一話 奴隷生活
部屋の扉が乱暴に開かれ、その喧騒で目が醒め飛び起きる
僕に言い渡された今日の仕事内容はロビーのシャンデリアの掃除と地下の石壁の補修だ
僕はこの屋敷で奴隷としてここの主人の下で働いている
しかし、奴隷として働いている訳だから金が貰える訳でもなく食事もまともにとらせてもらえない
どうやらここは僕の生まれ育った世界ではないようだ
僕はある日いつものように学校の授業を終え、下校していると、いきなり景色が暗くなり気づけばあの森にいた
詳しいことはまだ何も分からない。でも僕を半殺しにしてここに連れてきたあいつなら何か知っているかもしれない
今は聴きだすことはできないけど、大人しくしていればいずれチャンスがやってくるに違いない
それまでは辛いけどしばらく奴隷としてこき使われながら待とう
……
そろそろ行かなくちゃ
軽く身支度を済ませ、ロビーへと向かった
広い……
これでここに来るのは何度目だろう、広くて高い、まるで学校の体育館みたいだ
このロビーに来ると体育の授業、懐かしい学生生活、もう戻れないかもしれないあの日々を思い出して憂鬱になる
……
おそらく落ちれば即死であろう高さに取り付けられたシャンデリアの掃除に取りかかる
単管パイプのような物を組み立て足場を作り、シャンデリア全体に手が届くよう調整する
後は水を入れたバケツに雑巾を入れ、口でくわえ何とか登る。勿論安全帯なんて物は無い、あっても貸してくれないだろうが
そして全体をピカピカになるまで磨く
……そういえばここの主人はどんなやつなのだろう
ここの主人に仕えているが、僕はまだ会ったことがない
でも大体予想はつく
合わせただけで全身が凍りつくような冷酷な目をした残酷で非道な、恐ろしい姿をした化け物
僕をこんな目に合わせて奴隷としてこき使う、そんな事が平気でできるやつの主人なんだ、人の心は持っていないだろう
――あ、乾拭き用の濡れてない雑巾を持ってくるの忘れて――
考え事をしていたのがよくなかった
足を滑らして足場から落ちそうになり、咄嗟にシャンデリアに掴まった
「うわっ!?」
シャンデリアは外れ、ロビーの床に勢いよく叩きつけられ破裂音の様な凄まじい音がロビー全体に響き渡った
足場を降り、恐る恐るシャンデリアを見てみたがとても修復は不可能な状態だった
「やってくれたな」
声のする方を向くと、機嫌の悪そうな顔をしたあいつが立っていた
笑っているが、この笑顔は間違いなく心底はらわたが煮えくり返っている顔だ
「お前、分かっているのか」
もちろん分かっている
「分かっているって顔だな」
こいつにはどうやっても勝てない。人と化け物の力の差はどうやったって覆せない。それは重々身に染みさせられてきた
拳がこっちに向かって飛んでくる
歯を食いしばった
――殴られた
いや、殴るなんてレベルじゃない
僕は学校の体育館程の広さがあるロビーの中央からダンプに轢き飛ばされかのように吹き飛び端の壁に衝突し、力無く崩れ落ちた
足音……
あいつが近づいてくる……動けない……くる……しい……か、らだ……が……あっ
感覚がない、でも分かる。僕は今蹴られている。何度も、何度も
あれだけ強く殴って動くこともままならない、意識が微睡むこの状態の僕にあいつは更に追い討ちを加え続ける
「うっ……ぐっ……」
「苦しいか?」
「それはそうだ」
「本気で殴ったからな」
「骨の何本かは折れてるだろう」
「出来損ないのデク人形が」
「お前は我々にとってただの食料に過ぎない」
「そんなお前も手先の器用さだけは買い、わざわざ生かし、あまつさえ餌と部屋を用意してやっているというのに」
「この有様はなんだ」
蹴られた……
今のは強く蹴られた、意識が……消える……死ぬ……
「そのへんにしておけ」
聞いたことのない声……一体誰だ……
「主人」
「あまり虐めるな」
「それ以上は不味くなる」
「はい」
「こいつがお前の言っていた新しい迷人か」
「他の世界からやってきた迷い人、それらを我々は迷人と呼んでいる」
「特徴は非力で短命、たまに迷いの森に現れる神出鬼没の生き物」
「味は美味で何か使える個性があればそれが生かす理由、使えないと判断した場合は食料にする」
「お前はいつまで生き残れるだろうな」
「……迷人は?」
「主人が長々と迷人について語っていたのでその間に逃げていかれました」
「何故言わなかった?」
「いえ、あまりにも真剣にお話しされていたもので口ずさむ暇がありませんでした、というのは冗談で私達から逃げ出すということがどういうことなのか知らしめてやろうかと思いまして」
「………まだ生かしておこうと思ったがもういい、早急に見つけ出せ」
「御意」
「今夜の夕食は若い迷人の生き血だな」