第17話 大好物を前に
親子水入らずで食事したいと思うので席を外そうとタウロスに持ちかけられた。ワシも王都を探索していない。優先順位は……
「タウロス殿、温泉はいつ調べる?」
「あ……え〜っと、夜!夜にお願いします!」
温泉は逃げないが情報は刻一刻と変化していく。タウロスも忍者の端くれ。わかっているようだな。
「あ!ヒイラギさんお団子屋さんですよ!俺好きなんですよね!奢りますから一緒に食べましょう!」
「……一人で食えばいいではないか。拙者は遠慮しておく」
何事も万が一は考えなければならない。忍者がいないこの世界にもそれだけはあったか。
「ヒイラギさん?見た目は変ですけど本当に美味しいんですよ!東方連邦の……オチゴメだったかな?」
「……餅米だ」
「あ!そうそう。モチ米!それを何だったかな?斧で叩いて丸くするんですよ!何回か見たことありますけど本当に凄いんですよ!」
「斧ではなく杵だ」
タウロスがいいたい事は餅つきのことだろうな。それは凄いだろう。阿吽の呼吸で餅をつく姿は人の心を奪う。ワシといえどその誘惑に抗うことは難しい。
グゥ〜〜
……クッ!腹の虫が!不味い!想像してしまった!
「あ〜食べたくなりましたか?待っててください!俺買ってきますから!」
…………
程なくタウロスがワシにお団子を差し出してきた。
どうする?どうする?
「毒が入っているやも知れん。拙者は遠慮しておこう」
そうだ。屋台の食べ物など食う奴の気がしれん!そうだ!それで行こう!
「……は?毒って何言ってるんですか?」
「タウロス殿は心が浮ついているな。万が一を想定しろと普段からあれほど言っているではないか!」
「いや、あんた普段から『毒も薬。何事も摂取しなければ壁は超えられん』とかほざいてるじゃないですか。いや、嫌いならいいんですよ。無理言ってサーセンした」
謝罪心の欠片も見えないタウロス。舐め腐りおって……しかし……お団子は…………どうする。
「あ〜あ〜、ヒイラギさんって普段から木の根を食べてるとか言ってたけどこの分じゃ本当かどうかわかったものじゃないですね」
「――タウロスど「ごめんなさい!言い過ぎました!」」
こやつは本当に気配を察することに秀でているな。もう1秒遅ければタウロスの首を捩じ切っていたところだ。しかし……お団子。
毒が入っていようが少量ならば平気……少量なら……いけるか?やれるか?
タウロスからお団子をもらい、少しだけ……ほんの少量……初めて食す毒物を口にするかのように齧る。
「えぇ〜?なんですかそのみみっちい食べ方。ネズミでももっとガツって食べますよ!」
「うるさい!拙者とて命がけだ!」
はっきり言ってワシはお団子は大好きだ。というか餅が大好きだ。しかし……前世のワシが体験した悲劇。
また喉に詰まるのではないか?慌てて分身の術といった意味のない忍術を繰り出した挙げ句に無様な死に様を晒すのではないか?その不安が拭えない。
少量ならば大丈夫の……はず。
調子に乗って口いっぱいに頬張らなければ……大丈夫な……はず……忘れていた。これが恐怖か?
「……ヒイラギさんいつまで噛んでるですか?」
「米は108回噛めと教わらなかったか?」
「数えてないですけど、すっげー咀嚼してますよ。なに?唾液出す機能イカれてるんですか?」
タウロスの戯言は無視だ。前世に限ってだがワシの唾液量は多いほうだと思っている。今の身体はそれほどでもないが、それにそろそろお団子は口の中のどこにもない。
意を決する!Dead or Alive!
大量の唾液と共に飲み込む。…………
よし!良し良し!越えた!最大の試練を突破したぞ!
「また1つ壁を超えてしまったな。タウロス殿に感謝させてもらう」
「よく分かりませんけど美味しかったでいいんですか?」
「お団子を不味いと抜かす奴など存在せんわ!」
「ひぃぃ〜!なに怒ってるんですか?」
…………
……………………
「で、ですね。王宮へ呼ばれた時はヒイラギさんも一緒に来てもらって――」
タウロスが後日貰えるであろう褒美の段取りについて懸命に説明しているが……こっちはお団子を食べる事に必死だ。それをわかっているはずのタウロスは必死に身振り手振りとワシの邪魔をしてくる。
今だけでいい タウロス 消えてくれ 邪魔すぎる。
「――てな感じでお願いします!もしもの時は俺が合図出しますのでお願いしますよ!」
「承知した」
「あの……聞いてました?」
「一度だけだぞ」
「あ、聞いてくれてた。ありがとうございます!」
王宮へ堂々と行けるなどこちらとしても経験になる。いずれ忍び込むにしても地図で見るのと直に見るでは大違いだからな。




