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 追憶の残骸〜ありがとう〜

 

 死ぬなんて言葉で躊躇った自分が情けなかった。セスは封印されるとわかっていてあたしを助けてくれたのに、あたしは偽りの感謝しか口に出せず、今ですらなにもセスにしてあげられていない。



 光り輝く魔法陣に1歩足を踏み入れた。一瞬でボロボロの靴は焼け落ち足は焼け爛れた。


 更に1歩足を踏み入れた。足の感覚などない。痛みなどまるでない。今まで受けた痛みに比べたら友達を救える痛みなんて全然痛くなかった。


 セスの肩を掴んで必死に魔法陣の外へと引きづる。指がボロボロと崩れ落ち残った肘だけで必死にセスを連れ出す。


 あと……ちょっと……もう……少し…………


 焼け落ちた右手だけが魔法陣の外に出た。


 あと……少し…………右腕の肘の力だけで這いずるように――!?


 胸の大きな女性。エイジスに腕を掴まれて強引に魔法陣の外へと投げ出された。放り出されたあたしとセスを優しく受け止めたのは……たしか……ジュデッカ。


「貴女凄いわよォ!待ってて!タナトスに怪我を引き受けてもらうから!」

「僕もいくよ。タナトスはズボラなところがあるから僕が言わないと動いてくれないだろ?」


 …………セス……は?


「……………………アイ……シャ……」



 良かった。 生きてた あたしは役にたてた。初めて友達の役にたてた。

 …………もうこれで……あたしは…………


「………………――――」


Permanent(パーマネント)!…………ッチ!不味いな。エイジス急ごうか。急遽発動した永続魔法なんていつ壊れるかわからない。その娘……アイシャの魂が消える前にタナトスを連れてこなきゃいけなくなった」


「え……えぇ。セス、貴方も魔力を溶かさるているから絶対に動いちゃダメよォ!その娘なら大丈夫よォ!必ず助けるからァ」



 …………

 ……………………


 意識だけが残っている。あたしは俯瞰した景色から覗いている。セスが誰かを見つめている。顔は溶け落ちて四肢は崩れ落ちて人間かどうかも怪しい存在。


 セスがその残骸に対してあたしの名前を呼んでいる。きっとあれはあたしなのだろう。



 ふとセスが後ろを振り向きあたしを隠すように遠くを見定めた。


 何年ぶりだろうか。ずっとあたしのことなんか忘れていた過去の友達は息を切らしながら身体を震わせ声を震わせていた。



『お前を――……力さえ戻れば――助けられル』

「そこの死た……アイシャ……彼女から……離れ……」


 お互いの声がよく聞き取れなかった。あたしのかつての友人は瞳を閉じて……開いたときには別人になっていた。


「出現して早々申しわけありませんが……私の魂名に従い悪魔を滅します。ですが、八つ当たりですので抵抗されて構いませんよ」


 あれは……あたしの知っているメイデンちゃんではなかった。


 メイデンちゃんは一瞬で消え去りセスの頭を砕いた。セスの身体が崩れ落ちていく。蝙蝠の翼は剥がれ落ちそこには人間となんら変わらぬ姿を持つ男性。


 でもあたしにとってはいつものセスだった。


「アイシャ……我を……人間扱いしてくれてありがとう。そなたと過ごせた短い時間こそが悪魔になった我の唯一の救いだった。……本当にありがとう」


「な……なにを……貴方はなにを言っているんですか?」



 セスは死んでしまう。最後の言葉。あたしはまだ言っていない言葉がある。それを言わないままお別れなんて……嫌だ!


 四肢のない亡骸がムクリと起き上がる。爛れた皮膚でセスに触れた。暖かった。優しかった。


「セス……ありがとう。あたしは貴方に出逢えて幸せだったよ。また……いつか会おうね…………約束……」


 セスは大地に溶けていきあたしは力なく地面に伏した。メイデンちゃんが慌ててあたしを抱えたが、


「アイシャ!アイシャ!しっかりして下さい!大丈夫ですから意識を―――」

「どうして……誰も話しを……聞いて…あげなかったの?」


「あ……アイシャ?」


 最後の燈火が燃え尽きようとしている。構わない。セスがいない。もう生きていてもあたしは幸せにはなれない。


「誰が悪魔だから悪いって決めつけたの?メイデンちゃん教え………………―――――」



 もう あたしはそこにはいない。



 結局あたしにとっては人間なんかよりも悪魔達のほうがよっぽど優しかった。次に生まれ変わる機会があるのなら…………あたしの願いが叶うのなら……神様なんかには祈らない。祈るのは……願うのは…………




 悪魔たちは世界中を転々としているがセスは長年その場所にいた。その場から動けない理由があった。ひたすら過去の命令を守り通した存在はようやく役目を終えた。


 一方的な約束だけは未だ果たされぬままに。


 ーーー

 ーーーーー



 ジュデッカは意識のないレイラを抱えて屋敷を出ようとしている。そこを呼び止められた。


「ジュデッカ先生!その女は新しい実験材料ですか?」

「違うよ。間違って連れて来てしまってね。今から返しに行くところさ」


 男はレイラを舐め回すように見たあと


「でしたらその女を俺に下さい!その娘を見ていると昔逃げ出した女を思い出すんです!あぁ〜興奮してきたなぁ〜」

「デグネ.ラウンジ。君は《神の天秤》って知っているかい?いや、知らなくても問題はないんだよ。それは観測できる代物ではないからさ。でも確実に存在する」


「申しわけありません。存じません」

「簡潔に説明すると……この娘を君に預けるぐらいなら君を殺すってことさ。それを聞いてもまだこの娘を性欲の捌け口にしたいのかい?」


 ジュデッカは冗談など言わない。それを知っているデグネは唇を噛み締め小さく呟いた。


 それが人間としての最後の言葉になるとは知らずに。


「申しわけあり…………ギキャ?ガギ……グェ…………」



「君はまるで理解できていないね。今の今まで僕は君を殺す気なんてなかった。でも結果として殺すことになる。君に罪があるのなら相応の罰を下すのは僕だったってだけさ。推測だけど今まさに秤が傾いたんだよ。楽に死ねるなんて期待するなよ?僕が……このジュデッカが全力でやるんだからさ」


「ヤメ テ ナンデ ナンデデスカ センセ イ」


「何故って、そんなの僕が知るわけないだろう?とりあえず生皮を剥ぐところから始めようか。脳を弄るのは後回しにして……ん?そんなに不安そうな顔をするなよデグネ.ラウンジ、痛覚と意識は絶対に最後まで残すからさ。どうだい?安心しただろ?」



 



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