表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/35

第23話  勇者の伝説と奴隷商

拙文ではありますが、ブックマークや感想、評価をいただけると励みや参考になるのでできたらお願いいたします。

また誤字脱字並びに気になる点等ありましたらご一報頂けると幸いです。

 翌朝、早朝に日課となった訓練として少し剣を振ってから俺は宿を出て大通りを歩いている。歩きながら魔力操作の練習もしているが、もはやガムを噛んだりといった軽い暇つぶし感覚になっている。成長の兆しは一向に見えないが。そんな風に歩きながら目的地を目指すが、まだ朝食を食べていないので道すがら屋台などを覗いたりしている。さすがにローリアとの行き来が活発なだけあって文化的にはほとんど向こうと変わらずそんなに目新しいものはないが、時折見たこともない料理や食材を目にすることもあってそいうものを少しずつ買って朝食代わりにする。


「うん、これも中々美味しいな。やっぱ焼きたてがいいよね」


 エルフィアの屋台の中でも、北の港への街道があるおかげかローリアではあまり見なかった魚介類が目を引き、目刺のような干し魚を焼いたものや魚のすり身を焼いたものなど、元日本人としてはそれなりに楽しめる。特に美味しかったのは干し魚のフライを炙ったパンで挟んだもので、パンも魚も固いが某フィレオフィッシュ何とかを髣髴とさせた。さすがに港までそれなりの距離があるので鮮魚はないのが残念だが仕方ない。冷凍技術でもあればいいのだろうが冷凍庫がないのは当然として、魔術も貴族に独占されていて魔術師はみな国の高官になっているようだから魔術がこんなところに活かされる事はないのだろう。

 それにしてもこんな風に一人でブラブラするのは久しぶりかもしれないな。王都の賑やかさも相俟ってこれはこれで楽しい。そんな風に思って食べ歩きをしながら市場を眺めていたら、ふと視線の隅に懐かしいような馴染みのあるようなそんな引っかかりを覚えてそちらを見てみる。


「え、これって……」


 そこは通りに並ぶごく普通の露天だった。だが、いろんな作物が毛皮の上に並べられたその片隅にあったのは、紛れも無い米。それも精米されているのか白色に近い。日本で見る短粒米に比べると若干細長いような気もするが、それでも米があることそのものに感動を覚える。そう、これまでどこの国に生まれても目にすることはなかったので、この世界には米は存在しないのだろうと勝手に思い込んでいた。だからこそ、突然目の前に現れたそれに感動を覚えるとともに、もう気にしていないと思っていた郷愁の念が急に湧き上がってきた。初めに転生したころは、前世への未練はなかったけれどこの世界の生活水準の低さから頻繁に日本へ想いを馳せたこともあった。だがそれも転生を繰り返すうちになくなっていき、それはこの世界に慣れたからなのだと思っていた。けれど、今ここで米を見ただけで湧き上がってくる胸を締め付けるような寂しさで気が付いた。ただただ諦めて忘れようとしていただけなんだと。そうじゃないとこの辛く厳しい世界に耐えられなかったから。そこに考えが至るともう涙が溢れるのをとめられなかった。気づけば涙が頬を濡らして口に入りちょっとしょっぱい。


「お、おいボウズ、どうしたんだよ」


 そんな俺を見て米を売っていた商人が戸惑ったように聞いてくる。そりゃそうだよな、急に目の前で泣き出したら何事かと思うのは当然だ。営業妨害もはなはだしい。


「……すみませんでした。あのそこにおいてある白い穀物は初めて見たのですがフィアット王国で栽培されているんですか?」

「あ、ああ。そいつはコメっていってな、少し離れた山の陰になった村で栽培されてるのよ。かつての勇者タロウ様が見つけたのをその村で栽培するようにしたって言われてる。あんまり人気がないからほとんど流通してないけどな」


 は? 勇者?

