第28話 航海に危険はつきもの
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突然だけど俺は今船に乗っている。甲板からは穏やかな海原が一望できて、頬を撫でる潮風は残暑で火照った体に気持ちがいい。そして磯の香りが鼻腔をくすぐり、船が掻き分ける波の音は耳朶に優しい。まさに五感で海に包まれている、素晴らしいバカンスではないか。
縄でぐるぐる巻きにされてさえなければな!
周りには日焼けした浅黒い筋骨隆々な男達が俺たちを見張っていたり、あるいは手際よく船を操作している。頭にはバンダナを巻き腰には曲刀、その風体はまさにザ・海賊。
どうしてこうなった……。思い返すも俺は何も悪くねえ! いやほんとだよ?
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女神からの啓示を受けて数日後、俺たちは予定通り王都エルフィアを出立して南大陸西端にある港を目指した。目的はその港から出ている南西大陸への定期船に乗るためだ。その港、アルカという町にあるアルカ港までは乗合馬車で直行便がない。というのも馬車で一ヶ月ほどの距離があるからだ。なので普通ならば馬車を乗り継いでいかないといけないところだが今回は様子が違った。王都からはアルカまで商人の馬車がひっきりなしに出ており俺たちはそのうちの一つに護衛として乗せてもらうことができたからだ。これには主にヘレナのEランクが功を奏したと思われ、俺だけだったら厳しかっただろう。というかこういう場合、ロイの護衛をしながら更に護衛任務を受ける二重護衛のような感じになってしまうため許されるのか若干疑問に思わなくもなかったが、ヘレナが言うには目的地までの足を用意しないロイが悪いとのこと。
そして王都から商人がアルカへ続々と向かっていた理由は、恐らく出発前にロイが言っていた情報と関係があるのだろう。
「これは私の独自の情報筋から仕入れた話なんだけれど、どうも南西大陸の情勢がきな臭いらしい。現在南西大陸では保存食などの物価が急に上昇していて、フィアット王国と国交のある国々は大枚をはたいて物資をかき集めているという話だ」
一体独自の情報筋とは何なのかよくわからなかったのだが、あえて独自とか言っちゃうぐらいだし大して隠さなくてもいい情報筋なのかもしれない。とまあそんなやり取りがあったので商人が多いことは不思議には思わなかったのだが、南西大陸に渡ったあとは十分な注意が必要だな、なんて考えていた。だが注意すべき危険は大陸に渡る前に既に存在していた。
アルカ港ではそこかしこで慌しく船に貨物が運びこまれて活況というかもはやてんやわんやの大騒ぎな状態であった。船は大型のキャラック船のようなものから少し大きいヨット程度のものまで様々で、各所から総動員されていることが伺える。そんな港中を筋骨粒々の船員や荷運びの奴隷が駆け回る中で情報収集するような度胸もない俺は、大して聞き込みをしなかった。ヘレナもロイも、こういったむさ苦しい空気は苦手なのか同じように聞き込みをすることはなかった。
恐らくこれがいけなかった。
いざ定期船に乗ろうという段階で、定期船すらも貨物船として使われていることが発覚した。そのため旅客は定期船に限らずそこらの貨物船と交渉して乗せてもらうことになっているというではないか。ここでちゃんとした船を選んでおけばよかったのだが、交渉相手は慌しく働くむさ苦しい男達なので、あまり絡みたくないからとつい適当に選んでしまったのだ。選んだ船は速度のあまり出ない小型帆船の上、武装もケチって大して積んでいない船だった。もちろん平時なら特に問題ないのだが、このとき俺たちが情報収集を怠ったため知らなかった事情の下では大変危険な船なのだ。そう、この海域に海賊が出るという情報さえ手に入れていればなぁ。
そして案の定、ちんたら海を進んでいた船は途中にあった小島の入り江に隠れていた海賊船にロックオンされてあっさりと追いつかれ今に至るというわけである。
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「恐らくこれは、私たちが渡ろうとしていた国、ガレ王国と開戦の噂がある賢人王国の仕業ではないかと思うんだ」
共に縛られたロイがこちらに顔を寄せて声を顰めながら言う。何だその賢人王国ってのは。国民が賢いのか?
「くっくっ、そんな馬鹿な。伝説上の賢人が建てた王国だからそういう名前がついているんだよ。本当かどうかは知らないけどね」
「理由を聞くとつまらないものだね。それで賢人王国の仕業っていうけど、奴らどう見ても軍人には見えないんだが、海賊と繋がってるとでも?」
「いや、恐らくただの荒くれ者に対して、フィアット王国とガレ王国の間での貨物船の略奪を許可しているんだと思う」
ああ、なるほどそういう話は聞いたことがあるな。確か私掠船っていうんだったか。って、これ奴らの正体が何にしても俺たちは奴隷落ちじゃないのか。
さすがにもう奴隷にはなりたくないんだけどなぁ。さて、どうしたものかね。