プロローグ
「はぁ……はぁ……!」
今まで生きてきて初めて感じた本物の恐怖、普通の人間が普通に生活している上で、まず感じることのない感覚……
命の危機……その感覚を僕は今、感じている
なぜこうなったのかは分からない……でも、一つだけ分かることがある。僕を追いかけてくる人物(?)は僕を殺そうとしていること……
それに、なんの疲れもみせず凄まじい勢いで迫り来る……信じ難いけどこの世の生き物とは思えない……
追手は僕がどれだけ速く走ろうと、獣道を無作為に進もうと関係ない、真っ直ぐこっちに向かってくる。一体何者なのだろうか、それにここは何処なのだろうか……
そんなことを深く考える暇も無く、ただひたすら逃げるしかなかった
「――うわっ!!」――ドサッッ
とうとう疲労が最高にまで達し、木の根に足を引っ掛け思いっきり地面に転けてしまった
ザッ……ザッ……ザッ……
追手はもうすぐそこまで来ている……
辺りは草木が生い茂り、月明かりの届かない鬱蒼とした夜の森の中。他の生き物の気配は全く感じられない
誰かに助けを求めることはできない
ならとれる行動は二つだ
一つ目は、このまま身を潜め隠れ通すこと
これだけ深い森だ、身を潜めていれば追手に気づかれずやり過ごすことができるかもしれない
そして二つ目、これは正直賭けになる
追手が僕より運動能力が上なのは間違いない
でも、不意を突いて、手元にある枯れ木の棒を追手に上手く突き刺してやれば優位な状況になるかもしれない……
でも後者はあまりにも危険すぎる。なんせ追手は僕を殺そうとしているのだから……
もし失敗すれば確実にその場で殺されるだろう
それならまだ前者の隠れるを選択した方が賢い
でも、追手は普通じゃない……僕の常識が通用するとは思えない……
なら、今僕にできる最善策は……
――ヒュッ……ストンッ
……なんだ……?今、近くの木になにか……
――ヒュヒュヒュッ……ズドッ
何が起きた。何かが僕の背に刺さった?
――刺さっていた
背中に痛みを感じ始め…………それが致命傷であることを悟った
「……くっそ……こ、ここまでか……」
ザッ……ザッ……ザッ……
追手はこちらに歩み寄ってくる(ドクンッ…………ドクンッ)
もうとれる行動は一つしかない(ドクンッ………ドクンッ………ドクンッ)
チャンスは一度だけ、草影に隠れている僕を追手が見つけた瞬間のみ(ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ)
少し…………あともう少し……(ドクンッ――ドクンッ――ドクンッ――ドクンッ)
「今だ!!!!!」
身を乗り出し、右手に持った武器を振りかざした
「……な……ん……で……だ……」
が、追手の姿を確認する間も無かった。何をされたのかも分からず僕は地面に崩れ落ちた。