第一項 [一人の着師]
「ハァ...ハァ...っ、ハァ....
に、逃げ、なきゃ...」
突如現れた魔獣に村が襲われ村人は殺され犯され、家は火を放たれ私の背後には火の海が広がっていた。
「ご、めん...なさい」
妹も、目の前で牙狼に食い殺された...守れ、なかった
必死に走る、森を抜けた先に街がある...どうか、救いを。
「...痛っ!」
背中から、突き刺されるような痛みに襲われ膝から崩れる。
吐き気を催す邪悪な笑い声
「魔獣の次はゴブリンまで...」
恐らく毒矢、脊椎は免れたけれどそのうち毒が回っていずれは死ぬ
「父さん...母さん...サキ...ごめん、なさい」
私も今からそっちに逝く...から、殺されて慰み物にされるか慰み物にされてから殺されるか...どの道ゴブリンが関係する遺体が綺麗な身体であった試しが無かった。
「ごめん...なさい」
産んで、育ててくれた両親への、助けられなかった妹への罪悪感、全てがこの一言に詰まっていた。
...ジリジリと私へ近づき...為す術もなく私は服を剥ぎ取られ全てを諦めかけた時
突然何処からともなく風が巻き起こり...まるでギロチンで首を刎ねられたかのようにゴブリンの首が宙を舞う。
『此処は何処か。』
黒いローブを着た男、フードを目深にかぶり、仮面を着けた...仮面の目から見えた瞳の色はまるで闇をその目に宿したかのように黒くそして底知れない深さを感じた。
『今一度問おう、此処は何処か』
「此処は南西部の森の中...その森の中にあった村がさっき襲われたの」
生存者はおそらくもう居ない、私もそろそろ毒が体内を回って死ぬ...村人は全滅、魔獣に襲われて廃村になる村は珍しくはない、運が無かったと言われればおしまい。
「...悔しいな」
『どういう意味か』
「そのまんまだよ、貴方は旅の人?なら早くこの森から出た方が良いよ...この森には魔獣が居る。多分召喚された上位の魔獣だと思う」
『汝、これを使うが良い』
突然渡された青い液体の入った小瓶
『汝、少し痛むが我慢せよ』
一度刺さった矢を引き抜かれることがここまで痛いのか視界が一瞬暗んだ。
『汝に渡した物は毒ではない、安心して飲むが良い』
恐る恐るでも言われた通り小瓶の蓋を開け飲み干す
身体の痛みが消え矢が刺さった事すら無かったかのように患部は衣服に穴が開いただけになっていた
『汝、汝は生きてその街へ行くが良い...この先の守りにこれをやろう』
短剣、鞘には装飾が施され柄には皮が巻かれている。
「こ、これは...」
『守りにやろう。』
そして村の方向に歩いて行って。
...微かに感じた精霊の跡
「街に行かなきゃ」
........
『ハァ...っ、ハァ...』
頭が割れる、吐き気がする、全身に溶けた鉄を掛けられたかのように熱い。
...ソファーに身を預け悲鳴をあげる身体に少しでもと回復魔法を掛ける。
『副作用だからな...回復は、無理か』
収まらない悲鳴がそれを告げているかのように感じた。
精霊着使いは精霊の封印された繊維で編まれた精霊着を使い自分の身体に精霊を憑依させ精霊の力を使う。それは上位の者になれば扱うことのできる精霊は上級になる。しかし、下位の者が上級の精霊着を扱うと精霊に飲み込まれる可能性があった。
『火・水・草・光・闇 五元全ての頂点に立つ精霊【魔王】それを封印した精霊着...自分が扱うには力が強...すぎる。』
「しかし汝に残された道はただ一つ、我が力を使う以外に汝の命を繋ぐ事は不可だ、それを忘れるな。」
頭に響く魔王の声、僕は自分の命を繋ぐ代わりに精霊着に封印された魔王の力を使い世界を崩壊させる契約をした。...
薄れゆく意識の中で今日、森で会った彼女が心配になった。
『無事に街に居て欲しいな』
ソファーを取り巻く眷属の悪魔を下がらせそのまま目を閉じ、眠りについた。