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第27話  女神との会話

いつも読んでいただきありがとうございます。

拙文ではありますが、ブックマークや感想、評価をいただけると励みや参考になるのでできたらお願いいたします。

また誤字脱字並びに気になる点等ありましたらご一報頂けると幸いです。

 女神テレジアの髪は美しい白銀に輝いている。拘束されている体が辛いのか、彼女が僅かに身じろぎをするたびにその髪が揺れてキラキラと星が瞬くような煌きが目を引き、ついつい見入ってしまう。そして目線は髪の隙間から覗く豊満な胸元へと吸い寄せられる。


「はっ!?」


 いったい俺はどれくらい女神様の胸元に刻まれた深淵を覗き込んでいたんだ。

 これが魔法か、なるほどこれはとても恐ろしいものだ。

 というか女神様は俺が見つめている間に一言ぐらい発してくれてもよかったのではないだろうか。そうしたらこんな長時間ガン見するようなことはなかったのに。そう、俺が悪いのではないのだ。

 ゴホン、と咳払いをしてとりあえずお茶を濁し、気になる点を質問していこう。


「えー、あの、まずベイオールってどなたですか?」

「ベイオールは私を封印し、更に私の代行者である天使達を殺害しその力を得て新しき神を名乗っている者です」


 女神テレジアは天使のことを悼んだのか一瞬目を伏せたが、すぐにまたこちらに優しくも強い眼差しを向けてくる。


「彼は6000年ほど前に繁栄した文明の、一国の王だったのです。当時の魔術、彼らは魔導科学と呼んでいたそれは高度に発展しており生活レベルは……そうですね、貴方の元いた世界をも上回る水準でした。ですがそこに世界を巻き込む戦争が起こり、力を求めたベイオール達は遂に神をも利用することを考えました。そして彼らにはそれを実行するだけの技術と知識もあったのです。もっとも、強大な力を持った国々の戦争は結果として彼らの文明すら破壊し、人という種そのものの存亡すら危ぶまれるところまで追い詰められました」

「なんと言うか、今では考えられない話ですね」


俺がそう言うと、女神は軽く目を瞑って首を振る。


「あながちそうとも言えないのです。彼は私の力を奪うことには失敗し、封印するにとどまっています。そのため彼が使えるのは天使の、代行者の権限のみ。なので彼は完全な権限を手に入れることを目指していますが、そのためには高度な魔術を使える人の助けが必要です。だから、彼は現在の文明の水準を押し上げようとしています。恐らく北東大陸の魔導帝国を狙っているのでしょう。彼の思惑通りに事が進めば再び世界には強大な魔術の力が蘇ることになってしまうかもしれません」

「あの、もしかして女神様が俺をこっちの世界に呼んだのって……」

「ベイオールの企みを阻止してもらうためです」

「ごめんなさいできません」


 そんなん無理だろぉ!

 俺なんてただの一般人だぞ。日本でもただの清掃員で特別な知識も経験もないし、こっちでもちょっと剣が使えるだけのただの子供なんだ。それがどうして神と戦えるっていうんだろうか。


「いえ、貴方という存在自体が大切なのです。ベイオールは天使の権限によって世界を監視して、それに基づいて計画をたてています。ですが貴方はこの世界にとっては異物であり彼には把握できません。異物の対処は本来の神である私の権限ですから。なので貴方という存在そのものが彼の計画を狂わせる要因たりえるのです」


なんだよそれ。つまりそれは誰でも良かったってことか。そりゃ確かに凄いことはできないかもしれないけど、ここまで何も期待されていないのは少し腹が立つ。


「何故、俺なんですか」

「ライト王国にて、向こうの世界で貴方がいた場所の人間を対象に勇者召喚が行われました。私には人をそのまま呼び出す力は残っていませんが、それに魂を紛れ込ませるぐらいならできます。丁度召喚があったタイミングで貴方の魂が肉体から抜けたのを見つけたので、勝手ながら召喚に巻き込ませてもらいました」

 

 どういうことだ。俺が清掃員として働いていた大学から召喚された人がいる?

 俺が階段から落ちて死んだタイミングで召喚が起こった?


「召喚の対象を選ぶのは女神の権限です。なのでベイオールはかつて私が最後に設定した対象を動かせないため、貴方がいた大学という場所が召喚対象に選ばれ続けているのです。勇者とは本来、この世界を作ったばかりの頃に文明を芽生えさせるため、様々な世界から学識あるものを呼び出すためのシステムでしたから。強力な加護を与えるのはこの世界で生きてもらうためのおまけみたいなものです」


 女神が言うにはこの世界と他の世界とは時間の流れが異なるらしく、様々な世界の様々な時代の人々を呼び込んでこの世界の文明を発展させてきたらしい。いや、その結果がベイオールに繋がっているのだから勇者システムは完全に失敗だろう。まあわざわざ魔術のない世界から人を呼んでるのは、魔術が発展しすぎるのを警戒していたのかもしれないが。


