第三項 [一人の魔王と二人の着師]
俺ら兄妹は町の南西方面に在る森に調査依頼を町から直々に受けた。
...町の常備軍を数人連れて
「ここまで血の臭いがするなんてな、どれだけの村の住民が食い殺されたのやら」
今まで色々な調査依頼を受けていたがここまで酷い有様ではなかった。
「兄ぃ、怖い」
「知るか」
墓場の土を掘り返して薬草の根を集めてるお前に何を今更恐れる事があるんだよ。
そんなことを思いながらどんどん臭いが強くなる道を歩いて行った。
〜一昨日の夜の話だった。自分は魔獣に襲われた村の生き残りを助けた。
おそらく自分の眷属の召喚した魔獣が村を襲った。
魔王は世界の崩壊を願った。
僕は自分の命に絡みついた呪詛が解けることを願った。
一つの命の為に僕は多くの命を捨てる方を選んだ。
「汝よ、汝の選択は正しい選択である、誇るが良い」
そっと、全身を精霊着に包まれて。
「汝はただ、我の依り代であるだけで構わぬ」
僕の意識は闇の底の沈んで行った。
〜村に着くとそこには無残に食い散らかされた人間だったモノがゴロゴロと転がっていた。
「兄ぃ...ここ、嫌」
能天気で常に明るい妹も流石に勢いを失うような惨
状。
お前もすぐに慣れるとは言えず。
「大丈夫だ、安心しろ」
後ろでスリーマンセルを組んで自信満々な常備軍の輩よりはマシだ。
「全員警戒を、周辺に魔獣の気配がする」
...30の雑兵と一体のロード種
「想定の範囲内ではあったが一度にしては意外と多いな、そこを動くな、何があってもスリーマンセルを崩すなよ!」
兵士の返事を聞く前に精霊着に魔力を通していた。
周囲を囲み展開される炎の魔法陣...その中心に佇むは炎の精霊“イフリート”
「我が名はイフリート...恐れよ、讃えよ...我が炎の前に灰塵と帰すことを許そう」
相手の周囲で燃え盛る炎はさながら鳥籠のように敵を囲み...無残に焼き殺す。
〜「相変わらず酷いね...これじゃあ、討伐というより虐殺じゃん...」
私は地面にへたり込んで...失禁した。
「愛しい妹が兄様の勇姿がかっこよすぎて失禁してますよーだ...」
嘘だ、恐ろしいまでの強さに腰を抜かして失禁までしてしまった。
狂気的すぎる、精霊にあれ程の芸当が出来るなんて...私の持ってるセイレーンも...そう考えるだけで吐き気がした...殺す、何を?、生き物を、数秒前は生きていたものが死ぬ。
これが兄の経験してきた道...。
「う”っ、ぉ”ぇ“」
吐いた、とにかく吐いた。
肉が焦げる臭いが更に吐き気に拍車を掛けてくる。
こんなのって...あり得るんだ。
そこで私は...気絶した。