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第25話  ヘレナの一日

いつも読んでいただきありがとうございます。

拙文ではありますが、ブックマークや感想、評価をいただけると励みや参考になるのでできたらお願いいたします。

また誤字脱字並びに気になる点等ありましたらご一報頂けると幸いです。

「あら、あなたたち私に何のようかしら」


 朝、起床してから着替えていつもの金ぴか鎧を身にまとい朝食を摂ったら、もうヘレナのすることはなかった。いつの間にかアルブレヒトも出かけていたし、ロイも何やら用事があるとかで出かける準備をしている。仕方ないので王都を見て回って過ごそうかと宿の外に出て数歩で男三人組に絡まれた。何か騒いでいるがヘレナはこの後見て回る王都の場所に思いを馳せていて聞いていない。


「おう、ちっとは聞けや。姉ちゃん自分の立場わかってるのか?」


 男の一人ががしっと腕を掴んでくるが、その掴んだ腕がびくともしない。それもそのはず、ヘレナは五回更身(レベル5)していて力は圧倒的に上なのだから。残念ながら武器を扱うセンスも弓の才能も皆無だが、力だけはある。なので腕を掴んできた男を他の二人の方へぽいっと投げ捨てれば、そこには絡み合う男達が目を回しているというなんとも言いがたい状況が完成し、ヘレナは興味なさげにその場を後にする。その数分後に宿を出てきたロイがその状況を見て非常に悩んだのはまた別のお話。


 それからヘレナは王都を見て回るが、もう何度も来ている街なので目新しさも無く退屈しのぎにはやや物足りない。


「暇ね、森に狩りにでも行こうかしら」


 どうにも退屈なのでヘレナは冒険者らしく森に狩りに行くことにした。依頼を受けないのは冒険者らしからぬ行動ではあるが、彼女は王都の冒険者ギルドが嫌いなのであえて行かなかったのである。というのも、王都に集まる冒険者たちは貴族のお抱えになることを目的としている者が多く、出世することだけを考えて自分の実力を過信したり、あるいは実力を誇張したりするような輩ばかりだからだ。そういうわけで彼女は一人で王都近郊の森へと入って行く。




 ヘレナが腕を振り回すと、鎧に噛み付いていた巨大なネズミ、フォレストラットが猛烈な勢いで地面に叩きつけられる。叩きつけられたフォレストラットはそれだけで絶命しており、彼女の周囲には同じような死に方をしたフォレストラットが十体ほど転がっていた。もちろん彼女は愛用している剣を持ってはいるのだが、フォレストラットの死体には剣による傷は一つもついていないことから彼女の剣が当たっていないことは容易に推測できる。

 

「ちょっと歩きすぎたかしら。あら、あれは」


 彼女が森に入って数時間が経った頃だろうか、少しずつ移動していたらいつの間にか街道の方へと出てきてしまったようだ。だがそこで街道を見渡してみると、馬車が止まっているのが見えた。ただ止まっているだけなら彼女もそこまで気にはしなかったかもしれないが、その馬車に二十匹ほどのオオカミがまとわりついて、周囲には血がながれているのだからさすがのヘレナも放ってはおけない。常人を超える脚力で一気に馬車の方へと駆け出す。


「よろしかったら加勢するわ」

「なんと、助太刀感謝します」


 馬車の周りには四人の鎧を身に纏った男が馬車を守るようにオオカミと戦っているが、四人は既に鎧の間から血を流しており深手を負っていることが伺える。更に周りには三人の鎧の男が倒れていて出血量からもはや絶命しているようだった。オオカミの魔物は頭部と同じぐらいの長さの牙が左右一対生えていることからサーベルウルフと呼ばれる物のようだった。普段は森の奥深くにいる強力な魔物だったはずだが何故こんな浅いところにいるのか疑問ではあるが、ヘレナはそのことを考える前にまず目の前のサーベルウルフたちを倒すことにする。

 愛用の剣をサーベルウルフに向かって大きく振り下ろすと、それは見事に外れてヘレナに隙を作る。サーベルウルフたちはそこを好機と捉えいっせいにヘレナに襲い掛かる。そんなサーベルウルフたちを振り払うかのようにヘレナが体を捩ると、それだけでサーベルウルフ達は吹き飛ばされて街道脇の木にぶつかったり、地面に叩き付けられたりして動かなくなった。それを見た鎧の男たちは、初めに落胆あるいは心配な顔を、次に諦めを、そして驚愕からの呆然へと目まぐるしく変わっていった。

 そうしてヘレナが同じようなことを数度繰り返す頃にはもう、周囲に動けるサーベルウルフは残っていなかった。鎧の男たちがヘレナに口々にお礼を述べていると、馬車のドアが開いて二十歳ぐらいの美しい女性が出てきた。