 勇者といえば、この世界に来てから転生するたびにその時々の親が語ってくれたおとぎ話を思い出す。たった一人で竜の王を倒したり、七色の魔法を使ったり、一人で大陸を開拓して国を作ったりと完全に人間やめてるレベルの超人たちの話だから、てっきり想像上の人物かと思っていたが実在したのか。

 というかタロウがコメ育ててるって、それ日本人じゃないのかね。もしかしたら俺以外にもこの世界に来た地球人ってのがいるのか。そう思って少し露天商から話を聞いてみると、どうやら勇者タロウはあらゆる魔法を使いこなす才能と無限の魔力で世界各地を旅しながらダンジョンの奥深くに潜む災害級の魔物を倒して回った偉人らしい。それってもしや、がっつりチート貰っての異世界転移ってやつじゃ……。

 まあいいさ、一般人と化している俺は素直に先人のおこぼれに預かっておきますかね。俺はそのまま露天商と交渉して不人気だというコメを安く譲ってもらった。分量としては一升ぐらいだろうか、まあ味見程度には十分だろう。

 腹もそこそこ膨らんだし、収穫はあったしで朝の散歩は大成功といえる。それに丁度太陽も昇ってきて良い時間になったので俺は露天商に軽く挨拶してそのまま次の目的地へと行くことにする。


 目の前にはレンガ造りのご立派な建物。看板は小さく控えめで、わかる人だけ来れば良いというスタイル。俺もたどり着くのに五回ぐらい通行人に道を尋ねるはめになった。

 そう、やってきました奴隷商館。目の前のいかにも怪しげな、それでいて決して汚くはなく、むしろ清潔な印象すらある建物こそ奴隷を売りさばく商人が構える店舗である。この王都エルフィアには二店舗あるらしいのだが、もう一店舗はどうも貴族街という貴族の屋敷が立ち並ぶあたりにあるらしく俺では入れないのでこちらの庶民向けの店舗にやってきた。

 とはいっても、異世界転生といえば奴隷ハーレム、というわけでやってきたわけではもちろんない。というか俺もこういうところに商品として並んだことのある身としては奴隷の売り買いは避けたいところだ。それにお金も無いしね。俺が来た理由は両親を探すためだ。俺と一緒に奴隷に落ちた両親がもしこの南大陸へ売られてきているなら、ここを経由している可能性が高いため一応当たっておく。もっとも、恐らく両親は計算と店舗経営ができる成人というこの世界では割と有能な人材なのでライト王国内で売り買いされていると思われるためここに来たのは保険のようなものだ。


「ごめんください」


 時間も有限なのでさっさとドアを開けて中に入る。すると身なりのいい四十代頃の男が手もみをして現れた。こいつが奴隷商だろう。


「これはこれはようこそ……ってなんだ子供じゃないか」


 発言の後半は小声で呟く程度だったがそれでもバッチリ聞こえたぞおい。まあ貴族の子弟なんかは貴族街に行くだろうし、俺の外見もとても金を持っていそうには見えないだろうから仕方ないのだが。


「すみません、少しお訊ねしたいことがありまして。キッシャとアバドンという男女の名前に聞き覚えは無いでしょうか」

「はあ? あー知らん知らん。奴隷を買うつもりがないなら帰ってくれ。おい誰かおらんか、コイツを外まで連れて行ってやれ」


 奴隷商がそういうと、ガタイの良い男が現れて俺を小脇に抱えて外に放り出しやがった。クソッたれ、これだから奴隷商ってのは嫌なんだよ! もちろん売られた経験からの私怨も多分に入った見解ではあるけどね! 彼らとしてはこんな金も持ってなさそうな子供の相手をするのは時間の無駄であろうこともわかるけど、それでも腹が立つものは仕方なかろう。

 と、そこそこイライラしてしまったが、とりあえずは情報なしか。奴が真面目に答えてくれたとは思えないが、これ以上ここで何かを聞きだすのは無理だろうし諦めてライト王国へと行ったほうがいいだろうな。そう、自分を納得させて俺は奴隷商館を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