「ベイオールは天使の権限を用いて勇者に予言を与えることができます。彼は勇者にかつての文明の遺跡を発掘させ、魔術の発展を加速させようとしています。現に、今の魔導帝国は勇者が切り開いた大陸にあったダンジョン内の遺跡を発掘して、そこから持ち帰られた遺物を研究したことが建国の礎となっています」


 なるほど、勇者はベイオールの手先とな。

 すると、女神が話を変えて神子の話が出てきた。俺の幼馴染のフラムとルーク、彼女らも神子だったな。その神子というシステムも魔術が発展しすぎるのを妨げるために存在するらしい。


「魔術が発達した地域は魔力が濃くなります。なので相対的に魔力の薄い地域に神子が発生するように設定して、魔術主体の国が強くなりすぎないよう設定してあります。そのため現在は西側諸国に発生率が高くなっているのです」


 とのこと。


「今後五十年以内に再び勇者召喚が行われる可能性が高いですので、貴方にはできることなら神子と協力して勇者が遺跡を発掘するのを阻止してください」


 俺が単独で阻止するのは不可能だろうから、そうすると神子……フラムとルークを説得して協力させるしかないのか。フラムは可能性があるとしてルークは無理だろうな。あいつ男には手を貸さない主義だから。

 というか五十年って俺生きてないんじゃ? あ、生まれ変わってってことか。そうだ、そもそも何で俺はこんな転生を繰り返してるんだろうか。


「あの、俺が転生を繰り返す理由って何なんでしょう」


 俺が尋ねると、女神は目を逸らして顔を伏せた。え、何その反応。


「貴方の魂はこの世界の異物だといいましたね。魂は本来、肉体が死ぬと冥界へ送られ、そこで記憶や意思を洗い流して綺麗になったものをまた現世へ送るのです。ですが、貴方の魂は異物なので冥界に入れずそのまま現世に送り返されてしまいました。これが転生の仕組みです」

「記憶が洗い流されていないということですか」


 あまり異物を連呼しないでほしいんだけど。悲しくなる。


「そうです。普通なら外から来た魂には加護を与えて世界と馴染ませるのですが、貴方にはそれができませんでした。そして世界は異物を排除しようと動くため、貴方の周りでは魔物の動きが活発になったり、疫病が蔓延したり、それらによって住む場所を失ったものが盗賊になったりといったことが起こりやすくなっています」


「いままで俺がすぐに死んだのは、俺の魂が異物だからということですか」


「そうだったりそうではなかったりです」


 普通に死んだのもあったのか。


「いずれにせよ過酷な環境に置いてしまったことに関しては本当に申し訳なかったと思っています。ですが、貴方の魂は長い年月をかけて少しずつ世界に馴染んできていますし、妖精女王の加護を受けて更に馴染んだと思います。なので貴方を排除しようとする力は小さくなったと考えていいでしょう。ただ、世界に馴染むということは魂が冥界に入れるということですから、次に死んだらもう記憶を保持して生まれ変わることはできないかもしれません。ですから、次の勇者召喚のためには更身で寿命を延ばして対応してください」


 この女神様結構言いたい放題だな。うーん、女神にとっては人間なんて駒みたいなものなのかね。ただ、女神様の言葉に逆らう理由もないし、ここは従っておくしかないな。


「わかりました。神子を説得し勇者を妨害してベイオールの思惑を阻止してみます」

「はい、頑張ってくださいね。期待していますよ」


 そういって女神は美しく微笑んだ。だが大して期待していないことはもうわかったので微笑が営業スマイルに見えてしまう。すると段々と視界がぼやけてきて、女神の整った顔もよく見えなくなってきた。体も上手く動かせず、意識が遠のいていくような感覚に襲われる。


「忘れていましたが、貴方の両親はライト王国に奴隷としています。買い戻す資金を準備するのがよいと思います」


 もうほとんど俺の意識が消え去る間際、女神の声が遠くに聞こえた。


 そして、気が付くと俺は手を胸の前で組んでおり、目の前にはさっきまで鎖に繋がれていた女神様そっくりの石像がある。周りを見ればそこは王都エルフィアの旧神教の教会だった。

 そうか、対話の時間が終わったのか。

 俺はゆっくりと立ち上がる。それなりに長い時間女神と話していたので体が固まっているかと思って警戒したが、まるで跪いてからほとんど時間が経っていないかのように滑らかに立ち上がることができた。教会のガラス窓越しに見る太陽の位置もさほど変わっていないようだし、もしかしたら現実では一瞬の出来事だったのかもしれない。


「……とりあえず宿に戻るか」


 女神から聞いた話やフラム、ルークのこと、そして両親のことに加えてこれからのことなど、整理すべきことがありすぎる。そう思いながら、教会を後にした。

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