表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/508

  追憶の残骸

 

 今から14年前、4人目の魔法適正Sが確認された時の話。



 それはあたしの大事な友人。あたしは友人におめでとうと本心から言ったが彼女は悲しそうに頷いただけだった。


「メイデンちゃん!あたしお金貯めて読み書きのお勉強もしてお手紙書くからね。」

「   」


 メイデンちゃんはなんて言ってただろうか。少なくともあたしは手紙は書けなかったし手紙を出すお金も貯める事はできなかった。


 あたしとメイデンちゃんは小さな村での唯一の同い年だった。そして彼女がいなくなって彼女の凄さを実感した。


「アイシャ!なにやってんだい!このクズが!なんであんたは魔法適正がSじゃなかったのかねぇ!?隣のトゥリー夫妻は大金を貰って暖かい地域に引越してウチは不毛な土地を……クソッ!」


「ごめんなさいお母さん」


 メイデンちゃんが王国に行ってから生活が一変した。貧しかったけれど優しい両親は変わってしまった。メイデンちゃんの両親は必要なくなった田畑をあたし達に恵んでくれて笑いながら消えて行ったのを覚えている。


 管理する者がいない土地はすぐに痩せ細る。7歳のあたしも畑仕事を手伝ったが……どうしてもメイデンちゃんのように上手くこなせない。鍬が重い。腰が痛い。手が痛い。お母さんに叩かれた身体中が痛い。


 9歳になった頃あたしが家に戻ると母親がニコニコしていた。こんなに笑っているのは随分見ていなかったがあたしは恐怖を感じた。

 メイデンちゃんが王国に行った後のトゥリー夫妻も同じような笑みを浮かべていたのだから。


「いいかいアイシャ。あんたの気立ての良さが貴族様の目に止まったんだ。これからはラウンジ様の元でお勤めを果たすんだよ」


 母は優しくあたしを抱きしめてくれた。作られた優しさと本物の笑顔。メイデンちゃんが『アイシャは小さいからわからないけど人を信じるのはよくない』と言っていた事を不意に思い出した。


 でもこれはあたしにとって良い事だ。ずっと夢見てきた王子様……とまではいかないが迎えに来てくれたのだ。これからは暖かい食事……藁ではない寝床が貰える。


 あたしはどこまでも愚かな夢を見ていた。



 程なくして貴族であるラウンジ家に引き取られた。あたしの仕事はなんなのかはわからない。

 その土地は畑などないしあたしは役に立たず捨てられるかもしれない恐怖に駆られた。


「ふ〜ん……悪くないじゃん。父様もいいプレゼントをくれたものだ」

「よ……よろしくお願いします。アイシャと言います。デグネ.ラウンジ様」


 13歳の男の子。頭首であるディヒト.ラウンジ様の次男デグネ……。あたしを上から下まで見渡し髪を掴んで強引に部屋へと足を運んだ。


 …………



「痛い!痛い痛い痛い!止めて止めて止めて止めて!」

「この田舎娘!大人しくしてろ!」


 なにをされているのかわからない。ただいたかった。こわかった。くるしかった。はきけがした。ちがでている。


「坊ちゃん。見事でしたよ」

「フゥ――……当たり前だ。俺は由緒正しき貴族だ。こんな平民風情と交わるなど吐き気がするが初潮を迎えるまでは使ってやる。有り難く思えよ」


 なんの知識もないがあたしがラウンジ家に来た理由は道具だったんだ。デグネの欲を満たす道具。

 あたしに仕事などなかった。あたしは人間ではなかった。ただされるがまま。母親が叩くのに比べたら痛くもないが心が摩耗し……遥かに痛かった。



 あたしの心が蝕まれていく。


 食べ物は与えられた。寝床も用意されていた。あたしが知らなければ……きっとあたしはこの生活でも慣れていたかもしれない。


 でも。


 王国にはあたしのかつての友人がいる。彼女の華々しい活躍は聞いている。同じように育ったはずなのに……メイデンちゃんはあたしの事など忘れてきっと幸せを謳歌しているのだろう。


