追憶の残骸 空から堕ちる災厄
心の片隅から漏れ出た一言は他でもない悪魔の耳に届いた。
「隊長!周囲に魔物が!数は……50を超えてます……」
「馬鹿な!索敵では一切いなかったではないか!どうなっている!?」
「俺……この村の近くに住んでたんですが……この山は入ってはいけないんですよ……悪魔が出るから……悪魔がいるからって」
あたしを含めた20人足らずの人間はあっという間に魔物に囲まれた。魔物の1匹が凶暴な唸り声をあげながら飛びかかり兵士の甲冑などないかのように引き千切った。
「うぎゃァァァァ!!助けて!助けて!助けて!」
「く……このぉ!」
兵士の一人が槍を魔物に突き刺した。滴り落ちる血液が燃え盛り槍を包み込み辺りを獄炎の地へと変貌させていく。
逃げ場などない。あたしを捕まえていた兵士が縄を離した。だからといって逃げ場はない……でも。
炎の中に入り込む。端から見ていたら自殺にしか思えなかったかもしれない。でもあたしには確信があった。炎はあたしを焼くことなく手錠だけを焼き切ってくれた。そしてあたしを暖かく包み込んでくれた。
「セス!どこにいるの?」
炎に包まれながら声を大にする。炎は掌を創り出しあたしを優しく撫でてくれた。
一人の兵士が炎の中を突っ切り
「……この炎は幻覚だ!退却!いったん退却してラウンジ様に報告するぞ!」
残る兵士達は我先にと炎の中に突っ込んでいった。
『目を閉じていロ』
優しい声がした。今のあたしにとって唯一の友達の声が聞こえた。だからあたしはなにも怖くなかった。言われるままに瞳を閉じた。
『血潮の獄炎によって燃え尽きロ
FlashBlood 』
目を閉じていてもわかる強烈な光。目をあけるとそこには大量の白骨死体。鎧や服。肉体は何処にもなかった。遠くでセスが岩の上にいた。慌てて駆け寄り
「……みんな…死んじゃったの?」
「…………」
「……セ…セス……あり……が……」
あたしは本心から感謝の言葉が言えなかった。今までセスは悪い事は一切していなかった。今だってあたしが助けてなどと口に出したから助けてくれただけ。あたしの身勝手な願いを叶えてくれたセスに偽りの感謝すらもまともにできなかった。
セスは静かに口を開いた。
「最早共にはすごせン。何処か行く宛はあるか?」
「!?ない!やだ!行く場所なんてない!どこにもいかないで!セス!あたしと一緒にいて」
「ニーチェに感づかれるやもしれン。エイジスに確認を取る」
…………
……………………
現れたのは2人。ジュデッカとエイジスだった。
「あれは王国の兵だよ。行方不明扱いになっているから時期に大規模な捜索が行われる。ニーチェにバレるのも時間の問題だね」
「セス……なんでよォ…………その娘ねェ!その娘がセスを誑かしてェ!……殺してあげるわァ!」
「やめロ!我が人間に吐き気がしただけダ。アイシャは関係ない」
よくわからないが王国の兵士を殺した事は悪魔にとって禁忌なのだろうか……二人はセスを哀れむように見ていた。そして原因であるあたしを射殺すように睨んでいた。
「わ、ワタシニーチェに事情を説明するからァ!今回は不可抗力じゃないのよォ!納得できないでわァ!」
「なにを説明してくれるっすか〜?」
頭の中で声が聴こえた。あたしはなぜか空を見上げると、太陽が2つあった。その1つがだんだん近づいてきて
大きな土煙をあげてそれは地上へと降り立った。
薄暗い紫の三角帽子。
闇に溶けそうな黒いローブ。
神聖な雰囲気を纏った箒をもった女性。
「ニーチェ……」
「2度目っすよ。エイジス〜、なにを説明してくれるっすか〜?人間殺しといてどんな酌量を期待してるんすか?」
「セ……セスはその娘を助けようとしただけなのよぉ」
エイジスは怯えながら事情を説明してくれた。ニーチェは特になんの興味もなさそうに静かに聞いている。
「――ね!セスは悪くないでしょう?だから」
「ん?話しは終わりっすか?当たり前っすけど時間の無駄だったっすね。んじゃいくっすよ〜」
「な……なんでよォ!セスは悪くないじゃない!」
「悪いかどうかはあっしには決められないっす。確かなのは人間なら許される事は悪魔だったのなら許されない。セス……言い残す言葉はあるっすか?」
「我が独断でやったことだ……アイシャは……関係ない」
「……ん、と、人間っすね。当たり前っすよ。悪いのは全部悪魔であって人間はなにも悪くない。あぁー吐き気がするっす。エイジスに免じて特別に50年で勘弁してやるっす。50年後は大人しくしてろっすよ」
ニーチェは箒を地面に突き刺した。セスを中心に魔法陣が形成されて主の一声を待ちわびている。
『 EvilDorain
FlashBlood』
発動された魔法はセスの全てを奪い尽くすようにまとわりついた。
「ぐ……あああ ァァァ……あガガ」
「ロクシリーヌの陣は何度も食らってるから抵抗は無駄ってわかってるっすよね?魔力を溶かされるまでは自分の魔法で焼かれてろっす」
セスは苦しそうにうめき声をあげている。あたしはなんとかできないかと1歩踏み出そうとしたが
「死にたいなら別っすけどその魔法陣は悪魔だけを封印するなんて気が利いてないっすよ。人間が入れば間違いなく死ぬ」
間違いなく死ぬ。その一言はあたしを躊躇わせるのは十分だった。
「んじゃ、お前達も悪さするのならあっしに気付かれないようにやれっすよ。そこの……金髪のロリ娘はじっとしてろっす。じきにセスは封印されてヴィント家の者が封印の功績を高値で買い取ってくれるっすから。その金でてきと〜に暮らしていけっす」
ニーチェは三角帽子を深くかぶりなおし足元から徐々に消えていった。
苦痛に歪むセスの顔をみる。あたしを助けたせいでセスは苦しんでいる。セスは封印は嫌だと見た目からは想像出来ないほど不安なセリフを漏らしていた。
だから
「今度はあたしが……セスを……友達を助ける」




