて見た。へぇ〜そんなふうに誘うんだ。八重さんはどうするのかな?八重さんは2人を軽く流し見て小さく笑った。
「酔い潰れたらって、ワタシお酒で酔ったことないわよ。誘い方もダメね。全然興味を惹かれないわ」
「この女。胸がデカイからって調子に乗りやがって……オォ!そっちの兄ちゃん!この女を借りてくぜ!」
なんで俺に委ねるわけ?
あと胸の大きさと調子は比例しない。断言できる!知り合いとも思いたくない女が真っ平らな胸なのに常に調子に乗っているからだ。
変な石造るよりも胸を大きくする魔法具の1つでも造ってみろよ!ハハハハ!
『タウカス〜……お前覚えてろッスよ〜』
フフフ幻聴が聴こえてきた。あんな馬鹿な女でも会わなくなると寂しくなるかとも不安だったが……こんなに清々しいとは思ってもみなかった。
八重さんは……別に困っていそうな顔でもないし俺も飯は食えたから、そらそろ帰ってもいいかな。
静かに椅子から立ち上がり
「お前たちは俺を知らないのか?」
俺は首都に来た時に覚悟を決めている。
「あぁ〜?誰だよ!テメェなんて知るかよ!」
「女の前だからって粋がってんじゃねぇぞ!」
酔っ払い2人を無視してカウンタへ。酒場ならば……アレがあるな。
「マスター、コレ貸してもらえる?」
「え?あぁ……え?アンタ……いや、貴方は」
「お前たちが字を読めるか知らないけど内容ぐらいは知ってるだろ?」
「馬鹿にしてんじゃねぇよ!俺は字の読み書きは出来るしこれは代読師が読んでくれたから有名な……あれ?」
渡された紙とタウロスを交互に見つめる男。次第に顔が青ざめたかと思いきやたちまち紅潮していく。
「た……タウロス.カーター!本物だ!英雄タウロス.カーターが来てくれたのか!」
男の言葉に興味のなかった客たちも視線が釘付けになった。今やこの国にタウロスの名を知らぬものはいない。タウロスの肖像絵は国中になり配られた新聞に描かれている。
悪魔を一撃で粉砕した男。悪魔を滅ぼしたバルザックと違いタウロスの認知度は高かった。そして何よりも彼の魔法適正Dと言う事実が一般人に希望を与えていた。
「あんたは俺達庶民の英雄だ!」
「……サイン貰ってもいいかな?」
「あの険悪な顔つきで悪魔を黙らせたのね。納得だわ」
「噂では未来予知も出来るらしい」
「知り合いから聞いたけど悪魔が腰を抜かして助けを求めてても無慈悲な一撃をお見舞いしたらしいぜ!」
もみくちゃにされるタウロスがなんとか椅子に座りキョトンとした表情の八重に弁明した。
「八重さんならわかってくれると思うけど……これは誤解だから。俺、本当は全然強くないから」
「ええわかってるわ。ワタシも貴方と真逆の人を……ずっと見てたから。でも……それも含めてタウロス君なのよ」
それからこの店はちょっとしたお祭り騒ぎになり大量の酒が振る舞われた。
この店は日が傾く前に閉店した。
酒が尽きのだ。
ほとんど一人の女性が呑み尽くした。
「あ〜久しぶりに沢山呑んだわね。また機会があったらよろしくね」
唖然とする店員と客とタウロス。
「ウソだろ?あれだけの酒を飲んで……」
「じょ、冗談じゃねぇぜ!」
「タウロス様、貴方は俺達の希望だが……もう一つの意味でも最後の希望だ。」
「わかってるよ……」
タウロスは有り金全てを店主に渡して
「残りは必ず払うから待ってて……俺はカーター家だから逃げようがないだろ?
ハァ……あの女……食い逃げしやがった。全然まともじゃないじゃないか!」
↓高級旅館で子竜とお話し中の八重
「お父さん怒ってるかな?会いに行っても大丈夫かな?……え!500年間ずっと寝てるの!?」
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