 あたしの心が蝕まれていく


 あたしは貴族の道具として毎日を過ごしている。それもきっと長く続かない。道具は消耗する。いずれ壊れる。そしてデグネはきっと治そうとはしない。壊れた道具などなんの興味もなく捨てるのだろう。


 あたしの心が蝕まれていく。



 逃げた。走った。走り続けた。あたしの唯一の特技。走り続けることだけはメイデンちゃんにも褒められた。ずっと走っていられる。希望に向かって走っていられる。


 なにも持っていない。あたしにはなにも必要ない。壊されるぐらいなら自分から壊れてしまおう。あたしがなにも考えられなくなる前に……あたしがあたしを(ころ)そう。



 最後を迎える場所は決めている。大人達が入り込まない場所。メイデンちゃんと一緒に遊んだり木の実を食べたりあたしの幸せそのもの。


 幸せな記憶と共に……死のう。


「ぐ……ウッ……うぅ…………ううううう!!」


 木の枝を喉に突き刺した。呼吸ができず辺りに血を滲ませながらあたしの意識は消えていく。



 しかし意識は消えくれない。痛みは消えてしまった。出血は止まり傷跡もない……と思う。


『我を戒めから解いたのは貴様だナ。小娘……貴様の絶望を喰らわせてもらっタ』



 目の前には蝙蝠の翼をはやした人型の存在。見る者に畏怖を感じさせる絶対的な存在。




『我が名はセス。俗に言う悪魔ダ。死にたくなければこの地を去レ』



 あたしは悪魔の言う事を聞かなかった。だってこの場所で死にたかったし望み通りではなかったけど、たしかにあたしはこの場所で死ねたのだから。





おまけ レイラ&ジュデッカの魔法講座


「今回おまけは前回の続きですわ!」


「別に前話を見直す必要はないよ。今回は斜め読みで十分な内容だからさ。さてと、ウィジャ盤と人形は用意してきたかい?」


「勿論ですわ!ここに持ってきましたわ!」

「ウィジャ盤は……東方連邦のこっくりさんか。人形は……これは良くできてるね。君の数少ない才能なんじゃないのかい?」


「人形はミシェルに作ってもらいましたわ。ウィジャ盤はメイデンが書いてくれましたわ!でもわたくしが用意しましたわ!」


「なんで自分で作らないかな?説明だからいいけどそんなに怠けてたら何事も成功しないよ」


「能書きはいりませんから説明をしてほしいですわ」


「……降霊魔法は意図的に間違って伝承させる事が多々あるんだよ。ウィジャ盤を使った降霊魔法はわりと正確に伝承されているかもね。まず自分と人形を使って降霊詠唱をすませて」


「えっ〜と、メイデンが書いてくれた紙には『こっくりさんこっくりさん来てください』って唱えるって書いてますわ」


「本当に長くなるからざっくり説明するけど途中でやめて意図的に取り憑かせる。人形が1つなら確率は二分の一で成功する。怖いなら人形を沢山用意しといたほうがいいね。でもどれに取り憑いたかわからないから怠け者の君は面倒くさがりそうだね」


「一言余計ですわ……人形に取り憑いたらどうしますの?」

「自分の血を浸した糸で59回と49回に分けて最後は繋げるように縫い付ける。逃さないと念じながらね。後は適当に人形を痛ぶってボロボロにさせたら馬鹿な狐もどきは君の言う事を聞くよ。簡単だろ?」


「自分を模した人形を痛めつけるんですの?わたくしが想像した召喚魔法じゃありませんわ」


「注意点は糸がほつれたら狐が逃げるからね。それなりの報復は覚悟しておくことさ。その前に燃やすといいよ」


「怖いからわたくしはやりませんわ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