「私はカーソン子爵家長女のゼシカ・カーソンです。この度は助けて頂き大変感謝いたします。貴女の助力がなければ私の命も危うかったことでしょう。このお礼はカーソン子爵家の名にかけてさせて頂きます」


 馬車を守っていたのはカーソン子爵家の騎士だったらしい。ヘレナも自己紹介すると、ゼシカは優雅に礼をしたのち歩き始めた。というのも馬車を引く馬が全てサーベルウルフに食い殺されてしまいもはや動かすことができないからである。


「あら、ゼシカは馬車に乗っていて構わないわよ。私が馬車を曳いていくから」


 今度はゼシカも含め、ヘレナ以外の皆が驚愕の表情で固まる。その後騎士達は若干かわいそうな人を見るような目を向けるが、命の恩人だけあってすぐに表情を取り繕う。だがそれも、ヘレナが実際に馬車を曳いて見せると再び驚愕の色に染まるのであった。



 そうしてゼシカを乗せた馬車ならぬ人力車が王都エルフィアに到着すると、身なりのいい二十代中盤ぐらいの男性がこちらへ駆け寄ってきた。


「ゼシカ、これは一体どうしたんだ!」


 もちろんこの言葉は馬車を人が曳いていることに対してではなく、騎士達が血まみれで馬車にも血が付着していることに対してであろう。


「お兄様! 私たち街道で魔物に襲われまして。危ないところをこのお方、ヘレナ様が助けてくださったのです」


 ゼシカは馬車から降りるなり男性に事情を説明する。


「そうだったのか。ヘレナ殿、私の妹の命を守ってくださったこと、感謝してもしきれない。どうか礼をさせてもらえないだろうか」

「丁度暇だったし、構わないわよ」


 一つ返事で了承したヘレナは、王都にあるカーソン子爵家の屋敷に招かれた。


 カーソン子爵家の屋敷はそれほど大きくはないが小奇麗に纏まった感じのするものであった。屋敷の中庭には建物と様式の異なる祠のようなものがあって目を引いたので尋ねてみれば、何代も前の当主の頃、妖精が当主を助けたことがあったためそれを祀っているらしい。ヘレナには、妖精と関係の深い精霊達がはしゃいでいるのが見えるので、もしかしたら本当に妖精と関わりがあるのかも、と頭の片隅で思ったが、興味もないのですぐに忘れてしまった。

 屋敷の当主であるカーソン子爵と長男は領地にいるので不在だったため、先ほどゼシカを出迎えた次男のリオネルとゼシカがヘレナをもてなす。


「このシチューはかなり香味野菜をふんだんに使っているわね。それにこのポークソテーも絶品だわ。こんな美味しい料理は久しぶりよ」

「喜んでいただけてなによりですわ。ヘレナ様、今夜はこちらの屋敷に泊まっていってくださいね」


 その晩、ヘレナは肌触りの良いリネンのシーツが敷かれた柔らかいベッドで幸せそうに眠った。




 そして一夜明け、リオネルとゼシカは引き止めたもののヘレナは屋敷を出ることを伝えた。


「もう行ってしまわれるなんて残念です」

「これしきのことで恩に報いることができたとは思えないが、私たちの誠意と思ってせめてこれを持っていってくれ」


 リオネルがヘレナに渡した袋の中には金貨が二十枚ほども入っていた。


「あら、ふふふ。ありがたく頂くわ。美味しいご飯に素晴らしいベッド、それにこの大金なんて、もうお礼としては十分よ。それじゃあ、元気でね」


 颯爽と去っていくヘレナの後姿が見えなくなるまでカーソン姉妹は見つめ続けた。


「不思議な方でしたね」

「ああ、だがこちらに気を遣わせない雰囲気を持っていた。きっと今まで数え切れないほどの人の命を救ってきた上位冒険者なんだろうな」





「お金が貰えてよかったわ。Eランクの稼ぎだと色々もの足りないもの。ってあら、鎧が傷付いちゃってるわね……修理に出しちゃおうかしら」


 ヘレナがやってきたのは鍛冶屋街。そこにある中でも腕利きで評判のドワーフが営む鍛冶屋に入る。


「お前さんこりゃ総オリハルコンの鎧か! こんなバカなもんどこで作りやがったんだ全く。これを修理するとなったら金貨二十枚は用意してもらわんといかんぞ」

「それなら丁度ここにあるから大丈夫よ」


 ヘレナはドワーフの前のカウンターに先ほど貰った金貨の袋をポンと置く。それを確認したドワーフはぐぬぬ、といいつつも修理を請け負うことを承諾した。


「三日で仕上げてね」

「はあ三日だって? バカ言えってんだ! っておい待てまだ話は終わってないぞ!」


 颯爽と去っていくヘレナの後姿が見えなくなるまで、ドワーフは恨めしそうに見つめ続けた。


「さて、そろそろ宿の方の様子でも見に帰ろうかしら」


 そうしてヘレナの長い一日……いや、二日は終わったのであった。

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